表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/61

第46話 今迄お世話になりました

「本当だな?本当にこの城から出ていくと言うのだな?」


叔父は念押ししてくる。


「ええ。本当です」


しかしジークハルトが言った。


「お待ち下さい、伯爵。相手は狡猾な魔女です。信用に値しない。今すぐここを追い出すべきです」


…まさかジークハルトのような人間に『狡猾な魔女』と言われるとは思わなかった。むしろ彼らのほうが余程狡猾な人間ではないだろうか?


「うむ…確かにそうだな」


そして叔父は私を見ると言った。


「ならぬ、フィーネ。今すぐこの城を出るのだ。一刻も早くこの城を出て…二度とこの地に戻ってくるな!」


「…分かりました。そこまで仰るのであれば出ていきます。もう荷造りは済んでおりますので」


私は自分の部屋を振り返った。視線の先にはトランクケースが置いてある。


「ああ、そうだ。この城に居座る汚らわしい魔女め…さっさと去れ!そして二度と我らの前に姿を現すなっ!」


ジークハルトは吐き捨てるように言う。


「…」


無言でジークハルトを見た。いくら私を『魔女』と蔑むにせよ、仮にも元婚約者を相手にどうしてここまで酷い態度を取れるのだろうか…?

すると私の視線が気に入らなかったのか、ジークハルトが殺気を込めた目で睨みつけてきた。


「何だ?魔女…汚らわしい目で俺を見るんじゃないっ!」


そしていきなり剣の柄で私のお腹を殴りつけてきた。


ドスッ!


「ウッ…!ゴ…ゴホッ!」


衝撃で私は激しく咳き込んだ…フリをした。本来ならこんな攻撃、もう止めることも容易いし、無意識の内に衝撃を和らげる事も造作なかった。ただ彼らを油断させる為だけにあえて大袈裟な演技をしたのだ。


「フン…魔女でも痛みや苦しみは感じるのだな」


ジークハルトは冷たい目で私を見下ろす。


「さぁ、フィーネ。荷物を持って今すぐ何処へなりとも行くがいい!」


叔父は私を指差すと言った。


「…はい。分かりました…」


私はフラフラした足取りで部屋に入るとトランクケースを持ち、部屋から出てきた。そんな一連の動きを叔父もジークハルトも無言で見ている。


「さよなら、皆さん。今迄お世話になりました」


一礼すると私は彼らに背を向け、長い廊下を歩き始めた。…城の出口目指して―。




****



 ギィィィ〜…


 城の扉を開けて、外へと出てきた。

私を見送るものは誰一人としていなかった。城を出た私は一度だけ、17年間育った城を振り返った。すると2階の窓からジークハルトがヘルマの肩を抱いて私をじっと見ている姿が目に飛び込んできた。2人は私が自分達を見つめている事に気付くと、これみよがしにキスをする。


「…愚かね…」


私はポツリと言った。今更そんな事をしても、私は何も感じない。ジークハルトが私を憎むのと同様、今の私は彼を心の底から憎悪している。いっその事、今すぐ殺してくれと私に懇願してくるほどに、地獄のような苦しみを彼らに与えてやるのだ。


「待っていなさい…今宵、復讐する為に…私は再びこの城に戻ってくるから…」


そして私はキスを続けるジークハルトとヘルマに笑みを浮かべ、背中を向けると森へ向かった―。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ