第40話 手がかりを求めて
「ヒッ!」
「ば、化物っ!」
「いや、きっとあれは悪魔だ。悪魔に違いない」
廊下を歩く私の姿を見た使用人たちは皆、恐れた様子で好き勝手な事を言っている。
全くこの城に住む者たちは人の事を魔女や化物、挙句の果てには悪魔とまで呼ぶなんて…。
どの呼ばれ方も気に入らなかったけれども『魔女』と呼ばれる方が、一番自分の中ではしっくりした。
「これからどうしようかしら…」
自分の部屋に戻り、今後の事をあれこれ考えるのも良いけれどもあそこにいれば恐らくゆっくりする事等出来ないだろう。叔父達の事だ。再び私の命を狙ってくる可能性がある。今後の計画を立てるには彼らの襲撃は邪魔だ。
誰にも邪魔されずにいられる場所…。
「そうだわ、あそこにしましょう」
偶然入ってしまった不思議な鏡を見つけた倉庫代わりになっていた部屋。あそこには人が立ち入ることは殆ど無い。あの部屋でこれからの事を考えよう。
そして倉庫部屋へと足を向けた―。
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「グレン・アドラー伯爵…私の曾おじい様…」
私はじっと絵の前に立ち、肖像画を見つめていた。吸い込まれそうな青い瞳に漆黒の髪…。恐ろしい程に美しい青年がこちらをみる表情は何所か憂いに満ちていた。
父と母の話しによると曾祖父はアドラー家では稀に見ない程に強力な魔法を使う事が出来、宮廷魔術師として若い頃は王宮に仕えていたと言う。そして曾祖父よりも前の時代…やはり黒髪を持つ先祖がおり、同じように強力な魔法を使用して幾度もの王族の危機を救って来た先代の話も聞かされたことがある。
その為、アドラー伯爵家は王族からの信頼が厚かったはず…なのに、お父様とお母様のお葬式に王家からは何も言って来る事は無かった。
「やっぱり曾祖父の代までしか仕えていないと、王家からは何も言ってこないのかしら…」
本来であれば自分の今の現状を王家に訴えれば助けを得られたかもしれない。けれども私にはジークハルトがいた。成人年齢に達すれば、彼と結婚し…この城の正当なる女城主となって叔父家族には城から出て行かせ、彼と幸せに暮らせると思っていたのに、ジークハルトは私を裏切った。いや、始めから私には嫌悪感しか抱いていなかったのだ。
「本当に私は愚かだったわ…」
溜息をつくと肖像画から背を向け、他に何か役立ちそうなものは無い探してみた。
「何か…今の私に役立ちそうな物は無いかしら…」
正直なところ、私は何故自分の姿がこの様に変化してしまったのか戸惑っていた。叔父家族やジークハルトの前では魔女になったと言い切っていたが、果たして本当のところはどうなのか…?私はこの部屋に偶然入るまで、曽祖父の顔を知らなかった。城の至るところには先代の肖像画が飾られているが、黒髪で強力な魔力を持っていたと言われていた曽祖父の肖像画は何処にも飾られていなかったのだ。
「ひょっとすると…曾お祖父様は黒髪であるという事で、私の様に冷遇されてきたのかしら…」
この倉庫には本棚もある。埃にまみれた棚はもう読まれなくなった本がそのまま収められている。
なにか曾祖父に関する記述の本でもあれば良いのだけれど…。
私は本棚に近付くと…1冊ずつ手に取って中身を調べてみることにした―。