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第39話 犠牲者

「フィーネ」


不意に叔父が声を掛けて来た。


「…何でしょう?」


「ほら、この城のハーブ園で栽培したハーブのお茶だ。お前にだけは特別に淹れたのだ。飲んでみなさい。まずはお茶でも飲んで双方落ちつかなければな?」


「私は落ち着いていますが…」


すると叔母が口を挟んできた。


「あなたっ!この娘にお茶など…!」


「黙れっ!」


不意に叔父が怒鳴りつけると私を見た。


「さ、フィーネ。まずはお茶を飲みなさい」


「…はい、では頂きます」


カップを持つと、私は言われるままにお茶を飲んだ。


「…」


お茶を口にした時、始めに感じたのは妙に苦いと思った事だった。


「…っ」


思わず顔をしかめたその途端―。


ドクン


心臓の音が大きくなった。


ドクン

ドクン

ドクン…


心臓が激しくなり出し、呼吸が苦しくなってきた。そして喉からせり上がって来る鉄のような味。それがたまらず思わず激しく咳き込んだ。


「ゴホッホッ!!」


その途端―。


ツー


口から血が滴るのを感じた。


「キャアアアッ!!」


それを見てヘルマが叫ぶ。


「な、何だっ?!」

「ま、まさか…?」


ジークハルトと叔母が驚きの声を上げる。


「フフ…アハハハハッ…!!」


叔父が狂ったように笑い出した。激しい耳鳴りと頭痛、そして息苦しさに耐えながら私は叔父を睨み付けた。


「どうだっ?!即効性の猛毒を飲んだ気分は!フィーネッ!貴様はもう終わりだっ!」


毒…やはり…。


叔父は私を毒殺するつもりだったのだ。

…けれど、叔父はやはり愚かだ。この身体になった私を毒殺出来るとでも思ったのだろうか?本当におかしくてたまらない。思わず口元に笑みが浮かぶ。


「な、何だ?わ…笑っているのか?ついに毒でやられたか?だがもう遅い。その毒を飲んで助かった者はいないのだからな」


勝ち誇った声で言う叔父。

私は呼吸を整えて、祈った。自分の身体の毒が中和するように…。すると身体の中が一瞬カッと熱くなる。そして次の瞬間まるで清涼な水が身体の中をめぐるように新鮮な血が一気に全身に行き渡るのを感じ取った。


ドクン

ドクン…


あれ程狂ったように波打っていた心臓が元に戻り、激しい頭痛や耳鳴りも嘘のように引いて行った。


「…」


私は無言で口元の血をナフキンで拭きとると叔父を見た。


「そ、そんな…馬鹿な…おいっ!貴様…毒を飲ませたのでは無かったのかっ?!」


震えながら私を見ていた叔父は視線を隣で震えて立っているフットマンに移し、怒鳴りつけた。


「そ、そんなっ!旦那様っ!私は言われた通り…ちゃんと毒を飲ませました!」


「黙れっ!だったら貴様が飲んで試してみろっ!」


叔父は自らカップにお茶を注いだ。


「早く飲むんだっ!」


「…」


ガタガタ震えながらフットマンはお茶を口に入れる。


「ガハッ!!」


突然膝をつくと、喉を押さえた。


「ゴフッ!」


フットマンが咳き込むと同時にビシャビシャと音を立てて大量の血が口から流れ落ち、そのまま床に倒れ込んだ。


「キャアアアアッ!!」


「ウアアアアアッ!!」


途端に叔父たちから悲鳴が起こる。フットマンは血の海の中で激しく身体をビクビク痙攣させていたが…やがて完全に動かなくなってしまった。

その様子を見ていた叔父たちは恐怖に満ちた顔で声を発する事が出来ずにいる。


「どうやら死んだようですね」


私の言葉に全員が一斉に振り向く。


「御馳走様でした。それでは失礼致します」


席を立ち、出口へ向かって歩き始めると叔父の怒声が飛んでくる。


「フィーネッ!な、何故お前は無事なのだっ?!」


私は背中を向けたまま答えた。


「それは私が魔女だからでは無いですか?」


「「「「!!」」」」


それだけ告げると、血なまぐさいダイニングルームを後にした。


全員の息を飲む気配を背中に感じながら―。

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