第38話 魔女の食事
「お前っ!まさか…我らと共に食事をする気かっ?!しかも何だっ?!その料理…まるでディナーのように豪華にしおって!」
叔父が眉間に青筋を立てて怒鳴りつけて来た。
「ヒッ!も、も、申し訳ございませんっ!こ、こちらのお方に豪華な料理を提供するようにと、命じられたものですから…っ!」
食事を運んできたフットマンが怯えながら頭を下げた。私はそんな事は意に介さず、早速運ばれた料理を口にする事にした。
「…まぁ、この焼き立てのワッフル…とても美味しいわ」
フォークでワッフルを口に運び、満足気に言った。そんな私を憎悪の目で見る8つの目。今までの私ならその視線に震えたかもしれないが、今では何とも感じなかった。
「ジークハルト様…嫌よ。フィーネと同じテーブルで食事をするなんて…わ、私はあの女に殺されそうになったのよ」
甘えた声でジークハルトに縋りつくヘルマ。…全く耳障りな声だ。自分から私を湖に突き落とそうとしたくせに。
再び、料理を口に運ぼうとした時―。
「さっさとこの部屋から出ていけっ!そのような恐ろしい姿に成り代わり、我らの食事の席に姿を現すとは…!どこまでも図々しい魔女めっ!」
ジークハルトは罵声を浴びせて来る。私はそんな彼と視線すら合わせずに言った。
「私とここで食事をするのが嫌なら、どうぞあなた方が出て行けば良いでしょう?ここは私の城なのですから」
「な、何だと…っ?!」
ジークハルトは今にも私を切り捨てそうな勢いで睨み付けている。…それにしても知らなかった。彼は穏やかな紳士かと思っていたのに実際の姿はどうだろう?血の気が多く、まるで野蛮人そのものだ。私は…本当に何も知らなかったのだ。皮肉な事に、この姿になって色々気付かされる事になるなんて。
「な、何て生意気な魔女だ…」
毒づいてくる彼の言葉など、どうでも良かった。私は久しぶりの豪華な食事を口にする事が出来て満足だった。
フフ…美味しい。
思わず笑みを浮かべた時、叔母が悲鳴交じりの声をあげた。
「ヒッ!な、何なの…あ、あの娘…こんな状態で笑っているわ…」
「グヌヌ…ッ!」
叔父は今にも血管が切れそうな勢いで私を睨みつけていたが…何かを思いついたのか、隣で怯えながら立っている給仕のフットマンを手招きすると、一言、二言何かを言う。そしてフットマンは頷くと、慌ててダイニングルームを出て行った。
カチャ…カチャ…
しんと静まり返った部屋の中で私のフォークとナイフの音だけが響き渡る。今や食事をしているのは私だけだった。誰もが私を恐ろし気な目でじっと見つめている。
「…何をそんなに見つめているのですか?食事をしないのであれば皆さん、出て行かれたらどうです?」
料理を口に運びながら私は尋ねた。
「な、何よっ!出ていくのは私達じゃない…。フィーネッ!お前よっ!」
ヘルマが叫んだ。
未だ、しっかり抱きしめ合っているヘルマとジークハルト。ヘルマはジークハルトが自分を守ってくれると思っているのだろうか?
その時―
「お、お待たせ致しましたっ!お茶をお、お持ち致しましたっ!」
先程出て行ったフットマンがワゴンに乗ったお茶を運んできた。
お茶…?こんなタイミングで…?
「ああ、ありがとう。丁度喉が渇いておってな…全員に渡してくれ」
「は、ハ、ハイッ!かしこまりましたっ!」
フットマンはカタカタ震えながらお茶を入れていく。私はそんな様子をチラリと見ながら食事を勧め、今後の予定を考えていた。
その時―。