第36話 驚愕する人々
ダイニングルームへ近付くと、入り口で待機していたフットマンが私の姿を見てギョッとした顔で扉の前に立ちはだかった。
「だ、誰だっ?!お前はっ!勝手に城へ入り込んだ曲者めっ!」
「どきなさい」
私はフットマンを見上げた。
「誰がどくものかっ!このお部屋では旦那様達とヘルマ様の婚約者であらせられるお方が朝食を取られているのだ。お前のような不吉な輩が近付かせるものかっ!」
何ですって…?
私はフットマンの言葉に耳を疑った。
「もしかして…ヘルマの婚約者と言うのはジークハルトの事かしら…?」
震える声で尋ねた。
「え?な、何故名前を…?うわっ!!」
フットマンは私から放たれた見えない波動で弾き飛ばされ、扉に叩きつけられた。
ドンッ!
「う…うぅ…」
激しい衝撃で床にうずくまり、呻くフットマンを見下ろした。
「そう…。ジークハルトはヘルマの婚約者を名乗っているのね?」
「…」
しかし、フットマンは返事をしない。答えるつもりはないのだろう。
「まぁいいわ。本人に直接聞くだけだから」
「ま、待て…」
手を伸ばし、必死になって足止めしようとするフットマンには目をくれず、扉を開けようとしたその時―。
「一体何の騒ぎだっ?!」
扉が開かれ、給仕のフットマンが姿を見せた。
一瞬目の前に立つ私を見て驚きで目を見開いたが次の瞬間鋭い声をあげた。
「お前は誰だっ!ここで一体何を…!」
あまりにも目の前で大きな声を上げるので静かにするように願ってみた。すると突然フットマンの口から言葉が出てこなくなった。
「…!!」
フットマンはまるで打ち上げられた魚の様に口をパクパクさせている。
「あら?声が聞こえなくなったわね?あまりにも煩いからこれで静かになったわね?」
にっこり笑みを浮かべてフットマンを見ると、彼の目に恐怖が宿る。
「どきなさい」
声を発する事が出来なくなったフットマンは給仕の仕事をほっぽりだして、恐怖に駆られたかのようにバタバタと走り去って行った。
途端に部屋の中で怒声が聞こえた。
「何事だ!先程から騒がしいっ!」
それは叔父の声だった。私はゆっくりと部屋の中に入っていく。すると部屋の中には大きなダイニングテーブルの前に着席した叔父夫婦にヘルマ…そしてジークハルトがいた。彼らは皆驚愕の目で私を見ている。
「だ、誰だっ!お前はっ!勝手に私の城へ入ってくるとは…何者だっ!」
「お前は誰ですかっ?!全身黒ずくめで気味が悪いわっ!」
するとヘルマが怯えた顔でジークハルトに抱きついた。
「ジークハルト様…怖いっ!」
そんなヘルマをジークハルトは優しく抱き寄せる。
「大丈夫だ、ヘルマ。僕がついている」
そして私を睨みつけると怒鳴りつけてきた。
「早くこの城から出ていくのだっ!」
「…」
しかし私はその言葉を無視し、長いテーブルの隅に着席した。
「叔父様、私もここで食事をとらせて頂きます。文句はありませんよね?ここは私の両親と、私の城なのですから」
そして彼らをゆっくりと見渡した―。