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第22話 誰を信じれば

 一体ジークハルトは何を言っているのだろう?20歳になるまで叔父に私の後見人になっていて貰う?結婚は20歳まで待ってくれと言ってるの?


「ね、ねぇ…ジークハルト…。今の言葉…本気で言ってるの…?」


声を震わせながら尋ねた。


「そうだよ?僕は…君の為を思って言ってるんだ。昨日僕は必死で伯爵に説得したんだよ。フィーネの待遇を元に戻すようにって…その証拠に君は離れからこの城に戻って来れただろう?」


「え、ええ…そうだけど…」


「伯爵はもう心を入れ替えると約束してくれたよ。だから20歳になるまではこのまま伯爵に後見人を続けてもらって…そして結婚しよう?フィーネは僕を信用してくれているよね?」


そしてジークハルトは私を抱きしめてきたけれども…彼の身体から匂う香りに我慢できなかった。


「離して…。ジークハルト様…」


「え?フィーネ?」


ジークハルトが戸惑った様子で私を見た。


「貴方の身体から匂う香りが…我慢出来ないのよ…」


「!!」


するとジークハルトの身体がビクリと反応し、慌てたように私から離れた。


「フィーネ…?香りって…?」


「…」


私はその質問には答えず、彼に背を向けると言った。


「お願い…悪いけど…1人にしてくれる?」


「わ、分かったよ…。それじゃまたね…」


「…」


けれど私は返事をしなかった。背後でジークハルトのため息と、彼が部屋を出ていく音を黙って聞いていた。


バタン…


扉が閉じられた後に…私の目に涙が溢れてきた。思い出した…。ジークハルトの身体についていたあの香りは…ヘルマがいつも好んでつけていた香水と同じ香りだった。


「嘘よね…?ジークハルト…」


何故彼からヘルマと同じ香りがしたのだろう?そんな馬鹿な…偶然だと思いたい。だけど、今のジークハルトは怪しむ点が多すぎる。あれ程私が叔父家族を嫌っているのを知っているはずなのに、私がどれだけジークハルトとの結婚を待ち望んでいたか知っているくせに…20歳になるまで待ってくれと言うなんて…。その上、ヘルマと同じ香りを身体にまとわり付かせている…。


「私は…何を信じて生きていけばいいの…?」


私はいつまでも誰も訪れない部屋で泣き続けた―。



****


ボーン

ボーン

ボーン



気づけば12時を告げる振り子時計の音が部屋に響いていた。


「もうお昼なのね…」


そう言えば私は今朝、朝食を食べていなかった。そして叔父の言葉が頭に蘇る。


『今朝の朝食は期待してよいぞ?』


「何が期待してよいぞ…よ。届けられすらしなかったじゃない…」


ひょっとすると叔父はもう二度と私に食事を提供する気すらないのだろうか?けれど私が厨房に訴えたとしても誰も用意はしてくれないだろう。唯一私の見方だと思っていたジークハルトでさえ、信用しても良いかどうか分からなくなってしまった。


「お父様…お母様…」


馬車事故で2人が亡くなった時…私もあの馬車に乗っていれば良かった。本当はあの日、私も一緒に出かける予定だった。けれどもあの日は体調が優れなかったので私だけは留守番する事になってしまった。母は体調の悪い私を気にかけ、外出をやめようかと考えていたけれども、皇宮からの呼び出しだったので断るわけにはいかなかったのだ。


そして…2人は馬車の事故に会い…二度と帰らぬ人となってしまったのだった―。


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