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第2話 奪われる日々

「その手をお離しっ!」


バルバラ夫人はまるで汚いものにでも触れられたかのように私の手を払いのけると言った。


「いい事?私たちは両親を馬車の事故で亡くし、身寄りを失ってしまった貴女の面倒を見る為にこの城に住んであげているのよ?面倒を見て貰っている身分でつけあがるのではありませんっ!それにジークハルト様は貴女の両親が生前に決めた婚約者。けれど今はその約束は反故されたも同然なのよ!何しろもう亡くなってしまったのだからね?」


「そうよ、ジークハルト様とは家同士の政略結婚の相手なのでしょう?私の両親は貴女の後見人であり、同じアドラー家を名乗る者同士なのよ?だったらジークハルト様の婚約相手は貴女じゃ無くたって構わないわけじゃないの!」


ヘルマはとんでもない事を言って来た。


「そ、そんな…私とジークハルト様は愛し合って…」


「何が愛し合ってよ。ジークハルト様は私に言ったわ。フィーネの様な黒髪女は見ていると気がめいって来る。やっぱり私の様な金髪の女性がいいっておっしゃってたわ」


「う、嘘よ…そんな話…」


声を震わせながらヘルマを見上げた。しかし、もうバルバラ夫人もヘルマも私の事を相手にもしない。


「ヘルマ。ほら、こんなところで余計な時間を使っている場合じゃないわよ」


「ええ、そうね。お母さま。ジークハルト様をお待たせしてはいけないわ」


そして2人は足早に私の部屋を去っていく。お母さまの形見のネックレスとお父様からの最後のプレゼントの青いドレスを奪って…。


「待って下さいっ!返してっ!」


後を追おうと慌てて立ち上がった時、右足に激痛が走る。


「うっ!」


あまりの痛みに立つことが出来ない。そ~っと足首の様子を見ると赤く腫れている。


「突き飛ばされた時…怪我をしてしまったのだわ…」


ぽつりと呟き、今度は涙がハラハラと流れ落ちて来る。


お父様…お母様…どうして私を置いて死んでしまったの…?こんな事なら私もあの日、馬車に乗っていれば良かった。そうすれば家族3人で一緒に死ぬことが出来たのに。


今の生活は私にとって、はっきり言って地獄だ。持っている物を全て奪われ、私に親切にしてくれた使用人たちは全て辞めさせられた。今は叔父夫婦と従妹のヘルマの言う事を聞く使用人しか残されていない。


そして私と同い年の婚約者であるジークハルト・ローゼンミュラー。

その彼すら、私は奪われようとしている。



頭の中に先程のヘルマの言葉が蘇る。


『何が愛し合ってよ。ジークハルト様は私に言ったわ。フィーネの様な黒髪女は見ていると気がめいって来る。やっぱり私の様な金髪の女性がいいっておっしゃってたわ』


「嘘ですよね…?ジークハルト様…」


顔を覆って、床にうずくまったまま私は泣き続けた―。

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