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「放課後」プレゼント探し

お題「放課後」

ひろし視点

『たくみが最近おかしいの!』


 休憩時間にゆいこから届いていたメッセージに、俺は頭をかかえた。


『てことで、今日の放課後、付き合ってね!』


 その文面を見て、俺はため息をつきながら頭を掻くしかなかった。

 ゆいこに気づかれるなんて、らしくないことするからだ、たくみ。心のなかで毒づく。


 ゆいこの誕生日に何か送りたい、と相談を受けたのはつい最近。それさえ俺は目を丸くした。

 女の子の扱いなんて俺よりよっぽど慣れているたくみが、わざわざ俺に何を聞くのかと問えば、


「女の子っていうかさ、ゆいこに喜んで欲しいんだよね」


 その言葉は、新鮮な驚きと、小さな胸の痛みを伴って俺にささった。


 考えすぎてよくわからなくなる、と頭を抱える彼に、さりげなく本人に聞くのはどうかと提案したのは俺だ。たくみはそれをどう実行したか知るすべはないが、このゆいこからのメールが答えなのだろう。


「怪しまれてるぞ……」


 さて、どうしたものだろうか。ゆいこへの言い訳をいくつか考えながら、放課後を迎える。


「ひろしっ!」


 そしてゆいこの行動は早かった。放課後になるやいなや、俺をあっという間に連れ出した。手際のよさは、まるで手品師だ。


「今日これから、たくみを見張ってみようと思うの!」

「……はあ」


 やはりそうなるか。俺はどうしたものかと頭を巡らす。変に反対すれば、ゆいこは一人でもやるのだろう。それなら味方と思わせておいて、たくみのフォローをするのが妥当か、とおとなしくついていくことにする。隙があればたくみに連絡したいが、そういうところに目ざといゆいこにバレずに伝えられるほど、俺も器用ではない。


 そして、向かったのは三人でも良く訪れるショッピングモールだ。たくみはすぐに見つかった。雑貨屋の前でじっと中を眺めている。


「あそこ」


 ゆいこがまるで刑事ドラマに出てくる尾行のようにぴたりと看板の影に隠れる。町中ではともかく、ショッピングモールではむしろ目立つ。


「前にね、ここでたくみに会って声かけたら逃げちゃったんだよ! 怪しくない?」

「……ああ、そうかもな」


 なんなら、今のおまえの方が怪しいよ。

 たくみとは十分距離があるというのにひそひそと話すゆいこに、ため息まじりに指摘する。


「それより、それは目立つんじゃないか」

「えっ、でも、隠れないと見つかっちゃうじゃん!」

「こういうところでは、むしろ堂々といた方がいい。ほら」


 手を差し出すと、びっくりしたようにこちらを見上げるゆいこ。


「手でも繋いでれば、カップルに見えて自然だろ。はぐれないし」

「かっ、」


 一瞬にして頬を真っ赤に染めるゆいこ。手を出したり引っ込めたりするしぐさを何度か繰り返すゆいこの手をとり、看板から引っ張り出す。


「ほら、たくみが行くぞ」

「う、うん!」


 たくみは、ゆっくりとした足取りでいろいろな店をまわっている。雑貨、アクセサリー、服飾。

 今のところ怪しまれるような態度はなく、たくみはウインドウショッピングをしている以上の行動はみえない。





「ゆいこ」

「あ」


 たくみが本屋に入ったのをじっと見つめるゆいこに、近くの売店で買ったソフトクリームを差し出す。


「休憩。たくみが本屋に入ったらしばらく出てこないの、知ってるだろ」

「……ありがと」


 疲れが見えたその顔が、少しほころぶ。最初に力が入りすぎたせいだろう。

 本屋が見える椅子に座ってアイスをなめていると、ゆいこがぽつりとこぼす。


「勘、はずれちゃったかなぁー」

「……ゆいこらしいな」

「そんなことないよ! 結構当たるんだから!」


 釈然としないようだが、どうやら諦めてくれそうな雰囲気に、少しほっとする。


「……でも、楽しかったから、いいかも」

 そんな、アイスを食べながら上機嫌なゆいこの後ろから、声が降ってきた。


「なぁひろし、俺のないの?」

「!???」


 ゆいこが驚きすぎて飛び上がった拍子に、アイスが宙を舞う。それはむなしく、床へと落下していった。





「いつ、気づいてたの?」


 ゆいこが自分とたくみのソフトクリームを買いに行った隙に、聞いてみる。たくみは俺の隣の椅子に座ると、にやりと微笑んだ。


「結構、最初の方」

「まあ、目立ってたしな」


 変なポーズで看板から顔を出すゆいこを思い出して、少し笑ってしまう。あれなら、一人で行かせてもたくみは気づいたかもしれなかった。


 俺、なにやってんだろ。

 長いため息をつくと、たくみは苦笑しつつ顔を寄せてきた。


「ゆいこのこと、サンキュな」

「……え」

「プレゼントのこと、バレないように見張っててくれたんだろ?」

「決まったのか?」

「まー、だいたい。また今度買いにいくわ」


 それより、とたくみはカバンから何かを取り出した。


「これ、やる」

「……あ」


 ひょい、と軽く渡されたのは、さっきの本屋の紙袋。中には綺麗に包装された薄い包みが見える。


「ブックカバー。お前使う派だったよな」

「俺に?」

「なんか、いいかなって」

「……ありがとう」 


 たくみらしい気の使い方に自然に笑顔になる。二人でふと顔をあげれば、アイスを両手に持って、どこか危なっかしいゆいこの姿。

 目を細めるたくみのその横顔を見て、もやもやとしたその気持ちに蓋をする。


「ゆいこも、喜んでくれるといいな」

「お、任せとけ」


 たくみが、明るく笑う。苦しくなる胸のうちを隠すように、俺も笑い返した。



ブックカバー

ゆいこ→外ではつける

たくみ→なにそれおいしいの

ひろし→常につける


という、勝手なイメージ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3人のブックカバー事情に、なるほどと思いました。 さらっとこういうネタが入っているのはなろラジリスナーにはたまりませんね。 目立つ尾行をするゆいこ、「俺のないの?」と唐突に登場するたくみ、…
[良い点] 考えを巡らせるひろし、ちゃんと気付いているたくみ、そして予想通り尾行が下手なゆいこと3人がそれぞれイメージ通りで読みながらとても楽しかったです。 漫画のように景色が浮かびました。 ひろしと…
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