「H」ふわふわのブランケット
お題「ハグ」
ゆいこ視点
「あーっっ、サボってる!」
今日は、ひろしの家で勉強会。
短い冬休みだけれど、宿題は少なくない。
苦手な科目を二人に聞きながら、なんとか終わらせへろへろな私は、ベランダでスマホ片手に佇むたくみに非難の声をあげた。
私も出ようと戸を開けると、ひんやりした空気が一気になだれ込んで思わず首をすくめる。
「さむーっ!」
「中があちぃんだよ」
そう言われると、疲れて火照ってしまった体に澄んだ空気が気持ちいい。ゆっくり深呼吸をして、私もそのままベランダに出た。
「ひろしは?」
「頑張って糖分不足だろうから、あったかーいココア入れてくれるって!」
「教え方スパルタだよなー。まさにアメとムチ」
「たくみは?何してるの?」
「お・し・ご・と」
言いながら、簡易な椅子に腰かける。メールの文面とにらめっこしながら珍しく黙りこんでしまうたくみを見ていると、むくむくといたずら心が湧いてしまった。
「えーい」
「こーら、邪魔すんなよ」
いつもはからかわれても手が届かないけど、今は違う。
たくみの後ろに回り込んで、耳を引っ張ってみたり、髪をくしゃくしゃにしてみたり。けらけらと笑いながらじゃれていると、――急に後ろから影が差した。
「? ……わっ」
振り返るより先に、柔らかいものに体をくるまれる。さっき膝掛けに使っていたブランケットだ、とすぐにわかったけど、それだけにしては背中がやたら暖かい。そして体を包む、圧迫感。
目を落とすと、それをかけてくれた手が私の前で交差されている。
状況がわかった瞬間、頬がみるみる熱くなってゆく。
「ゆいこ」
耳元で、ひろしの声。それはあんまりにも近くて、背筋がくすぐったくなる。
「ココア、冷めるよ」
ふっと、肩が軽くなる。私を拘束していた長い腕はあっというまにほどかれたのに、体が石になったみたいに動かない。
「おわ、ゆいこ顔赤いぞ、って……ひろし! おまえ何したんだよ!」
呆けた私に気づいたたくみが、焦ったようにひろしを呼ぶけど、ひろしはさっさと部屋に入ってしまう。
「コーヒー淹れたから、たくみも入ってこい」
「聞けよ!」
たくみとひろしが言い合うのをぼんやり聞きながら、頭からずり落ちそうなブランケットを抱き寄せる。
肩の辺りに残ったぬくもりに、冷ましたはずの体が熱くなってゆく。固まったままの私は、たくみに引きずられるように部屋へ入れられることになった。