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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第二章 黒色の怪鳥
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戦慄の思い出

 六人は再び歩み始めた。

迷宮の壁は依然として青く、道のりは歩きやすかった。

直進する通路が多く、曲がり角が少ない。


「不意打ちされにくくて、いいわね」


 ティナがそんなことを言っていた。


 しばらく歩みを進めると、四角い部屋に入る。

周囲は壁の青みが心なしか強く、魔物の姿が見えた。

骨だけの魔物だ。手にも骨のような武器を持っている。それが三体。


「クレアが中央と右を引き付けて、ティナが左を処理。

キョウコはいつも通り、クレアの後ろから中央に攻撃。

クラインはティナの援護。俺は一番右をやる」


 アーサーが指示を出した。

 それを聞いてクレアが動き出し、ティナは左の敵を薙ぎで素早く片付けた。

キョウコとアーサーが残り二体に止めを刺し、あっさりと勝った。


「ふう」


 キョウコが刀を仕舞う。


「この部屋は、守護者の部屋の前だな」


 アーサーも短剣を仕舞うと、周りを見渡しながら言った。


「もうそんなところまで来ましたか。もうすぐですね」


 クラインは出番が無かったので、手持無沙汰である。


「ちょっと態勢を整えよう」


 アーサーが提案した。守護者が近いとなれば当然である。


「ほいほい」


 キョウコが刀を出し入れして、武器の様子を確かめている。


「守護者に勝てたとして、次は三層だ」


 アーサーは、魔の前の守護者の話ではなく、三層の話を始めた。


「もうすぐ半分って所ね」


 ティナが頷いた。


「そこで提案があるんだが」


 アーサーはぼんやりと続けた。


「なんですか?」


 クレアは首を傾げた。


「二層を突破したら、集落で、ひと時の平和を楽しむというのも、一つの手だぞ」


 含みのある言葉を、アーサーが口にした。


「どういうこと?」


 マルシェはよくわからない様子だ。


「集落の結界が弱まっているとはいえ、まだ少しの間は安泰だろう。

集落に戻って、美味いものを食べて、楽しく話をして、大切な人と過ごすという選択肢がある。

迷宮のことなんて忘れて」


「なにそれ」


 キョウコは険しい顔つきだった。


「みんなが危険なんだよ。迷宮のことなんて忘れられるわけないじゃん」


「三層にはちゃんと俺が行く。完全に無視するわけじゃない」


 アーサーの表情は変わらない。


「一人で行くっていうの?」


 ティナも険しい表情である。


「そうだ」


「馬鹿じゃないの!?突破できるわけないでしょ!アーサー、どうしちゃったの!」


 キョウコが怒っている。


「どう考えても、それはおかしいわ。何があったの?」


 ティナは問い詰める。


「三層は甘い場所じゃない」


 アーサーは断じた。


「死ぬっていうのは、恐ろしいことなんだ。揃って死ぬことはない」


「今までなんとかやってきたじゃん!今更、何言ってるのよ!」


 キョウコは抗議。


「昔、迷宮に入ったことがあると言いましたね。三層で、全滅したのですね?」


 黙って考えていたクラインが口を開いた。


「察しが良くて助かる」


 アーサーは正直に答えた。


「詳しく聞かせてください」


 クレアは神妙な面持ちで言った。


「……そうだな。今から十年ほど前の話になる……」


 アーサーは語り始めた。


「地上を夢見る冒険者たちがいた。集落の皆からは、変わり者扱いされていたが、

地上を一度見てみたかった人間たちが修行していたんだ。迷宮は、近寄ってはならない場所とされていたが。

その中には俺、そして俺の姉がいた。メンバーは六人。

剣士の俺、突剣使いの姉、槍士、僧侶、弓手、呪術師。

迷宮に行くことに反対はされていたが、俺たちは無理を言って、迷宮に入り込んだ」


 アーサーは一呼吸置いた。


「最初は楽しかったよ。自分たちの実力が発揮できて。見知らぬ場所を冒険して、帰る。

手ごわい敵に打ち勝ち、みんなで勝利を共有する。自分たちは未開の土地を切り開いているんだ、と。

三層の途中まで、余裕で行くことが出来た。

俺たちは若干浮かれていた。最初の緊張感が薄れていたんだ。

次の守護者はどんなだろう、という話を皆でしていた」


 遠い目をしながらアーサーは語り続ける。


「そうして、三層の守護者に足を踏み入れたんだ。笑顔すら溢れるような、自信に満ちた雰囲気だった。

その時だった……。上空から獣が奇襲してきた。呪術師が斬られ、一撃で死に絶えた。

俺と姉と、槍使いが慌てて反応して攻撃に移ったが、その獣は腕が四つ生えていて、四刀流だった。

四つの剣で、俺たちの攻撃はことごとく弾き返された。

俺の剣は簡単に弾き飛ばされて、即座に俺は蹴られて、壁まで吹き飛ばされた。

槍使いは突きが追いつかず、距離を詰められて、胴を真っ二つにされた。

唯一、まともに獣の相手を出来ていたのが俺の姉だったが、

獣は姉を無視して、弓手に向かっていった。

弓手はどう対応することも出来ずに、首をはねられた。

獣は、部屋の隅にいた、怯えた僧侶に向かっていった。

僧侶を救うことは出来ないと判断したのか、姉はその隙に、壁際にいた俺に言った。

姉さんがあなたが逃げるまでの時間を必ず稼ぐから、あなたは逃げてと。

家族にこの事を説明して、これは指示よ、出来るね?と。

無茶に巻き込んでごめんね、と。

俺は躊躇ったが、足手まといになるという姉の言葉を聞き、部屋から飛び出して、必死に走った。

真っすぐに走って……曲がり角を曲がる時」


 アーサーの声が小さくなった。


「姉の首が飛ばされるのが、遠くに見えた」


 アーサーは目を瞑った。


「それだけだ。十年前にこの出来事が起こった」


 沈黙が流れる。

皆、何も言うことが出来ない。


「集落に戻って家族に説明をした。殴られたよ。一人だけ帰ってきた臆病者。

姉を慕っていた子供達からも、石を投げられた。お前が死ねばよかったのに、って涙ながらにな」


 アーサーはゆっくりと続ける。


「お前たちまで同じ目に遭う必要は無いんだ。二層は突破出来るが、そのあとは、いいんだ。

俺一人で、死のうとも、あの獣の所までたどり着く」


 アーサーは悲しそうに笑った。


「すまない、動揺させてしまったな。落ち着くまで、守護者の部屋に行くのは待とう」


 アーサーは皆に背を向けて、武器の様子を確かめ始めた。

 深い、深い沈黙が辺りを包んでいた。

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