ゴーレム人形の部屋
第二章 黒色の怪鳥
六人は、一層の道を歩いていく。
途中、魔物が新しく沸いている場所もあったが、難なく突破していく。
「やっぱり増えるものなのね、魔物」
ティナが槍をしまいながら言った。
「うん、やっぱり、魔王倒さないと、みんなが危ないね」
キョウコも刀をしまいながら言った。
しばらくして、前に倒した守護者の部屋まで到着した。
「守護者は流石に復活していませんね」
クラインが周囲を眺めながら言った。
「守護者は、そう簡単には復活しないはずだ」
アーサーが経験から言った。
「よかったです。さて、二層ですか?」
一番前のクレアが道の先を見た。金の髪が揺れる。
「ああ、そうだな。二層で気を付けることなんだが」
アーサーが淡々と言い始めた。
「なになに?」
キョウコが尋ねている。
「特にない」
アーサーがさらっと言った。
「ないのね」
ティナが苦笑した。
「守護者に関しては別だがな」
アーサーが付け加えた。
「それって、相当強いってことなの?」
マルシェが不安そうに尋ねた。
「強いとは言い難いが、そうだな、弓手がいないからな」
アーサーが返事をし、続けた。
「空を飛んでる。鳥だ。場合によってはクライン以外、攻撃手段がない」
「クレアが引き付けてる間に攻撃するか、クラインが空中に魔法で攻撃ってことね」
ティナが難しそうな顔をしている。
「まあ、守護者以外は二層も特に問題ないってことで、行こうか!」
キョウコが歩み出す。
「あくまで昔の情報だから、油断するなよ」
アーサーは釘をさした。
六人は階段へと足を運ぶ。階段を昇るが、暗い。
暗かったが、徐々に明るい、青い光が見えてくる。
二層に出た。壁は、一面の薄い青。ほのかに光っている。
「へー、結構綺麗だね」
キョウコが辺りを見回している。
「ええ、幻想的」
ティナも同意した。背負っている槍は二本。
「視界が悪いということもなさそうですね。行きましょうか」
クレアが通路を見ながら言った。先頭を歩いていくクレア。
歩いていくと、途中で何体かの魔物に遭遇した。
骨だけの戦士。豚のような物体。ほぼ液状の黄色い魔物。赤色の、角を生やした魔物。
アーサーの言う通り、大したことは無かったのだが、一層に比べると、
パーティーに気が付くスピードが速く、やや好戦的に見えた。
戦闘が終わるたび、マルシェがクレアの心配をしていた。
「クレア、大丈夫?怪我してない?」
重い荷物を持ちながら、マルシェは心配している。
「ええ、大丈夫ですよ。怪我をしたら、頼らせてもらいます」
「怪我をしたら、本当にすぐに言ってね。すぐ治すから」
マルシェは心配そうだ。
「私たちも、クレアの後ろからとはいえ、一応戦ってるんだぞー」
キョウコがマルシェに笑顔で問い詰めた。
「あ、そうだよね。ごめん、でもやっぱり一番先頭だから、心配で……」
マルシェは謝りながら答えた。
「それだけですかね」
クラインがぽつりと呟いた。
クラインの呟きは誰にも聞こえなかったらしい。
六人は歩いていき、やがて、小部屋にたどり着いた。
突如現れた小部屋。
その部屋はまるで人が暮らしていたかのような雰囲気が漂っており、
青い壁とは違い、白い綺麗な壁が六人を見つめていた。
かわいい置物がたくさん置いてある。
みんなで座れる椅子とテーブルもあった。
「あ、椅子があるじゃん。ちょっとここで休んでこうよ」
キョウコが部屋を興味深そうに見渡しながら、皆に提案した。
「前に来たときは、こんな部屋は無かった」
アーサーは警戒している。
「それは不思議ですね。しかし、周りに魔物の気配もありません。休んでいってもいいのでは?」
クラインはキョウコに同調した。
「わかった。足を休めるか」
アーサーはまだ警戒していたが、今後のことも考えてか、提案を受けいれた。
みんなで椅子にちょこんと座った。丸太のような椅子だった。
テーブルにマルシェがよいしょよいしょと、鞄から出した飲み物を置いている。
ティナが部屋の壁沿いの物置をじっと見ている。
「ティナ、どうかしましたか?」
ティナの隣に座っていたクレアも、ティナの視線の先を見た。
「あれ、見て」
ティナは物置に乗っている人形を指さした。
とても小さいサイズの人形で、泥で作られているようだった。
笑顔にも見え、かわいいといえる表情をしている。
「おや、かわいいですね。持って帰りたいくらいです。ティナ、あの人形がなにか?」
クレアが人形を見つめながら言った。
「すごくかわいい」
ティナはマルシェが出してくれた飲み物を飲みながら語る。
「そういえば、ティナはああいうのが好きでしたね」
ふふっとクレアが笑いながら頷いた。
「へえ、意外だなあ」
マルシェが驚きの声を漏らした。
「意外かしら。心外だけれど。じゃあ、何が好きだと思っていたの?」
ティナがマルシェの方を向いた。
マルシェは少し考えた。
「うーん、ど、毒リンゴとか?」
「何よそれ。毒りんごが好きな人なんていないわよ。まあ、言いたいことはなんとなく伝わったけれど」
ティナは苦笑している。
「動き出すタイプの魔物じゃないだろうな」
アーサーは慎重だ。
「この人形、ひょっとしたら魔術の応用……いや、それはなさそうですね」
クラインも人形を観察している。
「小部屋にて、デリカシー無し、男共」
キョウコは謎の俳句を詠んで、しみじみとしている。
「毒リンゴ以外だと、何がある?」
ティナは会話が楽しいのか、マルシェを困らせる。
「え、えーと、困ったなぁ。あ」
マルシェはポンと手を叩いだ。
「クレアとか?」
「大好き」
ティナが笑顔になった。
「私、物の扱いに入るのでしょうか」
クレアが苦笑した。
三人は盛り上がっている。
「マルシェ、上手く逃げたな」
ぽつりとアーサー。
「ええ」
と、クライン。
しばらく休憩して、そろそろ出発しようかという話になった。
小部屋での休憩は、結果的に正解だったようだ。
ティナが人形を一つ、マルシェの鞄に入れようとしていたが、アーサーに止められた。
「悲しみの、別れはいずれ、訪れる」
キョウコがティナを慰める俳句を詠んでいた。