一致団結
ティナはベッドに横になっていた。
気難しそうな顔を浮かべ、自問している。
命令通り動ける覚悟があるか、ということについて。
クレアの顔がティナの頭に浮かぶ。
もし、仮定の話のようになった時、自分は私情を捨てて動くことが出来るか、自問した。
寝返りを打つ。
アーサーの方向性が正しいことが、ティナにはよくわかっていた。
覚悟を決めなければならない。
自分たちは遊びにいくのではない。戦いにいくのだ。
他の皆はどう考えているだろうか?
おそらく、クラインは私情を捨てて動けるタイプの人間だろうとティナは思った。
クレア、キョウコ、マルシェはどう考えているのか。
ティナの考え事がループする。
逆に、とティナは考えた。
アーサーがリーダーではなかった場合。
その場合、まったく先のビジョンが見えない。
統一性を欠いて、戦うことになる未来。
死の危険は、高くなるだろう。
消去法で考えていくと、やはりアーサーがリーダー以外、考えられない。
ティナは目を瞑り、祈った。
せめて、悲痛な判断を迫られる事のないように、と。
ティナは覚悟を決めた。
キョウコがベッドに腰掛け、脚をぶらぶらさせている。
キョウコも考え込んでいた。
自分は、熱くなる性格だとキョウコは思っていた。
いざという時に、感情を抑えられるのか。
指示を無視して動いてしまうのではないか。
「はぁー」
溜息をつく。
そのままベッドに横になった。
信頼、という言葉が彼女の頭をよぎっていた。
指示通り動くこと。お互いの役割を信頼して。
パーティー全体で動くということ。
お互いを信頼するからこそ、それが出来る。
皆は私を信頼してくれるのだろうか。自分は皆を信頼出来るだろうか。
迷っている。皆を完全に信頼することが出来るか、迷っているキョウコは情けないと思っていた。
「信頼、しなきゃ」
自分が他人を信頼出来ないのに、どうして周りが自分の事を信頼してくれるだろうか。
信じること。
キョウコは目を閉じた。
マルシェは椅子に座り、考え込んでいた。
今日のこと。
自分に課せられる役割は、何だろうかと。
自分は回復役。傷ついた仲間を癒す力がある。
しかし、同時に何人もの傷は治すことは出来ない。
もし、複数が同時に傷ついていたなら、誰かを優先しなければならないのだ。
その指示を、アーサーが出す。
それは、決断力のないマルシェにはありがたいことかもしれないと思った。
ふと、マルシェはクレアの笑顔を思い浮かべた。
もし、クレアとティナが傷ついており、クレアを見捨ててティナを治せと言われたら。
そこまで考えて、マルシェは自己嫌悪した。ティナに失礼だ。
罪悪感がマルシェを襲う。
「ごめん、ティナ」
言葉は静かに響いた。
みんな大切な仲間。
パーティーが生き残ること。
マルシェは考え込み続けていた。
クレアがベッドに横になっている。
クレアは、一日の事を考え込んでいた。
自分は、盾。パーティーの防御役だ。
そして、攻撃する術はほとんど持ち合わせていない。
窮地に陥った時、反撃に移るために回復されるのは、自分ではない。
攻撃の術を持ったティナやキョウコ、アーサーとクラインだろう。
クレアは一番後回しのはずだ。
それは、死の危険性が一番高いことを意味する。
少しだけ、怖いと思ってしまった。
パーティーが生き残るために、窮地に陥った時、一番不要なのはクレアなのだ。
「盾の私がこんなことでは、いけない」
恐怖を振り払おうとする。
クレアもキョウコと同じ言葉を思い描いていた。
信頼。
どんなに自分が傷ついても、勝ってくれると信じること。
仲間を、信じる。自分を、犠牲にする。
クレアは静かに目を閉じだ。
翌日、結界の広場前に六人が集まった。
マルシェが大荷物を背中に抱えている。重そうだ。
「マルシェ、それどうしたの?」
キョウコが疑問に思い質問した。当然である。
「食料とか、出来るだけ積んできたよ。これから先どうなるかわからないし、
普段の戦闘じゃ、僕は出番無さそうだし」
「なるほどね。物資も大事だよね」
「リーダーに関することは、決まったか?」
アーサーは皆に尋ねた。
一瞬沈黙が流れた。それをティナが破った。
「私は決めた」
真剣な表情だった。
「アーサーの判断に従う。例え、何があろうとも。アーサーにリーダーを任せたい」
ティナの言葉をアーサーも真剣な表情で聞いている。
「私も決めたよ」
キョウコも続いた。
「指示に従う。熱くなりやすい性格だから、もし暴走しそうになったら、
止めてもらわないといけないかもしれないけど、抑えるように頑張る」
キョウコも覚悟を決めたようだ。
「僕はアーサーが適任という、最初の通りです。アーサーの指示に従います」
クラインの青髪が揺れる。
「私もアーサーがリーダーに相応しいと思います。この身がいかに傷つこうとも、アーサーの判断を信じます」
クレアも覚悟を決めていた。
最後に残ったマルシェを全員が見た。
マルシェは重々しく、口を開いた。
「僕も従うよ。機能は、色々考えて、落ち込んじゃった。
僕は回復役としての役目を果たすよ。みんなのために」
「決まりですね。アーサー、頼みましたよ」
クラインがアーサーの肩を叩いた。
「わかった。俺も最善を尽くす。乗り切ろう、全員で」
アーサーも、リーダーとしての自覚を強く持った。そして話を続ける。
「リーダーが決まったところで、サブリーダーの話をする」
「サブリーダー?」
キョウコが首を傾げた。
「俺が何らかの理由で、指示を出せなくなる状況になることも、十分考えられる。
その時に、俺の代わりに指示を出すのが、サブリーダーだ」
「なるほど。それで、サブリーダーは誰に?」
クラインが頷きながら尋ねる。
「クライン、お前だ。異議のあるやつは言ってくれ」
アーサーは皆を見た。
「妥当ね。後衛、冷静さ、どれを取っても適任だと思う」
ティナが賛成した。
「異議なし」
キョウコも後に続いた。
他の皆も同意見のようだ。
「サブリーダーですか。万が一の保険でしょうが、わかりました、
アーサーが行動不能に陥った時は、僕が指示を出します」
クラインが、やや思案しながら言った。
「アーサーがリーダーで、クラインがサブリーダーなら安心だよ」
キョウコは固い表情を崩し、笑顔になった。
「それはどうも。ではキョウコ、くるくる回って踊ってください。指示です」
クラインはキョウコを指差した。
「や、やっぱり不安だわ」
キョウコはげんなりした表情で言った。
皆は笑っている。
「決まったな。さあ、行こう。二層へ」
アーサーが一呼吸置いてから、出発の合図を出した。