表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第一章 始まりの道
5/49

個を捨てる勇気

 大量にあった食事も見事に完食され、みんなで食後の飲み物を飲んでいた。


「ああ、美味しかった」


 ティナがグラスを揺らしながら満足そうにしている。


「ありがとうな、マルシェ、クレア。最高だった」


 アーサーは二人を称賛。


 アーサーに褒められ、マルシェとクレアは笑顔でお互いの顔を見合った。

マルシェがガッツポーズをしたので、クレアも軽く握りこぶしを上げた。


「さて、この後おそらく解散になると思うのですが」


 クラインが突然切り出した。


「どうかした?」


 キョウコが尋ねた。


「アーサーに一つ聞いておきたいことがありまして」


「なんだ?」


 アーサーもグラスを揺らしている。


「あなた、あの迷宮に、過去入ったことがありますか?」


 クラインの突然の質問だった。


「どうしてそう思う?」


 アーサーはグラスをテーブルに置きながら答える。


「迷宮での立ち振る舞いが気になりまして。それと、僕、地獄耳なんです」


「無いかあるかと聞かれれば、確かにある」


 アーサーは白状した。


「どうして黙っていたのですか?」


 クラインが尋ねた。当然の質問だ。


「言いたくなかったから、かな。時が来れば言うつもりだった。これは本当だ。

迷宮に入ったのは……もう十年も前のことだ」


「経験者がいるっていうのは、結構安心出来るものよ。出来れば言って欲しかったけれど」


 ティナは真剣な表情である。


「何か、事情があったってことなんだよね?」


 キョウコは不思議そうな表情。


「まあ、そうだな」


 アーサーは浮かない顔だ。


「余計な詮索はしませんが、一層を越えたら、リーダーを決めるという話が出ましたよね」


 クラインが、本題を切り出した。


「経験を踏まえて、僕はアーサーが適任なのではないかと思っています。

ティナやキョウコのように、完全な前衛ではありませんし、指示も出しやすいでしょう。

冷静さも兼ね備えているようですし」


 クラインの提案に、皆が考える。

 ややあって、クレアが動いた。


「賛成です。アーサーが適任ではないかと私も思います」


 他の皆も頷いた。


「俺がリーダーか。重い立場だが、構成上、確かにそれがいいのかもしれないな」


 アーサーは真剣な表情だ。


「ただし、条件がある」


「条件?」


 マルシェが首を傾げた。


「俺の指示は、いかなる状況でも絶対に守る事。最大限考えて指示は出す。

しかし、その指示は、常にパーティー全体のことを考えた指示だ」


 皆は黙って聞いている。


「例えば」


 アーサーはティナの方を見た。


「クレアとキョウコが傷つき倒れていたとする。どちらか片方にしか、助けには入れない。

その時、俺がティナに、キョウコを助けろと指示したら、ティナは絶対にキョウコの助けに入れ」


「ちょっと」


 キョウコが口を挟んだ。


「それはあんまりじゃない?理屈ではわかるけど、クレアはティナの親友なんだよ」


「あくまで仮定の話だ。パーティー全体の事を考えて動くことが必要なんだ。

全員が死ぬということにならないためにも」


 アーサーの声は真剣さを増している。


「自分一人の命じゃないということを踏まえ、パーティー全体の事を考えて動く。

それが出来ないという覚悟のやつがいるなら、俺はリーダーにはならない」


 しばらく沈黙が続いた。


「明日までによく考えておいてくれ。時間も必要だろう」


 アーサーは席を立った。


「今日の料理は最高だった。二人ともありがとう」



 アーサーは、クレアとマルシェに礼を言い、立ち去った。



 アーサーが去り、五人が取り残された。

気難しい空気が流れている。


「難しいね」


 キョウコが沈黙を嫌って発言した。


「うん、ちょっと、考えたい」


 マルシェの表情は暗めだ。


「僕はもう決断しましたが、確かにこれは時間が必要な問題ですね」


 とクライン。


「期限は明日まで、か」


 ティナは目を瞑っている。


「今日はもう解散した方がいいかもしれませんね」


 クレアが考え込みながら言った。


「そうだね。大きな課題が出ちゃったし」


 キョウコは賛成した。そして続けた。


「なんか、重ぐるしい雰囲気になっちゃったけど、ご飯美味しかったよ!

クレア、マルシェ、ありがとうね」


「大変美味しかったですね。僕からも、ありがとうございます」


 クラインも続いた。


「毎日食べたいくらい。贅沢か」


 ティナが微笑しながら言った。

 皆にお礼を言われて、クレアとマルシェは嬉しそうだ。

どういたしまして、とクレアとマルシェは皆に言った。


 温かい空気が、少しだけ戻った。


「片付けは私がやりますから、マルシェも先に家に帰っていてください」


 クレアは後処理は自分一人でやるつもりのようだった。


「そんな、大変だよ。僕も手伝うよ」


「いえ、材料を買ってきていただきましたし、ここは私に任せてください」


「そっか……。うん、わかった。正直なところ、今、時間がかなり必要そうだから、助かるよ」


「また、いつか二人で作りましょう。楽しかったです。もちろん、大変ではありますけど」


 クレアに笑顔で礼を言われ、こちらこそ、とマルシェは返した。


「じゃあ、解散かな?ありがとう、クレア」



 キョウコが立ち上がった。


皆も続くように、椅子から立ち上がった。


「また明日ですね。大きな課題が出ましたが、不眠には気を付けてください。体調管理は大事ですから」


 クラインは気を遣った。


「そうだね。悩みすぎて眠れないのは、困るかも。じゃ、また明日ね!」


 キョウコが部屋を出ていった。

他の三人も、挨拶をして部屋から出ていく。

クレアが一人になって、ドアを閉め、ぽつりと呟いた。


「リーダー……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ