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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第五章 魔王城
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迷宮六人の勇者

 急いでキョウコの家まで走った五人。

家に辿り着き、ベッドの上のキョウコの様子を見る。

まだ、生きている。


「ティナ」


 アーサーが促した。ティアルの涙を持っているのはティナだ。

 ティナは頷き、キョウコに近づき、ティアルの涙を開けた。

 キョウコの口にそれを含ませる。

 どうか、効いて……。


 しばらく。何も起きなかった。皆、キョウコの様子を息を飲んで見守っている。

 その時だった。キョウコの顔がぴくりと動いた。


「うん?」


 キョウコの瞳が開いた。


「キョウコ!」


 アーサーが呼び掛ける。


「あれ、アーサー、私、確か……」


 キョウコはぼんやりとしている。

 アーサーがキョウコを抱きしめた。


「ちょ、ちょっとアーサー、みんなが見てるよ」


「無茶ばかりするな!聞いたぞ、奥義のこと」


「あー、もしかして、手紙、読んじゃった?」


「読んだ。俺は、絶望するところだったよ」


「ごめん。みんなに、黙ってて……。私は、なんで無事なの?」


「ティアルの涙です」


 クレアが答えた。キョウコは状況を知らない。


「そうか……あれを使ってくれたんだ……」


 キョウコは立ち上がろうとした。


「動けそうか?無理はするな」


 アーサーは心配している。


「大丈夫そう。大神官に、お礼を言わないとね……」


 キョウコは皆を見回して、微笑んだ。




 三週間が、それから経った。

その間に、魔物が沸いていないか、六人が迷宮に確認に入ったが、

魔物の姿一匹見当たらなかった。魔物は消滅したのだ。

六人が魔王を倒したという話は、すぐ集落中に広がり、六人は有名人となってしまった。


 そして、今日は、アーサーとキョウコの結婚式の日。

クレアは正装で家を出た。

魔王を倒してから、クレアはマルシェと付き合うことになった。

お互いに奥手だが、とても相性がいい。

自分は幸せだ、とクレアは感じていた。

結婚式は、結界の広場の前で、盛大にやるらしい。

アーサー達は遠慮したが、せっかくの英雄の結婚式だからと、

長老が集落の皆に言いふらしたのだ。

そのせいで、大勢が見学に来ることになってしまった。

クレアが道をてくてくと歩いていくと、若い男女に声をかけられた。


「クレア様だ!こんにちは」


「様はやめてください……こんにちは」


 クレアが苦笑してしまう。

魔王を倒してから、ずっとこんな調子だ。かなり恥ずかしい。

道を歩いていくと、ティナの姿が見えた。ティナも正装をしている。凛々しい。


「ティナ、おはようございます」


 クレアが笑顔で近寄っていく。


「あら、おはようクレア。似合うわね」


「ティナも、似合っています。今日は大切な日になりそうですね」


「そうね。あの二人、そんなに進んでいるなんて、思わなかったわ。

あなたとマルシェもいい感じだし、はあ……私はクラインとでも付き合えばいいの?」


 ティナが冗談交じりに笑う。


「人を余りものみたいに言わないでほしいですね」


 クラインがひょこっと現れた。神出鬼没。


「びっくりした。幽霊じゃないんだから、突然現れないで。って、あなた」


 ティナがクラインの服装を見た。魔術師のローブだ。


「なにか服は無かったの?」


 ティナが苦笑した。


「服なんてなんでもいいでしょう。これで問題ありません。

あ、しかしあなた達の服装は、とても似合っていますよ。美しいです」


「ありがとうございます」


 クレアは楽しくて笑顔だ。


「まあ、立ち話もなんですし、行きますか。マルシェともそのうち会うでしょう」


 いつのまにか、クラインが先頭になっている。

 クレアとティナが後ろをついていく。

 クラインの予想通り、マルシェの姿を三人が発見した。

 マルシェも正装をしている。背がちっちゃい。


「マルシェ、おはようございます」


 クレアが手を振っている。


「おはよう。……クラインだけ、恰好がいつものままだね」


 マルシェは苦笑した。



「とんでもないわよね。マルシェは、よく似合っているわ」


 ティナが褒めている。


「かっこいい?」


 マルシェは少し嬉しそうだった。


「かわいい」


 ティナが答えた。

 マルシェが肩を落とす。クレアが慰めた。


 合流して、四人で歩き始める。

 結界の前の広場に近づくと、もう、多くの人が集まっていた。

 クレア達四人に、視線が集まる。

 

「クライン様、素敵です!」


 謎の女性ファンが煌めいている。


「ティナ様とクレア様は、本当にお美しい……ああ、結婚したい」


 男性ファンもいる。


「マルシェ様、ちっちゃいのにあんな恰好しちゃって、本当にかわいい」


 女性ファンがマルシェをかわいいと評している。

 マルシェが肩を落とす。クレアが慰めた。


「やりづらいですね」


 クラインが苦笑。


「ええ、本当に」


 ティナも半分呆れ気味だ。

 

 人混みの向こうに、アーサーとキョウコの姿を四人が発見した。

 アーサーも正装、キョウコは綺麗なドレスを着ている。


「みんな、おはよう。クラインだけいつもの恰好だな」


 アーサーが四人に気が付いたようだ。


「おはようみんな!クライン、もうちょっと、他に服無かったの!?結婚よ、結婚!」


 キョウコは抗議している。いつも通りの感じだ。


「別になんでもいいでしょう。キョウコのドレス姿はすごく綺麗ですね。しかし」


 クラインは抗議を受け流し、アーサーの方を見た。皆も見る。


「似合わない」


 ティナがダイレクトに言った。


「俺だってわかってるさ、それくらい」


 アーサーは溜息をついた。


「キョウコは、とても綺麗です。結婚、おめでとうございます」


「ありがとう。クレアも綺麗だよ」


 キョウコは笑顔になった。

 そこに、長老がやってきた。


「おはよう。皆、揃っているな。そろそろ、始めるか?」


 長老は始めたくて仕方なさそうな様子だ。


「俺はいつでも。キョウコはどうだ?」


 アーサーがキョウコに問いかけた。


「あんまり人増えると恥ずかしいし、始めちゃおうか」


 キョウコは苦笑しながら答えた。


「わかった。では、二人はレイン大神官の元に行ってくれ。あそこで待っている」


 長老は大神官の方を指さした。

 レインは、大聖堂の宝を盗み出した刑には問われなかった。むしろ、機転の利く人物だと、評を広めた。

 アーサーとキョウコはレインの所へ。

 残された四人は、一番見学しやすい場所を確保した。

 レイン大神官の前に、アーサーとキョウコが並ぶ。


「ごきげんよう。始めて、いいのですか?」


「はい」


 アーサーとキョウコが答える。同時だった。


「わかりました。ではみなさん、これより結婚の儀を行います」


 レインは大声で宣言した。

 拍手が起こる。

 レインがキョウコの方を向いた。


「ではます、キョウコよ。始祖様に誓って、アーサーを愛することを誓いますか?」


「誓います」


「わかりました。それではアーサー、始祖様に誓って、キョウコを愛することを誓いますか?」


「誓います」


 アーサーが答えて、指輪を取り出した。

 キョウコがアーサーに左手を伸ばす。


 死ぬはずだった命。貰えないはずだった愛。

 キョウコの薬指に、指輪がはめられた。


「それでは、誓いのキスを」


 レインの声は澄み渡る。

 キョウコとアーサーが見つめ合う。

 近づき、キスをした。

 またも、拍手が起こる。


「二人に、永遠に始祖様のご加護がありますように。どうか、、幸せに!」


 レインは笑顔を見せた。

 人々が祝福する。仲間たちも、おめでとう、と祝福した。

 そこで、長老が話し出した。


「ここで、皆の者に見せたいものがある。おい、布を取るぞ」


 長老が数人の男と、近くにあった大きな布を取ろうとしている。


「『あれ』が出るのね」


 ティナは頭に手を当てて苦笑している。


「僕、帰ろうかなぁ」


 マルシェがげんなりしている。

 長老が、男たちと、大きな布を取った。

 すると、魔王を倒した六人の像が現れた。中央には大きな石牌。

 人々が完成をあげた。英雄の像だ。


「魔王を倒した記念の像だ。この結界の広場の前に、平和の象徴として設置する」


 長老が自慢げだ。

 六人は苦笑していた。


「ところで、中央の石牌には、この像の名前を刻もうと思うのだが、

これは、魔王を倒した六人に決めてもらおう」


 長老は六人の方を見た。


「折角なので、キョウコとアーサーに決めてもらうのがいいのでは」


 クレアが提案した。主役はキョウコとアーサーだ。


「賛成です。面倒くさいわけではありませんよ」


 嘘っぽいクライン。


「僕も賛成。名前つけるのって、苦手なんだ」


 マルシェは賛成している。


「いい名前、頼んだわよ」


 ティナが笑顔で、親指を立てた。

 アーサーとキョウコに、名づけることが委ねられる。


「キョウコ、お前が決めていいぞ」


 アーサーはキョウコに譲った。幸せそうな顔で。


「うわー、責任重大だね。じゃあ、どうしようかな、うーん」


 キョウコは考え込んでいる。


「じゃあ、ちょっと恥ずかしいけど」


 白いドレスの花嫁は、皆を見ながらこう言った。


「『迷宮六人の勇者』なんて、どうかな?」

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