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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第五章 魔王城
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抗魔結界の陣

 大聖堂の入り口まで、パーティーが転移した。

マルシェの判断だった。


「ごめん、使っちゃった。キョウコが、危なかったから」


 マルシェは謝った。


「いや、よかった。あのままでは、到底勝ち目はなかった。得られた情報も多い。

キョウコも、あのままでは殺されていた」


 アーサーはマルシェを称えた。いい判断だった。


「ごめん。魔王に近づいたら、動けなくなっちゃって」


 キョウコは悔しそうな顔をしている。


「あんなもの、読めるわけがありません。キョウコが謝る必要はありませんよ」


 クレアがフォローした。そう、読めないのだ。


「私は、普通に動けたわ。つまり、距離の問題かしらね」


 ティナは肩を回している。


「あの紫色の瘴気、あなた達の言うところの、薄い霧に触れると。

動きが封じられてしまうようですね。おまけに、僕の魔法は通じない。

実質、攻撃できるのはティナだけ。アーサーの投げナイフも、ありますが……」


 クラインは考えている。


「あいつ、回復魔法を使っていたよね」


 マルシェは見たままを告げた。


「ええ。ティナに頼ろうにも、魔法の黒弾、魔弾とでも呼びましょうか。

あれが厄介です。武器の刀も鋭い」


「回復魔法がある以上、速攻で決めるしかない。

速攻なら、キョウコの練気に頼りたいところだが、紫の霧があるんじゃどうしようもない。

そもそも、練気が使えない」


 アーサーも考えているようだ。

 パーティーの雰囲気は暗かった。

 なんとなく、悟っていたのだ。魔王には勝てない。

いつもは雰囲気を明るくしようとするキョウコも、何も言えない。


「何も、打つ手はないのか?」

 

アーサーが諦めるように呟いた。


「一つだけ、遠い道のりですが、勝つ道があります」


 クラインは手を顎に添えている。


「あるの!?クライン、それは?」


 マルシェが希望を取り戻したように、クラインに尋ねた。

問うマルシェに対して、クラインがロッドで地面に円を描き始めた。

皆がそれを見守っていると、円が完成した。黄色く光っている。


「マルシェ、この中に入ってください」

 クラインは促した。

 マルシェが言われるがままに、その円の中に入る。


「そこで、回復魔法を唱えてみてください」


 謎のオーダーだった。


「あれ、使えないよ、回復魔法」


 マルシェは首を傾げた。


「抗魔結界の陣です」


 クラインは説明し始めた。


「この円の中では、一切の魔力が無効化されます。魔王の瘴気が魔力なら、

これで封じる事が出来ます。加えて、魔弾も使えなくなる。回復魔法も無力化出来ます。

瘴気が無くなれば、アーサーとキョウコが接近出来ます」


「マルシェとクラインも、魔法が使えなくなるということだな?」


 アーサーは確認した。


「その通りです。僕の魔法は元々効かないので、問題ないですが、

マルシェの回復魔法が使えなくなるという点は、注意しなければなりません。

そして……この陣は、円を描き切らないと、効力を発揮しません。

魔王の部屋はそんなに広くはありませんでしたが、ロッドで円を描くために、部屋を一周しなければならない。

そんな時間は、多分無いでしょう。それに、円を描こうとしている僕が狙われた場合、一瞬で終わりです」


 クラインは俯いてしまった。


「でも、それしか勝ち目はなさそうです。クラインを私が守って、後は、少しでも時間が稼げれば」


 クレアが最後の希望に縋りつく。


「クレアも接近されれば、瘴気で動けなくなる。クラインを守るのは難しい」


 アーサーは冷静に発言している。


「陣を完成させるには、囮が必要でしょう。魔王の瘴気の影響を受けず、

時間を稼げる人物に囮になってもらう。それしかありません」


 切り出すクライン。該当者が一人しかいない。一人で囮になる。

その人物が殺されてしまう可能性は、とても高い。

 皆、暗い表情で黙ってしまった。囮なんて、頼めない。

 ティナは目を瞑っていた。そして、目を開く。


「みんな、なんでそんな暗い表情してるのよ。

こんな時に何を言い出すのかと思われるかもしれないけど、

私、このパーティーが気に入ってるの。みんな、死線を乗り越えた仲間よ。だから」


 ティナの言葉には決意がこもっていた。


「囮でもなんでもやるわ」


「しかし、ティナ」


 クレアは心配そうだ。


「さっきは魔弾に不覚をとった。でも、あれは避けようと意識してさえいれば、避けられたわ。

今まで、肝心な時に役に立たなかった私だけど、せめて、こんな時くらいは活躍させて頂戴。

必ず、時間を稼いでみせるわ」


 ティナはクレアの肩を叩いた。


「……ティナに、頼むしかありません。それともう一つ、

五層で試してみないとわかりませんが、抗魔結界の陣の中なら、

キョウコの練気が使えるかもしれません」


 クラインが語る。キョウコの心は反応した。練気。奥義。


「ティナが囮になって、俺とキョウコは位置取りをし、

クラインとクレアが部屋を走るってことか。何も出来ないのが、歯痒いが……

マルシェは、どうする?」


 アーサーはまた考えている。


「万が一クラインが負傷した時のため、クラインと一緒に走るのがいいんじゃないかしら」


 ティナが提案した。冷静だ。


「わかった。僕もそれがいいと思う」


 頷くマルシェ。他にも役割があるのだが。


「ティアルの涙は、ティナに持っていてもらいましょう」


 クラインは、ティアルの涙を手に取った。


「もし、窮地に陥ったら、迷わず使うのです。いいですね」


 クラインが心配そうな表情で、ティアルの涙をティナに手渡した。


「了解。大事に使うわ」


 ティナは笑顔だ。不安さは微塵も感じない。

 クレアは黙っていた。

 ティナを、失ってしまうかもしれない。

 しかし、自分には役割があるのだ。クラインを守る。

 ティナは覚悟を持って、自分の役割を買って出たのだ。

 それを信じることが出来ず、何が親友か。

 自分も、自分の役割を果たさなければならない。

 親友の無事を、心から祈った。

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