血筋の問題
魔王へと、パーティーが近づいていく。
魔王は、椅子から立ち上がろうとしない。
椅子のある部屋の入り口付近まで、接近した。
魔王のいる部屋は、円形になっている。
「立ち上がりませんね。甘く見られているのでしょうか。
先制攻撃、いいですか?」
クラインが皆に尋ねた。
皆、頷いた。そして、その後すぐ戦闘になると予想し、身構えた。
魔法の詠唱を始める。そして、炎の渦が、魔王を中心に燃え上がった。
炎の渦で、魔王の姿が見えなくなったが、炎の渦が消え、魔王は無傷でそこに立っていた。椅子が燃えただけだ。
「やはり、効いていませんね。すみません、僕は役に立てそうもない」
クラインが舌打ちした。
魔王はパーティーの方を睨みつけた。来るか。
「何故戦う?」
魔王は話かけてきた。意外だった。
「なんで?アンタが魔物を呼び出すからでしょ!」
キョウコが喰ってかかった。
「お前たちを地上に上げるわけにはいかない。根絶やしにする」
「何故ですか?」
クレアは魔王の意図がわからなかった。
「お前たちの血筋の問題だ。教える必要もない。さあ、死ぬがいい」
魔王が一歩前に出た。黒衣が揺れる。
白い顔に、不気味に光る赤い目がパーティーを見つめていた。
「ティナ、キョウコ、行くぞ!」
アーサーは攻撃の合図を出し、飛び込んだ。
中央がティナ。左にキョウコ。右にアーサー。
射程の長いティナが先制攻撃をした。
しかし、魔王の抜刀で軽く捌かれた。魔王の武器は、刀だ。
キョウコの目が光る。刀相手なら、遅れはとらない。
素早く斬りかかった。
しかし、斬りかかった姿勢のまま、硬直してしまう。
キョウコは棒立ちになっている。隙だらけだ。
魔王はキョウコに向けて攻撃の構え。
ティナが瞬間的に槍をくるりと回し、槍の反対側で、キョウコの肩を突いた。
キョウコが勢いで飛ばされる。魔王の斬撃をかろうして回避した。
ティナは槍を回し、再び攻撃に移った。
アーサーは魔王に接近するつもりだったが、躊躇った。
キョウコの動きがおかしかった。
ティナは普通に動いている。
接近したことで、何かが起こったのか?
アーサーは投げナイフで攻撃を試してみた。
魔王は避けようともしない。魔王にナイフが当たる。わずかに、出血した。
クラインは後方で戦況を冷静に見つめていた。それしか出来ないのだから。
クラインは見た。紫色の瘴気に触れた途端、キョウコの動きが止まった。
「皆、紫の霧に気を付けてください!あの霧に近寄るのは危険です!」
叫ぶクライン。多分、その予想は当たっている。
しかし、霧は薄い。どこまでが霧の範囲なのか、完全には掴めない前衛。
魔王はナイフの傷に軽く手を当てた。一瞬で傷が回復した。
回復魔法を使えるのだ。厄介極まりない。
ティナはなんとか霧の位置を見ながら、槍を突き続けている。魔王はティナの槍を、右手の刀で捌き続けている。
そして、左手に力を込めていた。黒い球が、魔王の左手に、徐々に表れる。
その左手の弾を、ティナ目がけて放ってきた。
黒弾が飛ぶ。ティナは驚いて反応に遅れた。
もう少しで回避出来そうだったが、避けられなかった。
直撃。ティナが後方に大きく吹き飛ばされた。
魔王はすぐに、態勢を整えられていないキョウコに狙いをつけた。接近。
マルシェは一生懸命考えていた。クラインの魔法は効かない。
魔王の武器は刀。魔王に近づくと動けなくなる。
アーサーの投げナイフは命中して、わずかだけでもダメージは通っていた。
魔王は回復魔法を使える。魔王は黒い球の魔法を使うことが出来る。
たくさんの情報を得た。そして、今の状況。
アーサーはキョウコの助けには入れない。動きが止まってしまう。
このままでは、キョウコが殺されてしまう。
マルシェは転移石に強く念じた。ここまでだ。撤退するしかない。
全員の転移石が砕け散った。
そして、六人は一瞬にしてその場から消えた。




