最後の戦いへの路
迷宮へと入り、道を歩いていく。道も、大分慣れてきた。
途中で休憩を一瞬挟んだ。休憩中も、少し緊張していた。
そして歩き出し、四層の、闘技場のような大部屋までたどり着く六人。
「いきなり守護者の部屋なんて、ちょっと予想外だったね」
キョウコはふう、と溜息をつく。苦戦が蘇る。
「この先が、いよいよ、五層なのですね」
クレアはぎこちない。明らかに緊張している。
「どんなところかしら。クレア、肩の力を抜いて」
ティナがクレアの肩を叩いた。ティナの方が、緊張していないようだ。
「行くか。また、いきなり戦闘になるかもしれない。気を引き締めていこう」
アーサーが合図した。
クレアを先頭に、大部屋を進んでいく。
一応、周りも警戒しながら進んだが、魔物の気配はない。姿も見えない。
階段にたどりついた。深い闇が広がっているような階段。上へと続く道。
クレアは一度振り返り、頷き、前を向き階段を昇り始めた。
暗い階段。上の方が明るい。五層だろう。
階段からクレアが五層に着地。通路のようだ。
他のメンバーも、五層へと入り込んだ。
「ここが、五層」
ティナは周りを観察しながら呟いた。
石の壁だったが、絵が、たくさん飾られている。廊下の壁に、たくさん。
風景画のような物もあれば、人物画のような物もあった。少々、不気味な量の多さだった。
骨董品が通路に置いてある。綺麗で、邪悪さは感じられない。
床には、絨毯が敷いてあった。赤い。
「なんていうか、今までで一番、優雅なフロアだね。絵はちょっと怖いけど」
キョウコは周りを見ていた。
「本に載っている、城って感じだな」
アーサーは知識を掘り出して、答えた。
「クレア、先頭を頼む」
「わかりました、行きます」
クレアが先頭を歩き出そうとした。
「ちょっと待って」
キョウコがクレアを止めた。
「どうしました?」
「なんか、床がべたつくっていうか、変な感じなの。ちょっと、練気を試させて」
キョウコはそう言うと、練気の構えに移った。しかし、何も起こらない。
「ダメだね。なんか、床が変な感じで、練気が出来ない」
キョウコは足をトントンとしている。
「魔王の影響でしょうか?キョウコの練気が出来ないというのは、考えておかなければなりませんね。
もしかすると致命的かもしれません」
クラインは原因を考えていた。
キョウコの練気に頼れない。パーティーを、不安感が襲った。
その不安を背に、クレアが先頭を歩き出す。
しばらく、通路を真っすぐに歩いた。魔物との遭遇は無い。ただ、絵が飾られている。
やがて、中規模の部屋が見えてきた。
通路から出れる。警戒しながら、中に入る。
開けた部屋は、石壁ではなく、木造り。暖炉らしきものが右側に。
左側には大きな、笑顔の人物の絵が。誰かを嘲笑っているかのように。
そして、目を引くのは、部屋の中の、紫色の霧。
霧が不気味だ。クラインとマルシェが、険しい表情をしていた。
「ねえ、この部屋、凄く嫌な感じがしない?正確に言うと、この部屋じゃなくて、この部屋の先かな」
マルシェは素直に感想を述べた。この先が不気味なのだ。
「マルシェもでしたか。僕もです。この付近から、嫌な気配がします」
頷くクライン。魔法使いの二人が揃って、嫌悪感を示している。
「俺は何も感じないな。まあ、見た感じは不気味だが……
魔力の高い二人が気配を感じるってことは、もしかしたら、魔王が近くにいるのかもしれない」
アーサーは分析した。
魔王。全員に緊張が走る。
「途中、魔物が一匹もいなかったけれど、何故かしら……余裕があるということ……?」
ティナは若干緊張している。
「ここからは、俺とキョウコ、ティナを先頭に歩いて行こう。
クレア、マルシェを頼むぞ」
アーサーの配置換え。魔王の存在を意識しての事だった。
部屋の奥に、また新たな廊下へと続く出入口がある。
そこへ三人を先頭に入っていった。。
広めの通路が広がっている。
嫌な気配は、濃くなっていく。
進んでいく。紫色の、霧。通路の先に曲がり角がある。
アーサーが曲がり角から、慎重に奥を覗いた。
曲がり角の先も、広い廊下。そして、廊下の先に部屋があるのが見えた。
誰かが、椅子に座っている。白い顔をした。黒衣。
「誰かいる。進もう」
アーサーは合図を出し、残りの五人も曲がり角を曲がった。
皆で奥を見る。椅子に誰か座っている。
「……椅子に座ってる?あれ、魔王?」
キョウコは緊張していた。霧は不気味だし、正体不明の人物が現れたのだ。
そして、六人のうち、マルシェとクラインだけが極度に緊張している。
「あいつが魔王です」
クラインは即答だった。
「うん、あいつが魔王だ」
マルシェも、汗を流しながら同意した。
「どうしてわかるの?」
ティナにはわからなかった。確かに、雰囲気は魔王のようではあるが。
「見えませんか?あの黒衣の周りに渦巻く、紫の瘴気。圧倒的魔力です」
クラインは明らかに緊張していた。こんなに緊張したクラインを、周りは初めて見る。
「うん、僕にも見える。あいつ、普通じゃないよ」
マルシェもわかっていた。緊張している。
「なんか、薄い霧みたいのは見えるけど、瘴気ってほどには見えないな……。
魔力の高い二人だから、見えるのかな」
キョウコは首を傾げた。
クラインとマルシェ以外の四人には、薄い霧にしか見えないらしい。
「もし、接近しても椅子に座ったままだったら、魔法で先制してみますが、
期待しないでください。恐らくダメージを与えられないでしょう」
クラインは予想していた。恐らく通らない。
「わかった。戦いの作戦は、入り口で話した通りにいく。慎重に、近づこう」
アーサーは一歩踏み出した。
六人が、歩き出す。




