食卓を囲む
一同は、一度道を引き返すことにした。
クレアの盾の強度の問題と、戻るリスクは少なそうなことから、
一度戻って、準備をし直した方が良いと判断した。
六人は結界の広間まで戻ってきた。
そして、そのまま集落へと戻っていく。
集落へ戻ると、それに気が付いた子供達が駆け寄ってきた。
「みんなが帰ってきた!」
子供がキョウコに抱きついた。
キョウコが子供の頭を撫でてやる。
「ただいま。みんなのことは必ず私たちが守るからね」
子供は頭を撫でられて、嬉しそうだ。
アーサーは微笑した様子で、それを見ながら言った。
「とりあえず、長老の所に、進展を報告しにいこうか」
「おお、そうか、頼もしい。一度引き返したきたのだな」
迷宮の進展を聞いた長老は、嬉しげだ。
「今日はゆっくり休んでいくといい。装備の補強も、得意な者に手伝わせよう」
「ありがとうございます」
クレアが頭を下げた。
「それでは自由行動で、また明日、入り口に集合ですかね」
クラインが言うと、皆が頷いた。
皆が長老の家を出ていく。
その時、最後尾にいたアーサーが長老に呼び止められた。
「
アーサーよ」
「なにか?」
「迷宮の様子は、昔と変わっていなかったか?」
「ええ」
「そうか。すまない、それだけだ」
短い会話を済ませ、アーサーも部屋から出ていった。
みんなでご飯でも食べようよ、と提案したのは、キョウコだった。
「ちなみに私は料理下手くそだから、何も作れないけどね。うん」
苦笑している。
「それなら、私に任せてください」
クレアが申し出た。
「クレアの料理は絶品よ。あれを食べ続けていたら、間違いなく舌が肥える」
ティナはクレアを賞賛している。
「僕も料理は得意だから、手伝うよ!」
マルシェも料理は得意らしい。
「一緒にやりましょう。私の家、割と広いので、私の家に来てください。一人暮らしですし」
クレアの提案で、クレアの家で夕飯を食べることになった。
料理担当はクレアとマルシェ。アーサーも料理は得意なのだが、面倒なのか、黙したままだった。
クレアは家の場所を皆に告げ、時間を決めて集合することになった。
マルシェがクレアの家の前まで、料理の材料を持ってやってきた。
小さな体で、よいしょよいしょと材料を運んだ。
トントンと、クレアの家のドアをノックした。
「クレア、いる?」
「はい、今開けます」
中からクレアの返事が聞こえてきた。
返事があってから、すぐにドアが開いた。
クレアの姿を見て、マルシェはドキリとした。
クレアは短い金髪を軽くピンで止めており、
白い清楚な服を着ていた。
迷宮の重装備からは想像できない姿だった。
「マルシェ、どうかしましたか?」
クレアが立ち止まっているマルシェを不思議に思った尋ねた。
「あ、いや、その」
「その?」
とっても綺麗だ、という言葉がマルシェの頭をよぎったが、
そういうことを口に出せる性格ではないマルシェは適当に誤魔化す。
「荷物が重くてさ。持ってきすぎたかも」
「ああ、それは大変です。どうぞ中へ」
クレアに連れられて、部屋の中に入る。
部屋の中は、ほんのりといい香りがしていた。
「荷物はそこへ置いてください。さて、腕を見せなければいけませんね」
クレアはやる気のある笑顔を見せた。
その笑顔にまたドキリとしてしまう。クレアは美人だと、マルシェは思った。
しかし、気持ちを切り替え、料理に集中することにしたマルシェだった。
「適当なの作ったら、キョウコが怒りそうだ」
マルシェがそう言うと、クレアはふふっと笑った。
集合時間になり、六人がクレアの家に集合した。
クレアの家は広かった。大きな机がある。
机の上には、多彩な料理が並べられている。
「すごいじゃん!」
キョウコが驚きの声を上げた。
「はい、マルシェが頑張ってくださったので」
クレアが笑顔で応えた。
「僕も頑張ったけど、クレアの方が凄かったよ」
マルシェは軽く否定した。
「これは、軽いパーティーですね」
クラインは椅子を見つけると、さっと座りながら言った。
「久々に腹八分目を超えそうだな、これは」
アーサーは早くも食べる気を出している。
全員が着席した。
「では、食べましょうか」
クレアが言うと、各々いただきますを言い、料理を食べ始めた。
「美味しい!このお肉の焼き具合」
キョウコが肉を食べ、感嘆の声を漏らす。
「それはクレアがやったんだよ」
マルシェも肉を美味しそうに食べている。
「本当?クレア、お嫁に来ない?」
キョウコは食べ続けながら言った。
「ダメ」
ティナが麺を食べるのを中断して遮った。
「なんでよー、いいじゃん」
「ダメ」
二人のやり取りが続く。
「キョウコは女性でしょう」
クレアが苦笑している。
「まあ、キョウコは男みたいなものですからね」
クラインが魚を食べながら淡々と言った。
キョウコが固まった。アーサーは笑いを口元で押さえている。
「クライン、今なんて?」
硬直が解けたキョウコが、眉間に皺を寄せ問い詰めた。
「この魚料理は絶品ですね。魚好きとしてはたまりません」
「それは僕が作ったんだよ。よかった、大好評だ」
マルシェは嬉しそうだ。
「無視されるし、フォローもないよ。アーサーも笑ってるし。
ウチの男共、最低だわ」
とキョウコ。
「料理が美味くて笑みがこぼれただけだ」
アーサーはサラダを食べている。
「嘘つくな!」
食卓は賑やかだった。