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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第四章 バックアタック
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懺悔

 その翌日。

早朝、六人が結界の広場の前に集合した。

準備、万全。


 そして、レイン大神官の姿もあった。


「みんなおはよう……なんだけど、なんでここに大神官が?」



 キョウコは首を傾げている。あまり面識はない。


「見送りに来たのです。みなさんを。ティナ、少しいいですか」


 レインはティナに近寄った。


「なんでしょうか?」


 ティナは不思議そうだ。


「これを、あなた達に」


 レインがそう言いながら、六つのペンダントと、ティアルの涙を取り出した。


「これは、転移石と、ティアルの涙ではありませんか」


「大聖堂から盗み出してきました。どうか、お持ちください」


「しかし、こんなことをすれば、あなたの立場が」


「私は、罪人になるでしょう。しかし、いいのです。もう、いいのです」


 レインは、どこか寂しそうだった。


「そんな、受け取れません」


「昔話をしましょう。私は二年前、愛する夫を失いました。

夫は、不治の病に苦しんでいました。私は懸命に看病をしましたが、病状は良くならず、

夫は日に日に弱っていきました。私は思いました。この病気を治すには、ティアルの涙しかないと。

私は、議会で必死に頭を下げました。どうか、夫の病を治すために、ティアルの涙を使わせてください、と。

私は罵倒されました。病気で苦しんでいるのは、お前の夫だけではない。

大神官としての自覚は無いのかと。

そして、ティアルの涙を手に入れることは、出来ませんでした。


 しかし、私は大神官でした。

大神官の鍵を使えば、ティアルの涙を盗み出し、夫を救う事が出来たのです。

しかし、当時の私には、その勇気が無かった。愛する者を失う悲しさの重みも知らなかった。

夫が弱っていき、夫が死ぬ運命であることを知りながら、ティアルの涙を盗むことが出来なかった。

私は苦しみました。

そして、ある晩……深夜のことでした。夫が私を呼びました。

夫は言いました。


『私はもう死ぬ。わかるんだ、自分の事が。

お前には、私に代わって、違う相手を見つけて、幸せになってほしいと言ってやりたいが、

私にはその勇気がない。お前に私の妻であり続けてほしい。

私はお前の夫でいられたことを誇りに思うよ。

情けない夫ですまない。レイン、どうか幸せに』と。


 私はその瞬間、家を飛び出しました。ティアルの涙を大聖堂から盗み出し、

必死に家まで走りました。

 しかし、家にたどりついた時、夫は既に息絶えていました。

夫は最後の瞬間、一人で死の恐怖と戦い、一人で死んだのです。

私は傍にいてあげることも出来なかった。手を握ってあげることも、出来なかった。

 それからの二年間、大聖堂での祈りの時間は、私にとって、懺悔の時間でした。

皆が真剣に祈りを捧げている間、私は懺悔し続けていたのです。

許しを乞い続けてきました。

こんな人間の、何が大神官でしょうか。私は大神官の器などではない。

しかし、私は、大神官を続けてきました。それもきっと、すべてこの時のためだったのでしょう。

ティアル様のお導きだったのでしょう。

あなた達に、この転移石とティアルの涙を託すこと。

この瞬間のために、私は大神官であり続けたのでしょう。

もう、後悔はしたくない。さあ、昔話は終わりです。

どうか、お持ちになってください、この転移石とティアルの涙を」


 レインは転移石とティアルの涙を、ティナに渡そうとした。

 ティナは何も言えなかった。レイン大神官の苦しみを理解しようとした。


 右手を差し出し、転移石とティアルの涙を受け取った。

 レインは微笑んだ。


「受け取ってくださって、ありがとうございます。あなた達の無事を、祈っていますよ。

絶対に、帰ってきてください。ティアル様のご加護を」


 レインは一礼すると、皆に背を向けた。

 背を向けてから、レインはは見えない所で、涙を流した。


「レイン様!必ず、必ず生きて帰ります!」


 ティナが叫ぶ。レインの背中に向かって。

 レインは涙を拭き、一瞬振り返り微笑むと、また前を向き、去っていった。

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