レイン大神官の心
その翌日のことだった。
ティナは、大聖堂に行こうと思った。
レイン大神官に会うためだ。
さっと支度をして、家を出る。大聖堂まで、のんびりと歩いた。
大聖堂にたどり着く。相も変わらず大きな建物だ。中に入る。
中では祈りの最中だったらしく、多くの神官が祈りを捧げていた。
タイミングが悪かった。
出直した方がいいだろう、と思ったとき、祈りの時間が終わった。
多くの神官たちが、解散していく。
これなら、話に行っても大丈夫だろと判断し、ティナは中を進んでいく。人が多い。
レイン大神官の姿が見えた。
レインも、ティナに気が付いた。
「おや、ティナ、どうしました?迷宮の調子はどうですか?」
ティナに近寄ってくる。
「次で、魔王との戦いです。レイン様に頂いたティアルの涙で、
パーティーの危機は救われました。感謝いたします」
「それはよかった。あなた達の役に立てて、何よりです。
しかし、次で魔王との戦いですか」
レインは低く呟いた。
「明日の早朝、出発します。必ず生きて戻ります」
「明日の早朝ですね。見送りに行っても、構いませんか?」
何か考えている様子のレイン。
「それは、心強いです。ありがとうございます」
「いえ、勇者たちの最後の出発です。見送らなければ」
「今日は、報告にだけ来ました。これで、失礼いたします」
「来てくれて、ありがとうございます。あなた達に、ティアル様のご加護を」
レインは祈った。
明日で、魔王との戦いに出発となる。
皆、少し緊張していた。
魔王。強さは未知数だが、恐らく、今までで一番辛い戦いになる。
五層も、何が待ち受けているかわからない。
しかし、この仲間たちとなら、進んでいける。
皆、同じ思いだった。
必ず、六人で生きて帰るのだ。
ティナは、大聖堂からの帰りに、クラインの家に行った。
また、寝ているのだろうか。様子を見に行ってあげようと思った。
クラインの家に到着し、勝手に中に入る。怒られないだろう。
中では、クラインが眠っていた。
クラインの傍に、『起こすな危険』と書かれた紙が貼ってあった。
ティナは少し笑ってしまった。何が危険なのか。
面白かったので、クラインのほっぺたをつついてやった。
意外とやわらかい。何回かつつく。クセになりそうだ。
「うーん、ファイアーボルト」
ティナが慌てて離れた。クラインが寝ながら魔法を使おうとしている。寝言か?
確かに、起こすな危険だったかもしれない。
ティナは苦笑し、そして、クラインの家を後にした。
アーサーは一人で、佇んでいた。
四層。四刀流の獣。あいつを、倒した。
姉さんたちの仇を取ったのだ。
どうか安らかに、と祈った。
後は、姉さんたちを操った魔王を倒すだけだ。
絶対に、倒す。
しかし、憎しみに囚われすぎてはいけない。自分を見失ってしまう。
自分は冷静でなければならない。リーダーなのだから。
戦いに勝っても、姉さんたちは帰ってこない。
二度と、帰ってこない。
アーサーは、しばらく、そのまま佇んでいた。




