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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第四章 バックアタック
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桜花六連

 逃げ切ったキョウコは、師匠の家まで来た。口は災いの元である。

門を叩いて、大声で叫ぶ。


「ばあや、いるー?」


 呼びかけ、すぐにおばあさんが出てきた。


「おお、キョウコ。迷宮の調子はどうだい」


 おばあさんは笑顔だ。キョウコが来てくれて嬉しいようだ。


「なんと、次で最後だよ。五層。魔王よ、魔王。それで、師匠に会いに来たの。起きてる?」


「今は起きてるよ。お入り」


 門を抜け、木の廊下に足をつける。

廊下を歩き、師匠の部屋の前へ。


「私は、向こうに行ってるよ」


 おばあさんは、キョウコを案内して、去っていった。

キョウコはおばあさんに手を振った。

 そして、師匠の部屋のドアをノックした。


「キョウコです。いますか?」


「入れ」


 中から声。キョウコはドアを開け、中に入った。

 師匠が布団から身を起こしていた。


「生きていて何よりだ。迷宮の様子はどうだ?」


 師匠は問いかけた。表情は厳しい。


「危険もたくさんありましたが、次で五層です。魔王との、戦いです。

それで、師匠にお願いがあって来ました」


「お願い?なんだ」


「奥義を教えてください」


「ダメだ」


 拒絶。


「なんでダメなんですか!練気は教えてくれたじゃないですか。それより、もっと強い技なんですよね?

私じゃ、力不足ってことですか?」


「力不足云々の問題ではない。お前は、奥義の危険性を知らない。奥義は、自らの命を落とす、最後の技なのだ」


「命を、落とす?」



「奥義をお前に教えるわけにはいかないのだ。それが目的なら、もう帰れ」


「で、でも!今のままでは力不足なんです。ここぞという時に、散々しくじってきました。

仲間たちのおかげで、命を救われてきたんです。仲間を守る力が欲しいんです。

このまま魔王との戦いに挑めば、どうなるかわかりません。教えてください、奥義を」


 キョウコは深く頭を下げた。

 師匠はキョウコを見ている。そして、昔を思い出していた。



「そんな機会は、この平和な集落では、無いと思うけど、

もしもあの子が本当に奥義を必要とするならば、教えてあげて。お願いよ」



 女の声を思い出す。師匠はため息をついた。


「仲間のために刀を振るうのだな?」


「はい、大切な人たちのために」


 師匠は、しばらく考え込んでいた。

 キョウコはじっと待つ。


「いいか、練気だけで倒せる相手なら、練気で倒すのだ。奥義は、本当に最後の技だ」


 師匠がゆっくりと喋る。

 キョウコは緊張した。教えてくれる。奥義を。


「練気は上手く使えるようになったな?」


「はい。練気を使うこと自体は、もう慣れました」


「練気で強く踏み込んだ後、普通に切り込んでいるな?」


「はい。切り込みは普通です」


「奥義はそこが違うのだ。踏み込んだ後、足元に溜め込んだ練気を、すぐに上半身に流し込む。

流れるようにな。すると、上半身に流し込んだ練気で、爆発的な力で切り込むことが出来る。

連続攻撃も可能だ。大体、六連撃が限界だが……。このため、『桜花六連』という名前がついた」 


 桜花六連。上半身に練気を流し込む。キョウコは真剣に聞いていた。


「何故、この奥義を使ってはいけないのか、わかるか?」


 質問。キョウコは必死に考えた。


「上半身に送り込んだ練気で、体に大ダメージが来る、とかですか?」


「違う。上半身に負担はかかるが、死ぬほどではない。……脳だ。

上半身に送り込んだ練気は脳へと達し、凄まじい衝撃を与える。

奥義を放ったら、その場で即死するか、意識を失い、二度と目覚めないかのどちらかだ」


 キョウコは息を飲んだ。即死。


「お前に教えたくなかったのは、そのためだ。本当に、必要な時にだけ、奥義を使うのだ。

勝手な使用は許さない」


 師匠は警告した。優しさ故。


「この奥義を使うには、奥義の威力に耐え得る刀が必要だ」


 師匠は立ち上がった。

壁際に歩いていき、壁に掛けられた一本の刀を握った。


「これは、お前の母の形見だ。持っていきなさい」


 師匠は、キョウコの元へ寄り、刀をキョウコに預けた。

 キョウコは刀をじっと見つめた。どこか、懐かしい気持ちがしていた。


「ありがとうございます、師匠」


「魔王は並の相手ではないだろう。だが、必ず生きて帰ってくれ。奥義も使わずにな」


「自分の命を無駄にはしません」


「……心配だな。少し、疲れた。休ませてもらう」


 師匠はそう言うと、布団に横たわった。


「キョウコ、お前も休んでおきなさい。戦いには、休息が必要だ」


「わかりました。今日は、ありがとうございました。お大事に」


「また会おう。必ずな」

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