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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第四章 バックアタック
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悪夢再び

 クレアの欠けた、五人で迷宮を歩いていく。

前衛は、ティナとキョウコだ。

いつも前にいるクレアが、いない。

それだけで、少し不安を覚える。


「あの子の大切さが、身に染みるわね」


 ティナが呟いた。もうクレアはいないのだ。


「そうだね。油断しないようにしないとね」


 前を一緒に歩いているキョウコも同じ気持ちだった。

 一度通った道を、前へ、前へ。


 一層から二層。


 二層から三層へ。


 魔物が途中、新しく沸いていた。魔王が介入しているようだった。

クレアがいないため、キョウコとティナは、盾に頼ることは出来なかった。

負けはしないが、慎重に魔物を倒す必要があった。神経が、削られる。



 途中で、一回休憩を挟んだ。

壮絶な戦いのあった、三層だからこそかもしれない。

三層には、魔物の気配は無かった。


 軽く休憩して、皆、先に進むことにした。

歩いていく。曲がり角。

マリー達との激戦のあった、長い廊下に到着した。


「この廊下、本当に危なかったよね」


 マルシェはぼやいた。


「挟み撃ちになるとはな……俺も、焦ったな」


 アーサーは、少しの感傷を抱きながら呟いた。


 長い廊下を渡り終えた。

もしかしたら、何か良くないことが起きるかも、という不安もあったが、何も起こらなかった。

 守護者、ステラの部屋まで、五人はたどり着いた。

 激闘の様子が、頭に浮かぶ。

 ここから先が、四層。

気を引き締めなければならない五人。


「皆に言っておきたいことがある」


 アーサーは守護者の部屋で、切り出した。


「絶対に、全員で生きて帰ろう。クレアのためにもな」


 皆が頷く。まだ見ぬ四層。絶対に、死ぬわけにはいかない。


「行こう」


 アーサーの、覚悟のこもった言葉。

 ティナとキョウコが、階段を昇り始めた。

階段は右に流れており、曲がりながら、みんなで昇った。



 五人が、四層に到着した。

 目の前に現れた光景は、意外なものだった。


「なにこれ、広すぎない?部屋」


 キョウコが辺りを見回している。

部屋が異常に広いのだ。本に載っている、闘技場のような部屋だった。

魔物の姿の欠片もない。


 目のいいアーサーは、奥を見た。

 見つめた先に、昇り階段があった。

 階段があって、ここが大部屋で……。階段?

 咄嗟に言葉を発した。


「みんな、散れ!指示だ!」



 アーサーは一番傍にいたマルシェを引っ張って走った。

皆はアーサーの意図が理解出来なかったが、指示通り散ろうとした。


 次の瞬間、上から獣が斬りかかってきた。

巨体。人間の二倍あるだろうか。紫色をしている。

四つの剣を持っている。

 ティナは獣の斬撃を避けられなかった。

 その場に倒れ込むティナ。

全員が走った後、後ろを振り向いた。ティナが倒れている。そして、獣がいる。


「ティナ!」


 キョウコはすぐに助けに向かおうとした。

 アーサーとマルシェ、クライン、キョウコの三部隊に分散されている。

 獣はアーサーとマルシェに狙いをつけた。理由は、わからない。一直線に走ってくる。


「(四刀流の獣……!)」


 クラインが危機を察知した。

アーサーとマルシェが狙われている。

このままでは、二人とも死んでしまう。

アーサーの短剣では、あの四刀流の獣の攻撃は防げない。

魔法を打ち込むか。しかし、間に合わないだろう。

ティナが倒れた今、唯一相手が出来るのは、キョウコしかいない。


 クラインは両手を床につけた。

 部屋は広い。だが、やるしかない。

 クラインを中心に、床が一気に氷漬けになった。

走っていた四刀流の獣は、転倒。

 クラインはアーサーに、床が広すぎて長くは持たないことを叫んで伝えたかったが、

集中していて言葉を発せない。


「アーサーどうするの!?ティナが死んじゃうよ!」


 マルシェは動揺している。早くティナを助けなければならない。


「この氷の床では、滑ってしまい、ティナの所までたどり着けない。待て、考えてる」


 アーサーは必死だった。今の自分に出来るのは、ナイフを投げて、獣を削るくらいだ。

この氷の床では動けない。氷の床が稼いでいるのは、時間。

勝ち目があるとすれば、この時間を利用した、キョウコの練気からの一撃しかない。

 獣は、走ろうとしては、転倒を繰り返している。

 アーサーはナイフを投げる。

 命中する度、獣を苦しそうに呻く。少しでもダメージを与えるしかない。

 

一方、離れたところにいるキョウコは焦っていた。ティナが死んでしまう。

 獣に近寄ろうとするが、滑って近づけない。

 獣も動けないが、自分たちも動けない。

これじゃあ、ほとんど意味が無い。ただの時間稼ぎだ。

 しかし、キョウコはハッとした。時間稼ぎ。自分は馬鹿なのか。

クラインはこの時間で私に練気をしろと言っているのだ。

 すぐに、練気の構えに移った。

短期決戦しかない。ティナは倒れ込んだままだ。治療しないと死んでしまう。今生きているのかもわからない。


 相手の首を飛ばすには、相手の背が高い。

 胴を切り飛ばす。

一撃で決めるしかない。しくじったら、もう後がない。



 アーサーの隣にいるマルシェは、焦っていた。

 どうする。自分だけ何も出来ない。急いでティナを助けに行かなければ。

 その時、マルシェの頭によぎったのは、祖父の言葉だった。

 大切な人を守りたいのなら、考えること。いいか、よく覚えておくんじゃ、と。

 そうだ。この時間はキョウコが練気をするためだけじゃない。

 獣は考えられないけど、自分たちは考えることが出来る。その時間なのだ。

 マルシェは必死に考えた。キョウコの練気で倒せれば、それでいい。

しかし、もし倒せなかったら。必死に考える。

 アーサーはナイフを命中させている。今、一番のダメージソース。

動けないのだから、それしかない。

 ナイフが命中する度、獣が呻き声を上げている。

 それを見て、マルシェが閃いた。


「アーサー!」


「どうした!」


 アーサーに余裕はない。


「あの獣、ナイフが当たる度、呻いてるよ。アーサー、前に言ったよね、あのナイフには毒が塗ってあるって。

メインの短剣は、とびきりの毒だって」


「毒が効いてる、そういうことか」


 アーサーは、確かにその通りだと思った。ナイフ単体の傷だけで、ああも苦しそうにするとは思えない。


「メインの短剣の毒を入れられれば、倒せるんじゃないのか?あの獣」


 マルシェのプラン。

 キョウコは練気の構えをしている。あと少しで、いける。


「キョウコが倒せなかった場合、俺がなんとか一撃入れるしかないということか。

しかし、あの獣の四刀を避け切れるかどうか、難しい所だが、やるしかないな。

助かった、マルシェ」


「それじゃだめだ」


 マルシェは意外にも反論した。


「もし、獣の攻撃を避けられなかったら、全部終わってしまう」


「じゃあ、どうするんだ?何か策があるのか、マルシェ」


「僕が走って囮になる」


「氷が解けたら、キョウコがすぐに突撃するだろうから、僕はすぐに走って、入り口まで逃げる。

キョウコの後ろを通って。獣はきっと、僕を逃がすまいと追いかけてくるはずだ。

そうすれば、アーサーの速さなら完全に獣の背中を取れる。

もしも獣が僕に食いつかなかったら、アーサーに全てを任せるしかないけど」


「しかし、その作戦、お前が死んでしまう。それではダメだ」


 アーサーは躊躇している。


「大丈夫だよ。投げナイフの毒で弱ってるし、キョウコの一撃も入るんだ。

絶対に、逃げ切って見せるよ。それに、この作戦なら、ティナの傍まで行ける。

戦いが終わって、すぐにティナの治療が出来る。ティナがいつまで持つかわからない。

僕は、簡単に命を投げ捨てたりしないよ。生きて、クレアにまた会うんだ」


 マルシェの目には、決意の炎が宿っていた。

 アーサーは考えたが、この作戦しかない。

 マルシェを信頼した。必ず仕留めて見せる。


「わかった。お前の作戦で行く。絶対に死ぬなよ」


「約束するよ」


 マルシェは力強く答えた。

 そして、氷を張っていたクラインの集中力の限界が来ていた。

 もう、持たない。

 氷が無くなっていく。魔法が解けた。


 キョウコが、確実に殺す覚悟で、駆けだした。獣へ。

 マルシェも同時に走り出す。囮作戦が通用するかどうか。

 キョウコが獣の前で強く踏み込んだ。

 一瞬。

 キョウコが胴を狙って、一閃した。

 獣が大声で呻いた。しかし、胴を切り飛ばせなかった。

 しくじった。二撃目を入れようとしたが、足の限界で、膝をついてしまうキョウコ。


 マルシェがその後ろを走って、入り口まで逃げようとする。

 獣が鋭い眼光をマルシェに向けた。

 獣は、マルシェを追いかけた。

 食いついたのだ。

 アーサーはもう走り出していた。

 マルシェも、懸命に走る。絶対に、命を落とさない覚悟で。

 走った。もう少しで、入り口の階段。逃げ切れる。

 その時、獣が予想外の行動に出た。

 持っていた剣を一本、マルシェに投げつけた。

 マルシェに剣が刺さり、マルシェがティナの横に倒れ込んでしまった。


 追いつかれてしまったのか……。

 マルシェの意識は朦朧としていた。

 隣にティナが倒れている。せめて、ティナだけでも……。

 マルシェは回復魔法を、ティナにかけた。

 弱い魔法しかかけられなかったが、生きていてくれれば、これで死にはしない処置だ。

 自分は、ここまでだ。マルシェは諦めた。

 近くで、金属のぶつかる音がする。

 何の音だろう。しかし、もうだめだ。

 アーサー、必ず獣を倒してくれよ。

 マルシェの意識が途切れた。


 アーサーは鬼気迫る勢いで、獣に迫った。

状況に焦ってはいたが、何故か都合よく、大きな盾がマルシェとティナを守っている。

 あの盾は何か?クラインの魔法か?

 しかし、今は獣を殺すこと、それのみ。

 完全に獣の背中をとった。短剣を獣の背中にねじ込んだ。

 獣が大きな呻き声を上げた。

 獣は持っていた武器を手放し、床に倒れ込み、胸を掻きむしっている。

 アーサーはすかさす、もう一本の短剣で、獣の首を飛ばした。

 獣の動きが、止まった。

 勝ったのだ。

負傷した二人を、なんとかしなければならない。

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