最後の手紙
お昼になった。
メンバーが、クレアの家に集まっていた。
家の外にまで、いい香りが漏れている。
「あら、いい香り」
ティナは香りを楽しんでいる。
「本当ですね、この香りは、食欲が出ます」
クラインは同意した。
全員が揃っている。
机の上に並んだ、たくさんの料理を囲んでいた。
もしかすると、最後の、みんなでの食事。
「じゃあ、いただきますしようよ」
キョウコは早く食べたいようだった。
皆で、いただきますをした。食事を皆で食べる。とても、美味しい食事だ。
「やっぱり、クレアの料理は美味しいね。絶対に、帰ってきて、また食べさせてもらう」
笑顔のキョウコだった。
「そうね、舌が肥えてしまうのが、心配だけれど」
ティナは微笑している。何か、考えているような、瞳。
みんな、あっという間に、食事を食べ終えてしまった。
「もう少し、作ったほうが、良かったでしょうか」
クレアは不安げだ。
「いや、ちょうどいい具合だ。皆もそうだろう?」
アーサーは笑顔だ。
皆、頷いた。丁度良い塩梅だ。
そして、出発の時が来た。
「さて、じゃあ、そろそろ行くか、四層へ」
アーサーは立ち上がった。
他の皆も立ち上がった。クレアも。
「入り口まで、見送りに行かせてください」」
「ありがとう。そこまで、一緒に行こう」
ティナは優しく了承した。
結界の前の広場まで、ゆっくりと歩くみんな。クレアは黙っている。
開けた広場の前に来た時、ティナが切り出した。
「ごめん、ちょっと長老の家に用事があるの。待っててくれるかしら?すぐ戻るから」
「あ、実は僕もなんだ。一緒に行こう、ティナ」
マルシェも用事があるらしい。
「わかった、待ってるよ」
キョウコはお腹をさすっている。食べすぎではないのか。
「本当にすぐ終わるわ。行ってくる」
ティナがマルシェと共に、歩き出した。
長老の家まで二人で来た。相変わらず、威圧感のある家だ。
二人で中に入る。
長老が、すぐに二人に気が付いた。
「ティナとマルシェか。どうした?」
「ちょっと、お願い事が」
話を切り出すティナ。
「もし、迷宮から私が帰ってこなかったら、この手紙をクレアに渡してください」
手紙を取り出した。
「あ……僕も、同じお願いなんです。迷宮から僕が戻らなかったら、クレアにこの手紙を」
マルシェの手紙を取り出した。二人の目的は一緒だったのだ。
長老は心配そうな目で、二人を見た。
「わかった、渡そう。だが、必ず生きて戻ってきてくれ」
二人は強く頷き、長老に手紙を手渡した。
「万が一のためです。必ず、生きて戻ります」
ティナは真剣だった。嘘は言っていない。
「僕も、同じ気持ちです。行こうか、ティナ。みんな待ってる」
二人は長老の家を、出ていった。
自分以外誰もいなくなった長老は、座ったまま、手紙に目を通した。
そして、しばらくの間、目を瞑り、そして立ち上がった。
皆に合流するティナとマルシェ。出発の時だ。
クレアが心配そうな顔で、みんなを見つめている。
「そんなに心配そうな顔しないで。大丈夫よ」
ティナがクレアを抱きしめた。
「生きて帰ってきてください」
涙声。
「約束する。クレア、今、言っておきたいことがある。
あなたの親友でいられることを、誇りに思う」
体を離すティナ。
皆、口々に、生きて帰ることをクレアに約束した。
「名残惜しいが、行こう」
アーサーの合図。
皆が、クレアをじっと見つめ、振り返り、歩き出した。
皆の背中を、クレアが見送る。
迷宮に、皆が入っていった。
クレアは祈った。どうか、皆が無事で帰れますように、と。
どうか、お願いします、と。
「クレア」
突然の声。クレアは驚いた。長老が目の前に立っている。
「長老、どうなさったのですか?」
「ティナとマルシェから、手紙を渡された。もし、自分たちが迷宮から戻らなかったら、
お前に渡してほしいと」
迷宮から戻らなかった、時。クレアが息を飲む。
「だが、今、私の独断でお前に渡す。家に帰って、読むといい」
クレアは、長老から、二通の手紙を受け取った。
長老は、手紙を渡し終えると、その場を立ち去ってしまった。
クレアは自分の家に戻った。
すぐに椅子に座り、手紙を読もうとした。二通。
クレアへ
この手紙をあなたが読んでいるということは、
私はあなたの親友失格ということになる。
生きて帰れなくて、ごめんなさい。
あなたと出会ったあの日から、長い時間を一緒に過ごしたわね。
私はあなたが本当に大切。
でも、私の事は忘れて。
生きて帰れなかった、親友失格の私に、もう、何もいう資格はない。
もし、元親友としての、私の最後の言葉を聞いてくれるのなら、
私の事は忘れて、こんな手紙は破いて、強く生きて。
強く生きてください。
それだけが私の望み。
さようなら。愛してるわ。
ティナより。愛をこめて
クレアへ
この手紙がクレアへ届かないことを祈ってるけど、
もしものために書いておくね。
これが届いてるってことは、僕は死んじゃったってことだよね。
でも、それは決して、クレアのせいじゃない。
自分を絶対に責めないで。
僕、クレアに一目惚れをしたんだ。
すごく、綺麗だったから。
直接言うことは出来なかったけど、今、ここに書いておくね。
僕、クレアのことが好きだよ。
クレアが幸せに生きられることを、祈っているからね。
さようなら。勝手に死んじゃって、ごめんね。
マルシェより




