表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第三章 悪鬼の突剣
30/49

クラインの思考

 場が静まり返った。

みんな、驚いている。


「な、なんでいかないの!?」


 キョウコは思わず叫んだ。


「逆に聞きたいですね。この状況で、どうして行くんですか?四層」


「どうしてって、集落もクレアも、魔王倒せなきゃ、守れないじゃん」


「あなた達は、四層に行く覚悟があると言いましたね。

クレアが今まで、どれだけ活躍してきたか、わかっていますか?

二層の怪鳥。クレアがいなければ勝てなかった。

三層の廊下。弓使いの矢を止めたのは、一体だれですか?

クレアの重要性を理解していない。

はっきり言いましょう。あなた達の覚悟というのは、覚悟ではない。ただの無謀です。

このまま行けば、あなた達は簡単に命を落とす。

加えて、僕が不在になります。二層で怪鳥を叩き落としたのは僕です。

三層で、僧侶の魔法を防いだのも僕。守護者との戦いで、逆転打を打ったのも僕です。

クレアと僕がいなければ、計五回全滅していることになりますね。

それでも行くんですか?四層に。たった四人で」


 皆、何も言えない。

無意識に、クラインは来てくれると思っていた。

四人で迷宮に挑むのは、限りなく無謀だと思われた。


「さて、僕は食事を摂ってから、また眠ります。

また明日、同じ時間に、ここで話をしましょう。

よく考えてください。自分の命の大切さを。それでは、失礼」


 クラインは淡々と告げて、すぐに立ち去ってしまった。

 五人が取り残される。

 重い、重い雰囲気が漂っていた。


「まさか、こうなるとは思ってなかったわ」


 ティナの表情が暗い。


「四人で挑むしかないのかな……。でも、それは」


 マルシェも、虚を突かれて、暗い表情だ。


「無理だ。クレアに続いてクラインも無しじゃ、あいつの言う通り、無謀そのものだ。

絶対に、全滅する。」


「じゃ、じゃあ、どうするの?ここに残るしかないの?戦うことを放棄して?」


 キョウコは不安げだ。クレアは黙っている。


「やっぱり、だめだよ。戦わなきゃ、魔物がどんどん入ってくる。なんとかしなきゃいけない」


 キョウコは戦うことを諦めないようだ。


「クラインを、何とかして、説得するしかないわ」


 ティナは建設的な提案をした。


「そのためには、クラインが何を考えて、行かない決断をしたのか、考えないといけない」


「クレアの重要性を理解していない、って行ってたよね」


 マルシェは呟いた。

 クレアの重要性。

確かに、指摘通りだった。

クレアの心のケアは一生懸命しようとしたが、

クレアの存在が、どれほどパーティーを救ってきたかという事について、

考えを一生懸命巡らせただろうか。いや、していなかった。


 確かに、クレアがいなければ、皆二回死んでいるのだ。

一人、パーティーから離脱する、という事に対する認識が甘すぎた。

加えて、今、それが二人になろうとしている。


「考える時間が必要だな。各自、一度一人になって、よく考えてみよう」


 アーサーの提案。皆、頷いた。


「その前に訊いておきたい。もしも、クラインを説得できなかったら、四層に行くか?

今の気持ちを、答えてほしい」


 皆、神妙な面持ちになった。


「私は、いかない。残念だけど、無理よ」


 ティナは諦めている。


「僕も、行けない……クラインはなんとか、説得するつもりだけど」


 マルシェも同意見だった。

 キョウコ一人が答えない。


「キョウコ、お前は?」


「ごめん、今は答えられない。ちょっと時間が欲しい」


 キョウコは歯切れが悪い。


「わかった。各自、いったん家に帰って、よく考えよう」


 アーサーが告げた。クレアは終始、黙ったまま。

 各自、自分の家に戻ることになった。

 皆の表情は、とても暗かった。



 ティナが家に戻ってきた。

椅子に座り、溜息をつく。

まさか、こんなことになるとは、とティナは思った。


 クレアに続いて、クラインもいなくなる。

クレアがいなくなると決定した時の心境を素直に述べるならば、

大変になるが、なんとかなるだろう、という甘え。

クラインの指摘通り、認識が甘かった。

今までクレアに何度も命を救ってもらったのだ。

その甘い雰囲気を、クラインは感じ取っていたのもかもしれない。


 クレアに必ず帰ると、約束した。

しかし、それは、状況が認識出来ていない自分の、

単なる口約束に過ぎなかったのかもしれない。


 適当な言葉で交わした、口約束。

自分の甘さに腹が立つ。


 おもむろに立ち上がり、飲み物を取りに行く。喉が渇いた。

 蜜柑味の飲み物を飲みながら、考える。

クラインは、考え込んでから、行かないと決断した。

長老の家で、最初に冒険に出かける時の判断は、もっと速かった。

すぐに、行きます、と言っていたはずだ……。

恐らくだが、クラインはクレアがいないから行かないと決断したわけではない、と思えた。

ティナ達の甘さを見抜いたのだ。

三層を突破して、それほど時間は経っていない。

それなのに、全員は、覚悟している、と口にした。

その覚悟は無謀だと言われた。実際、その通りだったかもしれない。

自分の命の大切さを、よく考えてください、とクラインは言った。


 自分たちに決定的に欠けていたのは、それか。

 クレアがいなくてもなんとかなるだろう、くらいの覚悟では簡単に死ぬ。

 確かに、そんなメンバーと一緒に、四層に行きたくはないだろう。


 ふう、とティナは溜息をついた。

クラインを説得するにはどうしたらいいだろうか。

多分、真の覚悟、それが必要だ。

クレア無しで戦うということが、どういうことなのか。

真剣に考えなければならない。

クラインは行かないと宣言したが、感謝しなければならない、とティナは思った。

自分の認識の甘さに気づかされた。

ふっ、と自嘲気味に笑う。


 そして、ふと気が付いた。

クライン、実は四層に行くつもりなのではないか、と。

希望的観測だが、クラインは魔力を回復させるため、ひたすら寝ている。

四層に行かないのなら、魔力を回復させる必要なんてない。

思考を巡らす。仮定があっていたとして、何故、行かないと口にしたのか?

一つしかない。自分たちに、考える時間を与えるためだ。

クレアがいないこと。パーティメンバーの減少。死の危険性が増えること。

諸々の事について、真剣に考えろと言っているのではないか?

実際、ティナはクラインが行かないと決断したことで、心底、真剣に考えこんでいる。

自分たちが死なないように、忠告してくれているのか。

それが本当だとしたら、意地が悪い。そして、仲間想いだ。

その思考が当たっているのかどうかはわからないが、

今の自分に出来るのは、真剣に考え、覚悟することだと思った。

クラインが四層に行かなければ、自分も行かない。


 命を大切にする。

今の段階では、その結論しかないと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ