表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第三章 悪鬼の突剣
28/49

あと一日

 朝。キョウコが目を覚ました。

 アーサーのベッドで眠っていた。


 隣にアーサーはいない。

 アーサーがいないのを確認してベッドから起き上がり、着替えをした。

隣の部屋に移動すると、アーサーが朝食を作っていた。


「おはよう、アーサー」


 キョウコが挨拶をした。ちょっと、照れる。


「起きたか。おはよう、キョウコ。今、朝食を作っているから、

ちょっと待ってろ」


「ありがとう」


 キョウコは椅子へと座る。よく片付いた部屋だ。


「ちょっとはキョウコ様のおかげで、元気出ちゃったかな?」


 キョウコはふざけている。相変わらずだ。


「ああ、お前が、俺を癒してくれた」


 アーサーはいたって真面目だった。


「ば、ばか。そこは、適当にふざけるとか、流すとか、あるじゃん。調子狂うよ。もう、ばか」


 キョウコの頬が染まっている。


「お前は綺麗だ。ほら、出来たぞ」


 アーサーは作り終えた朝食を運んできた。

 野菜に卵。固いパン。チーズ。

 キョウコは褒められて、完全にペースを乱されている。

 主導権を握られるなんて、情けない。

切り替え。切り替え。


「美味しそうだね。いただきます」


 アーサーが席に着くのを確認してから、キョウコは食事に手を伸ばした。


「ねえ、今日、クレアの家に行こうと思うんだけど」


「クレアか。そうだな、心配だしな。俺も行こう」


「一緒に行こう。クレアのことなんだけど」


 キョウコはマルシェと話していたことを、切り出した。

 話した内容を説明。


「そこまで、重症なのか……。俺も、クレアが抜けることに反対はしない。

あいつは今まで、本当に頑張った」


「そうだよね。話してみないとわからないこともあるけど、あんな目にあったんだもん。

本当に、辛い思いをしたよ、クレアは。クラインがまだ起きてないけど、

後はティナがどう考えているかだね」


「ティナもおそらく、抜けるのに反対はしないだろう。俺たちよりも、

クレアの心に敏感だろうからな」


 アーサーは食事に箸を伸ばす。


「そうだね」


 二人は淡々と食事を済ませていく。


 食べ終わり、ごちそうさまをして、二人で後片付け。

 準備が終わったら、クレアの家に出発しようという話になった。



 クレアの家の前。アーサーとキョウコがやってきた。

ドアをアーサーがノック。しばらく待っていると、出てきたのはティナだった。


「あら、おはよう」


 ティナも、アーサーとキョウコが二人でやってきたので、驚いだ。


「今、クレアと朝食を食べている所よ。二人同時なんて、待ち合わせでもしたの?」


「え、あー、その、うん」


 キョウコは歯切れが悪い。


「キョウコ、髪にアーサーの髪の毛がついてるわ」


「え、ウソ」


「嘘よ。なるほど、そういうことね」


 ティナが微笑している。


「何勝手に納得してるのよ!」


「二人で一晩過ごしたんでしょう?違うの?」


「それは、その」


 ティナにあまり嘘をつきたくないキョウコは、正直に言うことにした。


「うん、その通り」


「正直ね。アーサー、少し楽になった?」


「ああ」


 アーサーは苦笑。


「それはよかった。立ち話もなんだから、中に入りましょう」


 ティナは二人を中へ招き入れた。

 みんなで家の中に入ると、クレアが座っている。


「おはようございます」


 クレアが若干緊張しつつも、挨拶した。


「あの、アーサー、キョウコ、言わなければならないことが」


「どうした?」


「私、もう、戦えません。この先についていくことが出来ません。ごめんなさい」


「そうか。お前がそう言うのなら、勿論お前の意志を尊重するさ。

寂しくはなるけどな。そんなに、悪そうにしなくて大丈夫だ。

顔を上げてくれ」


 アーサーの声色は優しい。


「そうだよ。寂しくはなるけど、戦いから離れても、クレアは仲間だし、

そんなに悪そうにする必要なんてない。気休めになっちゃうけど、元気出してよ」


 キョウコも優しく続く。

ティナが少し、安心したような表情になった。


「私は四層へ行く」


 ティナの断言。四層。まだ誰も到達していない場所。


「私も行くよ。マルシェも、四層へ行く覚悟だって言ってたよ」


 キョウコはマルシェの事も言及した。

 クレアがビクッと反応した。マルシェも、四層へ。


「クレアとクライン以外、決意が固まってるということか」


「クラインね。彼、何を考えているのかわからない人だけど、多分、

行ってくれるんじゃないかと思うわ。勿論、起きてから聞いてみないとわからないけど。

彼が抜けたら、四人になるわね。その場合は、ちょっと考えなければならないわね」


「ごめんなさい」


 クレアが謝った。

 ティナは自分の発言を悔やんだ。このタイミングで、クレアに負担をかけてどうするのか。



「クレアが謝る必要はないわ。ごめんなさい、最低の発言だった」

「誰も悪くないよ。あ、そうだ、いいこと思いついた」


 キョウコが、場を明るくしようと話し出した。


「クレアに、私たちが帰ってきたとき、ご馳走を作ってもらうっていうのはどう?

とびきりのご馳走。六人分だから、大変だけどさ」


「それくらいなら、出来ます。やらせてください」


 クレアは深く頷きながら、提案を受けた。


「こいつは、帰ってこないわけにはいかなくなったな」


 アーサーは笑みを浮かべた。


「そうだね。何食べようかなぁ。リクエストとかしていいの?」


「はい、なんでも」


「やった!じゃあ、どうしようかなぁ、あれもいいし、あれも捨てがたいな。うーん」


 キョウコが頭を抱えている。

 場の雰囲気が和んだ。

 クラインが目覚めるまで、あと一日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ