少女達の誓い
それから、一日が経った。
ティナは目覚めると、朝の支度をし、家を出た。
クラインの様子を見に行くためだった。
クラインには大いに助けられた、などと考えながら歩き、
すぐにクラインの家にたどり着いた。
寝ているはずだ。一応ノック。
返事は無い。ティナはさっと家の中に入った。
部屋は凄く散らかっている。紙が多い。本も多い。どこに何があるのか、わからない。
クラインは汚さなど気にならないかのように、部屋の隅で眠っていた。
クラインの寝ているベッドに、寝ています、と書いてある紙が貼ってあった。正直見ればわかる。
クラインは大丈夫そうだったので、ティナは家を出て、クレアの家に向かった。
ティナがてくてくとクレアの家に歩いていると、途中でマルシェに会った。
「あ、おはようティナ。昨日はお疲れ様」
「おはよう。マルシェ、早いわね」
「うん、ちょっと、おじいちゃんの所に行くんだ。ティナはどうしたの?」
「クラインの様子を見てきた。大丈夫そうだったわよ。これから、クレアの家に行く」
クレアの家。マルシェは少し暗い表情になった。
「昨日、キョウコに話したんだけどさ」
「どうしたの?」
「クレアを、パーティーメンバーから外してくれないか、ってアーサーに言おうと。
キョウコは反対しないでくれた」
ティナは静かになった。気絶していたが、悪鬼の暴言の話は聞いた。
「今すぐには、なんとも言えないわ。話をしにいくから。
ただ、マルシェがそう判断したのなら……多分、もう、無理なのでしょうね。
その話、覚えておくわ。クレアを気遣ってくれて、ありがとう」
「当たり前だよ、大切な人だもん。ティナはクレアの親友だから、
僕より力になれると思う。クレアのこと、よろしくね。
じゃあ、僕、行くね」
マルシェは立ち去った。
少しの感傷を心に、ティナも再びクレアの家に向けて歩き出した。
「おとうさん、死んじゃった。わたし、一人ぼっちだよ。私、どうしたらいいの」
一人の金髪の少女が泣いている。
泣いている少女に、黒髪の少女が近づいた。
「どうしたの?」
黒髪の少女は、尋ねた。
「おとうさん、死んじゃったの。わたし、一人ぼっちになっちゃった」
「あなた、なまえは?」
「クレア」
少女は涙声で答えた。
黒髪の少女は、泣いている少女に顔を近づけた。
「わたしが今日から、あなたのともだちになってあげる」
「ともだち?」
「そう、ともだち。だから、あなたは一人ぼっちじゃないわ」
「あなたのなまえは?」
「ティナ」
ティナはクレアの家の前まで来た。
ドアをノック。腕を組んで、クレアが出てくるのを待つ。
しばらく待って、クレアが顔を出した。
「ティナでしたか。おはようございます」
「おはよう。入ってもいい?」
「どうぞ」
ティナが家の中に入る。この家に来るのは、これで何度目だろうか。
「何か、用事でも?」
「あなたの様子を見に来たの。大丈夫かどうか」
「大丈夫か、ですか」
クレアは俯いた。
「正直、あまり大丈夫ではありません」
「そう、か。食事はちゃんと摂るのよ。あとは、しっかり寝る事。ちゃんと寝た?」
「はい、一応、眠れました」
「それはよかったわ。あなたはよく戦った。自分を責めないで」
「私は、戦ってなど」
クレアは否定しようとしたが、ティナが遮る。
「あなたは真面目な子。だから、自分を責め続けるのでしょうね。
単刀直入に聞くわ。あなた、これからも戦える?」
ティナの瞳がクレアを見つめている。クレアは黙ってしまった。
沈黙。
クレアが恐る恐る、口を開いた。
「無理、です。私はもう、足手まといになりたくありません」
「わかった。あなたの意思が知りたかったの。正直に話してくれて、ありがとう」
マルシェの言った通りだった。クレアはもう、戦えない。
「ティナは、どうするのですか。戦うのですか」
「戦う。集落も、あなたも、守って見せるわ。四層へ行く」
「ティナは、強いのですね。昔からそうです。いつも、あなたに守られてきました」
「守られてきた、か。私はそうは思わないけど。あなたの存在は、私にとって、
かけがえのないものだったのよ。初めて出来た、心を許せる親友。
ねえ、初めて友達になった時の事、覚えてる?」
「もちろん、覚えています。私を、一人ぼっちにしないでくれました」
「あの時、誓ったわよね。あなたを、一人ぼっちにはさせないと。
私はあの誓いを守るわ。必ず、生きて帰る。
あなたを一人ぼっちにさせはしないわ。
だから、信じていてくれる?私たちが無事に帰ってくるのを。
戦いから離れても、あなたは仲間よ。
あなたがここで、私たちの帰りを待っていてくれるなら、私も強くなれる」
ティナは力強く語った。
クレアは、ティナに抱きついた。
「ティナ、どうか、死なないでください。約束してください。私は、待っています。みんなの帰りを。
だから、死なないで」
「約束するわ。親友同士の、約束」
ティナはクレアの頭を撫でた。
そのまま、クレアから身を離す。
「さて、私、朝食を摂っていないの。食材、借りてもいいかしら?」
「はい、構いません。私も手伝います」
「わかった。あなたも食べていないのなら、一緒に食べよう」
ティナは笑顔を見せた。
こうして、朝食を一緒に作る。こんな機会が、次訪れるだろうか、と思いながら。




