表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第三章 悪鬼の突剣
24/49

マルシェのお弁当

 辛い戦いが終わった。

 立っているのは、ティナのみ。

 ティナも無事ではなかったが、まずはマルシェの姿を探した。


 すぐに、マルシェの姿は見つかった。だが、ぼろぼろの状態だ。

 このままでは、回復できない……。

 ティナは突きの痛みに耐えつつも、クラインの傍に駆け寄った。


「私の独断で、使うわよ」


 ティナはクラインから、ティアルの涙を取った。

 マルシェの元に駆け寄る。お願い……生きていて……。


 マルシェの傍に来た。痛ましいほど、傷つけられている。

 クラインから取ったティアルの涙を、マルシェの口に含ませた。

マルシェの傷が、みるみる回復していく。


「う」


 マルシェが声を出した。復活したのだ。


「マルシェ、起きたばかりで混乱しているだろうけど、敵は倒した。

時間が無いの。すぐにみんなを治療して。状況は後で説明する」


 ティナがマルシェを促した。最悪の場合、間に合わない。

 マルシェはすぐに起き上がった。傷が消えている。


「わかった、急ぐ」


 マルシェは、皆を救うべく、動き出した。



 それから。全員の治療が終わった。

アーサーが生きているか、危うい所だったが、まだ生きていた。間に合ったのだ。

しかし、アーサーは気絶している。だが、命の方が大事だ。


「とりあえず、全員助かったわね。よかった、本当に良かった……」


 安堵するティナ。


「鍵を回収して、すぐに撤退しましょう。アーサーを担がなければ……

ティナ、アーサーをお願い出来ますか?」


 クラインがステラの灰の傍まで行き、鍵を拾い上げた。

 ティナがアーサーを担ぐ。クラインは魔力を消耗している。


 全員で、来た道を引き返すことになった。

 歩きつつ、クラインはマルシェに状況を説明した。


「雷撃をティナに当てたんだね。諦めないでくれた……すごいや」

 

マルシェは、回復の後だからか、疲労の色が見える。


 クレアが、虚ろな目をしている。

マルシェは、それに気が付いた。


「クレア、どうしたの?」


 マルシェはクレアを心配した。何かあったのだろうか。


「私は、無力です。何もできない。無力です」


 虚ろな目をしたまま、クレアは呟いた。


「そんなことないよ。必死に、守ってくれたじゃないか。元気を出してよ」


 マルシェはクレアを懸命に励ました。


「あの悪鬼の言うことを気にする必要はありません。さあ、帰りましょう」


 ステラの暴言を聞いていたクラインも、クレアをフォローした。

 三層の入り口、鉄格子の所まで、皆でたどり着いた。

 最悪、扉の鍵はもしかしたら開かないのではないか、という可能性もあったが、

クラインが鍵を恐る恐る差し込むと、ぴったりと合った。

鉄格子を動かせるようになった。


「やった、これで帰れるね」


 キョウコが喜んでいるが、キョウコも少し、虚ろな目をしていた。

 二層へ降りる。

 悪鬼は倒した。しかし、ステラは、パーティーに深い傷を負わせていた。

 心の傷。

 ティナは歩きながら、自分を責めた。


「あれだけ言っておいて、あんなに、あっさりとやられてしまった。情けないわ」


「ティナはトドメを刺したんだから、凄いよ。私なんて、なんにもしてない。

あんなにあっさり倒れちゃって……私が、ちゃんと仕留めていれば、よかったのに。

あいつの言う通り、私は雑魚だったんだ」


 キョウコが珍しく、自嘲気味だ。自信を失っている。


「みんな、元気を出してよ。自分を責めないで。僕たちは生き残ったんだよ。それを喜ぼうよ」


 マルシェは明るく言った。

 内心、無理をしていた。マルシェも簡単にやられてしまった。

 でも、みんなに暗い気持ちを引きずってほしくなかった。


「よくそんなことが言えますね。マルシェは、自分が悔しくないのですか」


 クレアがマルシェに、トゲのある言葉を言った。

いつもの優しいクレアなら、こんな言葉は絶対に言わない。心が弱っているのだ。


「クレア」


 クラインが抑えようとする。


「大丈夫だよ、クライン。僕は何を言われても、大丈夫。皆の方が心配だ」


 それでも、マルシェは明るくすることに努めている。

 クラインは、マルシェを少し、甘く見ていた。

しかし、その評価は完全に変わっていた。

 この男は強い。今、元気を分け与えられるのは自分だけだと、わかっているのだ。

自らも傷を負い、酷い目に遭った。とても痛かったはずだ。

なのに、全員の事を心配している。自分の事は後回しに。

この男は真の強さを持っている。

クラインはそう思った。



 そして、皆、歩き続けた。

暗い雰囲気が晴れないまま、集落まで、なんとかたどり着いた。




 帰ってきた六人。

結界の広場の前は、人気が無い。

魔物を警戒して、近づかないように、長老から指示が出ているのだ。


「これから、どうする?」


 ティナが皆に問いかける。疲労の色が見える。


「とりあえず、アーサーを家まで運びましょう。その後は、各自休んだ方がいいと思います。

アーサーが目覚めてから、また相談しましょう」


 クラインは考えながら発言している。皆の疲れは深刻だ。とくに、精神面。


「そうね。アーサーは私が連れて行くから、皆はもう休んでいいわ」


「助かります。僕は、二日ほど目覚めないかもしれませんが、起こさないでください」


 クラインが礼を述べた。寝るのは、魔力を回復させるためだろう。


「アーサーを連れていくなら私が……何の役にも立たないのですから、せめて」


 クレアが自虐的に言った。


「クレア、休みなさい。今のあなたは、休まないとダメ」


 ティナが鋭い口調で断定した。


「そうだよ、休もう。ほら、一緒に行こう」


 キョウコはクレアに寄り添って、無理やり連れて行った。

クレアは困惑していた。


 マルシェも歩き始めようと思ったが、クラインに呼び止められた。


「なに?」


 マルシェは、なんで呼び止められたのか、わからない。


「マルシェ、皆を頼みます」


 クラインは頭を下げた。突然に。


「どうしたのさ、突然。わ、わかったよ、クライン。いつもと違うね」


 マルシェは慌てている。皆を頼むとは、どういう意味だろうか。


「頼みましたよ」


 クラインは微笑した。この男なら、皆を癒してくれるはずだ。



 ティナはアーサーを、アーサーの家に連れて行って、横にならせた。

息はしている。かつての仲間と戦うことによる、精神面が不安だった。


 そして、その後、自分の家に戻った。

 ふう、と息をつく。

 手ごわい敵だった。全滅していたに等しい。

 自分の未熟さを呪う。不甲斐ない。

 アーサーを担いで歩いてきたので、流石に疲労している。

 

 着替えを済ませ、ベッドに倒れ込んだ。

 そのまま、少し眠った。


 目を覚ました後、温泉でも行こうかな、と思った。

温泉に入る支度をして、家を出た。



 キョウコはクレアを励ましてから、家に戻った。

 疲れた様子で、着替えながら思った。

 簡単にやられてしまった。練気を覚えた時、これでみんなの役に立てる、

と思っていたことを思いだす。


 全然、役に立たないじゃないか、自分は。

 私は、いてもいなくても、一緒なんじゃないか。

 マイナス思考が加速していく。

 眠ろうとするが、眠れない。

 気分を変えるため、温泉にでも行こうかと思い、支度して、家を出た。



 マルシェは家に戻り、少し眠った。

 そして、起き上がり、食事を作り始めた。

 お弁当を作っている。クラインは眠っていると思ったので、自分を含め、五人分。

 みんな、疲労とショックで食事をちゃんと食べてくれているか、心配だったのだ。


 しばらく作り続けて、完成した。

 お弁当と果物を持って、家を出た。

 まずは、一番近いティナの家に向かった。

 ところが、向かう途中で、ティナの姿を発見した。キョウコもいる。


「二人とも、丁度いいところに!二人してどうしたの?」


 マルシェは二人に駆け寄った。


「ああ、マルシェ。いや、温泉に行こうとしていたのだけど、

キョウコも行こうとしていたらしいの。そこでバッタリ会ったから、一緒に行こうっていう話になった」


 ティナは状況を説明した。


「マルシェは何してるのよ?温泉?」


 キョウコが首を傾げる。


「みんなに、お弁当を配りに来たんだ。みんな、食事を摂ってくれているか、心配だったから……。

何を作ろうかなって、散々迷ったよ」


 マルシェは笑顔で話した。

 笑顔で話すマルシェを見て、ティナとキョウコは、少し不機嫌だった。

お弁当を作ってくれるのはいいのだが、なんでこんなに笑っていられるのか。


「よく、そんな笑顔でいられるわね……」


 ティナがどうしても毒づいてしまう。


「だって、ほら、僕、元気が取り柄だから。僕よりも、傷ついた人がいるんだ。

傷ついているのは、僕だけじゃない。クレアに、アーサー。きっと落ち込んでいるはずだよ。

ティナとキョウコもね。だから、せめて、僕が元気にならないと。みんなに元気を分けてあげるんだ。

自惚れるな、って思われるかもしれないけどね」


 マルシェはお弁当を取り出している。

 ティナとキョウコは、ハッとした。

傷ついているのは自分だけじゃない、その通りだ。

この子、マルシェだって傷ついた。

しかし、そんな素振りを、この子は微塵も見せない。


強くあろうとして、強く振舞っているのだ。

帰り道に、自分たちが、自虐的になっていたのを思い出した。

ティナとキョウコは、自分を恥じた。

自虐的になっている場合ではない。暗くなってる場合でもない。

もっと傷ついた人が、いる。



「マルシェ」


 ティナは口を開いた。


「ありがとう。あなた、本当に強いのね。優しい子」


 微笑みが戻っている。


「気づかされたよ。私からも、ありがとう、マルシェ。お弁当、全部食べちゃうから」


 キョウコにも笑顔が戻っていた。

 二人に笑顔が戻った。マルシェは嬉しかった。


「二人が笑ってくれて、嬉しいよ」


 マルシェは素直に述べた。


「モテないと思っていたけど、マルシェ、意外とモテるのかもね。

温泉、私たちと一緒に入る?」


 キョウコがからかい始めた。いつも通りだ。


「あら、それはいいわね」


 ティナも笑顔で賛成している。


「は、は、入るわけないだろ!はいこれ、お弁当。からかうのやめてよ」


 マルシェは、顔を真っ赤にして、お弁当を渡した。

 二人はお礼を言いながら、それを受け取った。


「キョウコ様とは一緒に入れないと申すか。悲しいのう」


 キョウコの謎のキャラクターが戻ってきた。


「私と一緒に入れるチャンスなんて、滅多にないわよ。いいの?」


「いい!あとこれ、りんご。新鮮だから、食べてね。

じゃあ、僕、家を回るから、もう行くよ!」


 マルシェが逃げるようにして、その場から立ち去って行った。

 二人は笑顔でそれを見送った。

 そして、貰ったリンゴを、訝しげにティナが見ながら、言った。


「毒リンゴじゃ、ないわよね」


「違うと思うよ」


 キョウコは大笑いした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ