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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第三章 悪鬼の突剣
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悪鬼の足音

 アーサーは、キョウコを担いで、パーティーに合流した。


「こちらは撃破しました。そちらも、撃破したようですね」


 クラインが、疲弊した様子で現状を確認した。


「ああ……だが、通路を曲がった先に、俺の姉がいた。今、戦った者たちも……」


 突如現れた、昔の仲間たち。アーサーは心が揺らいでいる。


「おそらくは、守護者なのでしょう。だから、襲ってこなかった」


 クラインの予想。妥当なところだ。


「ねえ、今回の魔物達は、一体なんだったの?守護者なんかより、全然強かったよ」


 マルシェが尋ねた。マルシェが活躍する場面はなく、それは良いことなのだが、マルシェは申し訳なく思っていた。


「かつての、俺の仲間たちだ。クライン、お前、この展開を読んでいたな。

だから、テレポートを警戒して、魔法陣を描いた。違うか?」


「その通りです」


「どういうことなのか、説明してくれ」


 アーサーは説明を求める。知りたいことだ。


「残酷な話ですが、もう、話すしかないですね。昨日、仮説を立てました。

そして、このフロア。壁に並んだ髑髏。装備。

死人を、ゾンビとして操る、魔法の術があります。魔王が、その術を使える可能性がありました。

……アーサーのパーティーの躯が、魔王に回収され、ゾンビにされ、十年間、この迷宮で、

操られ、彷徨っていたという仮説です」


 クラインの声は暗い。話す内容が重い。


「十年間も……」


 アーサーはぽつりと呟いた。顔には覇気がない。


「そんなの、ひどい」


 キョウコも呟いた。声が震えている。


「アーサーのパーティーの話を聞きたがっていたのは、そのためだったのですね」


 クレアは事情が呑み込めたらしい。悲痛な声だ。


「ティナには、話をしました。アーサーへの精神的ダメージを考え、全員にあの場で言うことは、出来なかったのです。

申し訳ない」


 クラインは詫びた。

 辺りが静まり返る。皆、アーサーを心配している。


「アーサーの姉が、おそらく守護者。倒さなければなりません」


 クラインは真っ先に言った。他の皆に言わせたくなかったからだ。


「そんな、そんなのってないよ」


 キョウコが悲しんでいる。ゾンビとはいえ、確かにアーサーの姉なのだ。


「冷酷だけど、突破するしかないわ。後ろには、戻れないのだから……」


 ティナも悲しい表情で言った。そして、現実を見ている。


「アーサーには、下がっていてもらおうよ。こんな戦い、悲しいよ」


 キョウコはアーサーを見つめながら、アーサーを守ろうとした。


「いや、俺も戦う。姉さんを救ってやりたい。今更、遅すぎるかもしれないが」


 アーサーは遠い目をしながら語る。


「この十年間、苦しんできたのは、俺だけではなかった。俺も共に戦う」


 アーサーの目に決意が宿っている。何かの、気迫。

 その姿を見た仲間たちは、アーサーを止めなかった。


「僕から、報告しておくべきことがあります」


 クラインはアーサーの覚悟を聞いて、報告に移った。


「さっきの僧侶の魔法、あれを防ぐのに、魔力を使いすぎました。

もう、初級魔法が一発撃てる程度の魔力しか、僕には残っていません」


「一対五になる、のね……」


 キョウコは動揺している。

数的有利が確保出来ているが、クラインが欠けるということが、心配に思われた。


「回復するのに、どれくらいかかるのですか?」


 クレアは現実的な質問をした。


「二日程度、かかります。少なくとも、この階層で僕が戦うのは、無理です」


 クラインが申し訳なさそうに受け答え。


「クラインがいなくても、勝つしかない。アーサー、お姉さんの特徴、教えてもらってもいい?」


 ティナは勝つ気でいる。また、なんとなく自分の役割も理解していた。


「わかった」


 アーサーの頷き。


「姉さんは、突剣使いの剣士だ。攻撃も正確、動きも速い。

……ティナとキョウコが二人で挑んでも、勝てるかどうか、危うい」


 皆、息を飲んだ。

 そうなのだ。

 アーサーの姉は、突剣一本で、四刀流の獣相手に、時間を稼いだのだ。

 並の強さではない。


「クレアを先頭にして……俺とティナが同時に仕掛ける、という作戦がいいと思う。

キョウコは、部屋の外で待機してもらっていた方がいい」


 アーサーは現実的に、作戦を語り始めた。


「なんで?私も同時に仕掛ければ、三体一だよ」


 キョウコは数に入れられてなかったことに驚いた。


「部屋の外で練気をするんだ。部屋の外にいる限りは無敵だ。

練気をしている最中に狙われたら、お終いだからな。

練気が完了次第、隙を見て攻撃に移ってもらう」


「そういうことね。わかったよ」


 キョウコは納得した。


「僕は?」


 マルシェは役に立ちたく、質問した。


「マルシェは、一緒に中に入ってくれ。姉さんに、こっちの能力は知られていない。

一人でも数が多いほうが、警戒させられるはずだ。危険な目に遭わせるが、すまない」


「いいんだ。怪我人が出たら、すぐ回復するからね」


 マルシェは臆していない。勇気を持ったような表情だった。


「ティナ」



 アーサーがティナの方を向いた。


「今、攻撃出来るのは、俺とキョウコ、そしてお前だけだ。三人のうち、誰か一人が姉さんにトドメを刺さないといけない。

俺の武器の射程では、姉さんの動きを止めることは、難しいだろう。お前に、

ほとんど全てがかかっている。重い役目だが、姉さんと渡り合うのは、お前になる。皆を頼む」


 アーサーはティナに託した。

 短剣、刀、槍。

 キョウコは部屋には入らない。


「わかってるわ。この命がある限り、戦う」


 ティナは力強く誓った。全員に。


「僕も中に入ります」


 クラインも申し出た。


「囮くらいにはなるでしょう。アーサーが倒れた場合、指示も出せます」


「頼む」


 頷くアーサー。アーサーとクラインの目が合った。


「私は、先頭ですね。盾は一つ破壊されましたが、もう一つあります。

壁にはなれると思います」


 クレアは現状を告げた。


「頼む。厳しい戦いになるだろうが、必ず、皆で生きて帰ろう。皆で」


 アーサーは皆を見た。

 皆、頷いている。

 皆の間を、信頼という紐が、繋いでいるように見えた。

 三層の、最後の戦いが始まる。

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