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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第三章 悪鬼の突剣
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死線

 マリーの矢を回避した六人。

だが、すぐに二撃目が飛んでくると思われた。

 アーサーは考えた。

こちらから距離を詰める。その場合、矢を受けるクレアが危ない。

パーティーの位置が悪すぎる。

廊下の丁度、半分の位置。廊下は、人が四人並ぶのがやっとのほど、狭い。

キョウコの練気で、接近出来るかもしれないが、曲がり角に新手がいれば、キョウコが危ない。


「クレア、盾で弓矢を防いでくれ!クレアを盾にしつつ、元の部屋まで引き返す!」


 アーサーは判断した。逃げるのが最善の策。


「わかりました!防いで見せます!」


 クレアは、マリーの矢を防ぐ覚悟で盾を構える。


「出来るだけ、身を低くして、クレアの後ろに並ぶことを維持するんだ!行くぞ!」


 アーサー達は、撤退するために振り返った。

 だが、振り返った先に、人間らしき物体が三人いた。先頭が槍を持っている。


「囲まれてるよ!」


 キョウコが叫んだ。動揺している。


 アーサーは動揺、というより驚いた。

目の前にいたのが、かつての仲間、ホウマ、セレス、ベルエルだったからだ。

 どこから出てきたのか?

 テレポートで間違いない。来るとき、いなかったのだから。

 先頭が槍使いのホウマ。その後ろに、僧侶のセレス。最後尾が、呪術師のベルエル。

 セレスは魔法の詠唱を始めている。


 ティナは即座に戦う姿勢を取っていた。

槍使いのホウマと、せめぎ合っている。

ベルエルがそれを見て、黒炎を放った。ティナ目がけて飛んでくる。

即座にクラインが炎の魔法で対応した。相殺。

 クラインの魔力と、ほぼ互角。


「アーサー、どうするの!?指示をちょうだい!」


 キョウコは焦っている。後ろはティナが戦っている。自分は何をすべきか。

 アーサーは頭を何とか回転させた。

 自分たちに打てる手は何か。

 セレスの詠唱はおそらく、ホーリーメティオ。

 最強クラスの攻撃呪文。

 詠唱が終われば、間違いなく全滅する。

ホウマとティナ、ベルエルとクラインが互角……

そして、一番厄介なのが、通路の一番奥に陣取っている、マリー。

打てる選択肢が少なすぎる。


 優先順位はセレスの詠唱を止めること、マリーの矢を防ぐこと。

キョウコの練気なら、マリーに接近できるかもしれない。

 だが、曲がり角の先に、アーサーの姉である、

ステラが待ち構えている可能性が頭をよぎって離れない。

クレアがマリーの弓を防ぎ、ティナがなんとかホウマを突破してくれるのを祈るしかないのか。


 祈る?祈っていて勝てるわけがない。

 何か、この追い詰められた状況でも、こちらに有利な、何か……。

ある。クラインの魔法陣がある。何の魔法が発動するのかわからないが、

クラインが無駄な呪文を設置するはずがない。


 マリーの二撃目。

 通路の奥から一直線。

 クレアが盾で受け止めた。しかし、凄い衝突音がする。

マリーの攻撃を受け続けては、盾が持たない。


「私、弓手に接近して、倒してくる!」

 

 何も出来ていないキョウコが、アーサーに提案した。

 姉の存在が頭にちらついてるアーサーは、躊躇した。

キョウコが危険である。しかし、頼るしかない。

パーティー全体の事を考えるのが、リーダーだからだ。

 アーサーは深く頷いた。

キョウコもそれに対して深く頷き、練気を始めた。


「こっちは大丈夫だよね?」


 キョウコは練気をしつつも、仲間を気遣った。


「こっちは大丈夫だ。死ぬなよ。必ず助けに行く」


 アーサーは苦渋の表情である。

 来た道の方では、ティナがホウマを突破出来ていない。

ベルエルとクラインも互角である。


 だが、クラインには多少、余裕があった。

仕掛けた魔法陣。マジックシールドの魔法。

魔法を防ぐ、魔法の盾。

僧侶がどんな魔法を唱えようが、それで防ぐことが出来る。


 しかし、明らかに気になる点はあった。

アーサーのパーティーの最強の勇者、最後の六人目が姿を現していない。

テレポートはもう呪術師が使った。

出てくるとしたら、弓手側。

 アーサーは既にそれを察しており、キョウコが突撃したら、すぐに助けに走るつもりだった。

キョウコの練気はまだ、終わらない。


 マリーの三発目。

 しかし、今度のは矢のスピードが先ほどより、少し遅い。

クレアの盾に矢が着弾したが、ピシッと嫌な音がした。

盾は壊れていない。しかし、壊れるのは時間の問題だと、クレアは察した。

 矢を変えたのか。わからない。


「アーサー、盾が持つか、わかりません!」


 クレアが報告。余裕はない。

 ティナとホウマは、まだ槍の突き合いをしている。

 ティナが突破されれば、後ろは壊滅だ。

 しかし、敗色濃厚ではない。ティナの方が押している。

 その時、セレスが最後の詠唱を終えた。


「ホーリー……」


 アーサーはそれを制止すべく、使わないでおいた投げナイフを、セレス目がけて投げた。

 しかし、ベルエルがセレスの前に黒炎を放った。

 読まれていた。


「メティオ!」


 セレスの詠唱。

 クラインは動揺した。メティオ?

そんな事が……。最強クラスの魔法、禁呪ではないか。

空中に、光の白い円が現れた。

 クラインは即座に、マジックシールドを起動させた。

クライン達を守るように、銀色の盾が展開される。


 セレスの、空中の白い円から、無数の光の隕石が飛び出してくる。

 マジックシールドが、ピシ、ピシと、音を立ててそれを防ぐ。

しかし、盾はいまにも割れそうだ。

 クラインは思った。認識が甘かった。

 この魔法、強い。強すぎる。

 隕石は容赦なく飛んでくる。


 マリーの四発目。

 クレアの盾に直撃し、盾が砕けた。

しかし、盾はもう一枚ある。背後の状況を、クレアは見た。

かなり危ない。敵から猛攻撃を受けている。


「クレア、横に行って」


 キョウコが言った。練気の準備が終わったのだ。

 クレアは急いで壁際に離れる。

 キョウコが練気で、マリー目がけて走り出した。

 神速。

 遠くに霞んでいたマリーまで、一瞬で接近した。

マリーの前で、強く踏み込む。

 マリーは、キョウコの接近に気づいた時には、何も出来なかった。

 キョウコの一閃が、マリーを真っ二つにした。

崩れ落ちたマリーは、灰色の砂になり、消えていった。


 アーサーはキョウコを引き戻すべく、キョウコ目がけて走る。

 クラインは魔力をシールドに送り続けている。

 魔力が、持たない。

 隕石は飛び続けている。

 終わる。全滅する。

 そう思いかけた時、隕石が無くなり、白い円が消えた。

クラインの守護呪文が勝ったのだ。

 ティナはその瞬間を見逃さなかった。即座に飛び出す。

 ホウマは、勝ったと思っていたのか、槍の構えすら取っていなかった。

その隙を狙って、ティナの槍撃が三発入る。

ホウマも、マリーと同じく、灰色の砂になり、崩れ落ちた。

 セレスとベルエルが、忌々しそうな顔で、後退し始めた。

 クラインの描いたもう一つの魔法陣に、踏み込んだ。

 即座にクラインが呪文を起動。炎の渦。

巻き込まれたセレスとベルエルは、跡形もなく、消滅した。

残るは……。


 キョウコは練気の反動で、倒れ込んでいる。

 隣を見た。見えていなかった、通路の曲がり角の先。

剣を持った人間が、少し離れた位置に立っていた。

キョウコは息をのんだ。

今、接近されたら、死ぬ。

キョウコは一瞬、死を覚悟した。しかし、相手は接近してこない。


「キョウコ!」


 キョウコを連れ戻すべく、アーサーが駆け付けた。

急いでキョウコを担ぐ。

 道を戻ろうとするアーサーが、隣を見た。

アーサーの姉が、立っている。間違いなく、かつての姉の姿。

しかし、キョウコを合流させるのが、最優先。

アーサーはキョウコを担いだまま、急いで、道を戻り始めた。

 死の挟撃が、終わった。

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