出陣
第一章 始まりの道
集合した六人の勇者は、軽い自己紹介を済ませ、見送りに来た人々に別れを告げ、
岩の階段を昇り、ごつごつした岩に囲まれた、大きな広間に出た。
この空間が一番強力な結界であり、大広間を抜けると、迷宮に入る。
魔物の姿は、今は見当たらない。
「迷宮に入る前に決めておかないといけないことがあるな」
広間に最初に入ったアーサーがぽつりと言った。
「なになに?」
キョウコは興味津々といった様子で尋ねた。
「基本的な魔物に対する立ち回りと、パーティーのリーダーだ。
統率が取れていないというのは極めて危ない」
「なるほど。魔物に対する先陣は、私に任せてください。
防御重視の私が敵を引き付けるのが、一番安全でしょう。この通り、重装備です。
しかし、リーダーに関しては、私は不向きだと思います」
クレアが言った。言葉通り重装備だ。
大きな甲冑に、二つ盾を担いでいる。小さな顔とは正反対のようだ。
「パーティーが選択を迫られた時に、指示を出せる人間がいない……
強力な魔物との戦いでも統率が取れず、些細なことで揉め合う可能性があるということですね?」
クラインが考えながら言った。
「そういうことだな。まあ、リーダーに関しては、一層を抜けた辺りで決めることにしよう」
アーサーは投げナイフをいじりながら話した。話の主導権を握っているようだ。
「私には無理だなー」
「僕も無理だ」
キョウコとマルシェが苦笑いしている。
ティナが少し首を傾げていたが、六人は広間を抜け、迷宮の中に入った。
石の壁が続く迷宮の通路。
ひんやりとした空気が漂っている。
「いかにも迷宮って感じね」
ティナが周りを見渡しながら言った。
「気を引き締めていかないとね」
キョウコも、やや真剣な表情で言った。
そうして歩いていると、パーティーの前に魔物らしき物体が見えた。
クレアが素早く反応し、皆を守るように前に出た。
クラインは青い髪を揺らしながら、魔法の詠唱。
炎の弾がカマキリのような魔物目掛けて飛んでいく。
それは魔物に直撃し、魔物は跡形もなく消え去った。
「おや、私の出番はなかったようですね」
クレアが若干、驚いた様子で言った。
「こちらの姿が相手にバレていなければ、魔法で先制でもいいでしょう。魔力は消耗しますが」
クラインは余裕の様子である。パーティー唯一の、攻撃魔法使いだ。
「ここが浅い層だからなのか、魔物もそんなに強くなさそうね」
ティナが素早く手にかけていた槍から手を離し、呟いた。
「油断は禁物だがな」
アーサーが冷静に答えたが、アーサーも割と余裕そうな態度だった。
長い間、魔物を倒しながらパーティーは歩いていく。
すると、やや大きい部屋の中に入った。
石壁に囲まれており、ひんやりとした空気は相変わらずだが、魔物の気配もない、安全そうな部屋だった。
部屋の片隅には、綺麗な水が流れている。
「ここで一旦、休憩にしよう」
アーサーが言った。
「賛成、ちょっと疲れたよ。なんか水もあるし!」
キョウコが同意して、水を飲みに部屋の片隅へ向かおうとした。
「待て、安全かどうかわからない」
アーサーが制止した。
アーサーがキョウコを追い抜き、部屋の片隅に流れている水の元へ向かった。
水を観察し、少しだけ口に水を含んだ。
「うん、飲めるな。大丈夫だ」
「あ、軽率だったかも……。ありがとう」
礼を言って、キョウコは水をごくごく飲んだ。
その中で、クレアとティナが会話している。
「クレア、大丈夫?ただでさえ重装備だから、疲れてない?」
そう言ったティナも、そこそこだが重そうな装備をしている。
黒い鎧に、長く黒い槍と、短い槍を担いでいる。眼光は赤く鋭い。
「はい、大丈夫です。この程度の重さ、慣れていますから。ありがとうございます」
「疲れたら、おぶってあげでもいいから」
「はは。お願いするかもしれませんね」
二人は笑顔だ。
マルシェが羨ましそうにそれを見ている。
「あの二人、親友なんだってね。いいなぁ、そんな人がいて」
背の低いマルシェは二人の様子を観察している。
「面倒くさくないですか?別にそんな人、いなくてもいいのでは」
マルシェに対して、クラインが平坦な口調で言った。
「自分の事わかってくれる人っていうのは大事だよ!」
「私は魔術さえあれば、別に」
「うわ、この人本物だ」
そんな他愛もない話をしながら、全員が休憩を終え、先へ進むことになった。
長老によれば、層には一体の守護者がいて、その守護者が次の階層への道を守っているらしい。
「とりあえず、守護者っていうのを倒すのが第一目標ってことなんだよね。
守護者っていうくらいだから、強いのかな」
キョウコがぼんやりと呟いた。
「出会ってみないと、何とも言えませんね。しかし、警戒は必要でしょうね」
クラインが呟きに対して答えた。
「意外と大した事ないかもしれないぞ」
アーサーが口を挟んできた。
「さっきの水にはあんなに慎重だったのに、意外と楽天的なのね」
ティナが少し疑問的な様子で言った。
「ん、ああ、まあな」
アーサーは、やや口ごもり気味だった。
ティナはアーサーの態度に疑問を覚えつつ、皆と共に歩いていった。