地獄の曲がり角
三層を、クレアを先頭に歩いた。
明らかに、三層の様子はおかしい。
何がおかしいのかというと、魔物と一匹も遭遇していない。
魔物がいるより、存在しないことの方が、パーティーは不安だった。
ひたすら石畳と石壁。薄暗い。不気味だ。
「アーサー、もし獣が現れた時のためですが、あなたの昔のパーティーは、
強かったのですよね?」
クラインがアーサーに問いかけた。やや不自然だったが、強引に聞くしかない。
「昔の事は、あまり思い出したくないでしょうが、教えていただけませんか」
「大丈夫だ。何が知りたい?」
アーサーは、気にした風でもなく答えた。
「呪術師は、どんな魔法を使えましたか?」
クラインが優先度を、頭の中で整理している。
「ベルエルか……闇の炎とかだな。一番のとっておきは、テレポートだった」
アーサーの表情は見えない。
「テレポート、転移魔法ですか?」
クラインは質問を続ける。最悪の呪文かもしれなかった。
「ああ、詠唱が極端に長いんだが、一度来た道に戻ることが出来るんだ。
それも、パーティーでな。大分助かったよ」
アーサーは、心なしか、懐かしんでるように見えた。
ティナは、鋭い眼差しで、それを聞いている。
「なるほど。では、弓使いはどんな人だったのでしょう?」
「マリー……威力、スピード、命中力、どれを取っても、超一級の天才だった。
稲妻のような矢を放っていた。近距離でさえなければ、マリーも、もしかしたら……」
アーサーの表情が見えた。暗い。昔の事を悔やんでいるのかもしれない。
「わかりました。では、あなたのお姉さんですが」
クラインは、多少心が痛んだが、続けた。
「クライン!」
キョウコが割って入った。
「そこまで聞かなくてもいいでしょ!アーサーだって、昔の事思い出すのは辛いはずだよ。
別に、今、そんなに聞かなくてもいいじゃん。まだ獣は見つかってないんだし。
アーサーの気持ちも、考えてあげてよ」
キョウコは少し怒っているようだ。アーサーを案じている。
「すみません、確かにその通りです。申し訳ない」
クラインは素直に謝った。
「謝ることはない。悪いな、キョウコ」
アーサーは苦笑いしながら言った。
「どういたしまして」
キョウコが、くるりと回って、優雅に一礼した。
しかし、誰もツッコミを入れない。
やはり、雰囲気がいつもと違う。
ティナが何か言いかけていたが、何も言わない。
槍使いはともかく、まだ僧侶の呪文を聞いていない。
しかし、ここで助け船を出すのは難しいと、ティナは判断した。
パーティーに、亀裂が入りかねない。
ティナは黙することを選択した。
通路を歩いていく。そんなに狭い通路ではない。ただ、不気味なだけだ。
通路の先に、曲がり角があった。
クレアが慎重に、角を覗いてみる。
視線の先には、異常に長い廊下が続いている。幅は狭い。
魔物の姿も、見えない。
「こ、これは長い廊下ですね」
クレアは苦笑した。
「なんだか、ちょっと怖いね」
マルシェは長い廊下を、不思議がっている。
長い、通路。狭い地形。天才のマリー。
クラインは黙っている。