禁忌
迷宮に入った六人は、所々、休憩を挟みつつ、二層の守護者の部屋まで来た。
怪鳥との戦いが、皆の頭をよぎった。
「皆、準備はいいか?」
アーサーはやや、神経質になっている。当然だ。
いつでもいける、という皆のサイン。
「よし。いこう」
先頭はクレア。階段をゆっくりと昇っていく。
階段を昇り終えると、三層の最初の部屋にたどり着いた。
皆、周りを見る。
壁に飾られた、髑髏の数々。暗い、石壁の醸し出す雰囲気。
装備品のような物もある。しかし、一番目立つのは、髑髏だった。
「なにこれ、不気味すぎ」
キョウコは少し怖がっている。
しかし、一番驚いていたのは、アーサーだった。足が止まっている。
「アーサー?」
マルシェが、アーサーの様子がおかしいことに気が付いた。
「違う」
アーサーは困惑している。
「俺たちの昔通った三層と、全然違う。雰囲気も、構造も」
どういうことなのか、アーサーは困惑した。
クラインの予想通り、何かが変わっているのか。
アーサーは考えながら、入り口から少し離れた。
その時だった。
バタン、という音。
驚いて、皆が後ろを振り返る。
昇ってきた階段が、扉に阻まれた。
鉄格子が扉を塞いでいる。
「な、ちょっと、なに!?」
キョウコが扉に近づいた。
鉄格子に手を当て、動かそうとするが、びくともしない。
皆、直感で状況がわかった。閉じ込められたのだ。
「閉じ込められた、のでしょうか」
クレアが不安な表情だ。
キョウコに続き、クラインも扉に近づいていく。
様子をよく観察。
鍵穴のようなものがある。
「鍵さえあれば、出られるのではないかと思います。この扉、強い魔力が込められていますね」
不安がっているのは、クレア、マルシェ、キョウコ。
死の気配を察知しているのが、ティナ、クライン、アーサー。
「先に進むしか、ない?」
マルシェは不安そうに言った。三層には獣がいる。
「そうですね。鍵を探すしかないでしょう」
クラインは冷静さを保って言った。
しかし、クラインは内心焦っていた。昨日の休みに、考えた仮説が頭をよぎる。
三層に来る前に、皆に話しておくべきだった。可能性の話だとしても。
この雰囲気。髑髏。装備。しかし、ここで全員に言うわけにはいかない。
「クレアを先頭に、先に進もう」
アーサーは素早い決断を下した。
「雑魚は、そんなに強くないはずだ。守護者の部屋に気を付けて、鍵を探すしかない」
「少しお待ちください」
クラインが慌てて、アーサーを止めた。
クラインは考えた。告げておくべきは、誰か。
想像力を働かせた。彼女しかいない。
「ティナと二人だけで、少し話がしたいのですが」
クラインは真剣な表情だった。
「お?愛の告白かな?」
キョウコの言葉はおちゃらけていたが、表情が固い。
無理をして、場を明るくしようとしているのがわかる。
「何かあるのね。わかった、向こうで話をしましょう」
ティナはクラインの言葉を了承し、部屋の隅へと歩いていく。
クラインがティナの後に続いて、部屋の隅まで、二人は来た。
「みんなには、話せないことなのね。話して。必要な事なんでしょう」
ティナがクラインを促した。
「はい、ですが、その前に……。アーサーには絶対に言わないでください」
クラインの陰のある表情。何か考えているようだ。
「内容次第ね」
ティナも真剣。冷静である。
「わかりました。あなたなら、恐らく、話さないでしょう。では、言います」
クラインが話を始めた。
「昨日考えました。魔王には、魔物を生み出す力がある。それは、確定だと思います。
そして……魔術の世界での話になります。魔術の禁忌……屍を動かす力が、禁忌としてあります。
死んだ者を、ゾンビとしてコントロールする魔術が、あるのです」
クラインは話している。ティナは黙っている。
話の流れが、ティナには読めてきた。背筋が凍る。
「アーサーのパーティーは、三層で全滅しました。もし、魔王が、禁忌に手が届くほどの実力があり、
アーサーのパーティーの骸が、回収されているとしたら……」
「つまり……」
「察してくれているようですね。アーサーの仲間が、ゾンビとしてコントロールされ、
この十年間、迷宮を彷徨っている可能性がある、という話です」
クラインは暗い表情のまま、語り終えた。
ティナが息をのんだ。クラインの仮説が当たっているとすれば、残酷すぎる。
「私だけ連れてきたのは、そういうわけね。今伝えれば、アーサーは動揺する。
確かに、今、アーサーには、話せない」
ティナの表情は暗い。
「僕は、アーサーのパーティーの能力を、少し聞き出そうと思っています
躯が魔物にされているというのが、杞憂で終われば、それでいい。しかし、もしも仮説が当たっていれば」
クラインは続けている。今も、ティナとクラインは二人で話している。
「無知のまま戦い、全滅する可能性がある。少なくとも、アーサーの姉は、
たった一人で、四刀流の獣から、アーサーを逃がす時間を稼いだくらい、強い。
……話はこれで終わりです。あなたに話したのは、なんででしょうね、あなたが一番冷静だから、でしょうか。
相談に乗ってくださり、ありがとうございます」
礼を言うクライン。
「礼を言う事じゃない。私も、あなたのフォローは、最大限するわ」
ティナは、クラインに対して、頼もしい言葉を放った。
二人は頷き、皆の元へ戻っていく。
合流した時、皆、余計な詮索はしなかった。
とにかく、先に進むことになった。