二つの選択肢
そして、パーティーの休日は終わった。
一日を休みに費やした者もいれば、集落を周った者もいた。
朝、六人が広場に集合した。
クレアは鎧を着ており、いつもの格好だ。装備が補填してある。
「クレア、行けるのか?無理そうなら、正直に言え。重要なことだ」
アーサーは状態を尋ねた。当然だろう。
「
はい、いけます。昨日一日休んで、体も元通りです」
クレアは元気に答えた。
「よかったね」
キョウコがクレアの方を見ながら言った。
ティナも笑顔で頷いている。
「ええ、本当に」
「そういえばさ」
キョウコがふいに切り出した。
「私、必殺技を覚えたよ。重要なことだから、今言っておくね」
「必殺技?」
アーサーは怪訝そうな表情を見せた。必殺とは。
「師匠に教えてもらったんだ。えっとね」
キョウコが練気の説明を、皆にする。
とにかく、凄いスピードなんだよ!と力説。
「なるほど。それは頼もしいですね。使った後、しばらく動けないというのが、少々気がかりですが。
今、披露した方がいいのでは?」
クラインは思案しながら提案した。
「おっけー!じゃあ、えっと……」
キョウコが足踏みした。
練気を始める。キョウコの足元が黄色くなっているようだ。
「この、黄色い色、見える?」
「見える!」
マルシェは驚いている。
「それで、もっと集中して……」
キョウコは、左足を軸にして、右足を後ろに伸ばした。
そして駆けた。
広場の、迷宮の入り口まで高速で移動。
そのまま刀を振りぬき、空中を揺らした。
キョウコを除いた五人が、唖然としている。
キョウコはその場にへたり込んでしまった。
「見えた!?」
キョウコが座ったまま、皆に呼び掛けた。
皆で、キョウコの元へ駆け寄る。
「ああ、見えた。これは確かに、凄いな……」
アーサーは驚いたままだ。
「でしょー」
「これは、連打が出来ないものの、守護者との戦いで、とても活躍しそうですね」
クレアは嬉しそうだ。新たな技に喜んでいる。
「キョウコが休む間に、私からも言っておくべきことがあるわ」
ティナが切り出した。
「大聖堂のレイン大神官から、魔法の道具を頂いたわ。ティアルの涙という液体よ。
一つしかないけど、これを口に含ませれば、どんな傷でも、病でも、たちまち治るらしい」
ティナは帯から、小瓶を取り出した。
「それは、重要だ。重要すぎる」
アーサーが大きく反応した。
そうなのだ。この道具はとても強い。
皆も、この道具がいかに大事か、理解したようだ。
「問題は、誰が持つか」
ティナが話す。
「少なくとも、前衛ではないわよね。攻撃を受けて、破損でもしたら、洒落にならない」
ティナの意見。
「そうですね。このティアルの涙、おそらくはマルシェに使うことになるでしょう。
マルシェは回復が出来る。マルシェがいれば、ティアルの涙が無くても、仲間は起こせる。
マルシェが動けなくなった時、起こすために使う」
クラインは頷いている。
「となると、持つのは、リーダーのアーサーでしょうか?」
クレアも考えながら発言している。
「いや」
アーサーは異議を唱えた。
「クライン、じゃないだろうか」
「どうしてクラインなの?」
キョウコは座ったまま、首を傾げている。
「俺は中距離で戦っている。そして、クラインは後衛」
アーサーの意見。
「クラインは判断力に優れている。冷静なやつだ。
もしかしたら、マルシェ以外にティアルの涙を使わなければならない場合も、あるかもしれない。
そうした時に、一番後ろにいるクラインなら、確実に使うタイミングを見極められるだろう」
「そうだね、アーサーもだけど、クラインは頭が良いよ。絶対に頼れる」
マルシェはアーサーの意見に同意した。頷いている。
賛成、と皆の意見がまとまった。
「わかりました。丁重に扱います。ティナ、頂けますか」
クラインは了承して、ティナの方を向いた。
「クライン、頼んだわよ」
ティナがクラインにティアルの涙を渡した。
受け取ったクラインは、身に着けていた青色の首飾りに、ティアルの涙の、小瓶を取り付けた。
「確かに受け取りました。責任をもって、使います」
クラインは頼もしい声で言った。
そして、キョウコが反動から解放され、立ち上がっていた。
「キョウコも立ち上がったところで、行くか。三層へ」
アーサーの合図。
「あくまで様子見だ。決して無理はするなよ」
皆が頷いた。油断は見られない。
六人は、三層へと歩き出した。