アーサーの料理
ティナは家を出て、皆の家を回った。
あまり他人の家に興味の無かったティナは、周るのに多少苦労したが、なんとかなった。
クレアが起きた事を告げると、皆、安心した表情を見せた。
ティナも少し休んだ方がいいと言われ、周り終えたティナは、クレアの家へ向かった。
この場所は間違えない。クレアの家へは、すぐに着いた。
クレアの家のドアを開けると、いつもいい香りがする。
部屋に入り、ベッドのある部屋へ向かう。
寝室に入り、ベッドに横になると、疲れがドッと押し寄せてきた。
少し、無理をしすぎたかもしれない。
考え事をしたかったが、すぐに眠りについてしまった。
「ティナ」
どこからか呼ばれる声。
ティナの頭はぼーっとしていた。長い間、眠り込んでいたようだ。
ティナが体を起こすと、そこに立っていたのは、クレアだった。
「私、どれくらい寝てたの?あなた、大丈夫?」
ティナが目を擦りながら尋ねた。
「かなり、長い時間、眠っていました。もう夜ですよ」
クレアが受け答えする。
「安心しすぎたかしら」
ベッドから出るティナ。
「夕ご飯を、アーサーが作ってくれました。皆、向こうで食べていますよ」
クレアがティナの手を引いて歩き始めた。
「アーサーが?あら、それは楽しみ」
ティナは楽しそうな表情になった。
クレアは皆のいる部屋へのドアを開けて、その中へ入った。
シンプルな食事がテーブルの上に並んでいる。
野菜、肉、スープ。皆が、それを食べていた。美味しそうである。
メンバーは全員揃っている。
「起きたか」
アーサーが食事の手を止め、ティナに笑顔を向けた。
「ティナ、寝癖立ってるよ」
キョウコがからかっている。
「あら。失礼」
手で髪をいじるティナ。
「寝癖、かわいいから言わなきゃよかったかなぁ。もったいないことしたかも」
キョウコが、くうぅ、と悔しそうに言った。
クレアがくすくす笑っている。
「今日はアーサーが夕飯を作ってくれたと聞いたのだけれど」
キョウコをスルーして、ティナが椅子に座った。
「ああ、まあな。シンプルな物だが、不味くはないぞ」
アーサーはなんでもなさそうに言った。
「美味しそう。あの投げナイフで調理したりするのかしら?」
ティナが食事を皿に盛り始めた。
「まさか。あの投げナイフ、毒付きだぞ。メインの短剣に至っては、とびきりの毒だ」
アーサーが苦笑しながら言った。
「そうだったの。じゃあ、それでリンゴを剥いたら、私の好きな毒リンゴの完成ね」
ティナがマルシェの方を見て、笑っている。
「うう、根に持たれてる」
縮こまるマルシェ。
「余計なことを言うから根に持たれるのです」
クラインは微笑している。
「乙女心がわかってないのよ、マルシェは。まだまだ若いのぅ」
キョウコが謎の口調で言った。
そして、それもスルーして、ティナはスープを口にした。美味しい。
「とっても美味しいわ」
素直に称賛した。
「美味しいよね!何度でも食べたいよ」
キョウコも同意している。
「料理が美味かった時、クレアに、お嫁に来ない?と言っていたが、俺には結婚しない?とは言わないんだな」
アーサーが笑っている。
「なになに、言ってほしいのか?アーサーもやり手だのぅ」
キョウコがニヤニヤしながら言った。
「クレアかティナになら、言われてもいいな」
アーサーの容赦ない言葉。
「やっぱり最低!素直に褒めて損した!」
キョウコは頬を膨らませた。
クレアもいつの間にか席に座っており、やはり、くすくすと笑っている。
「みなさんと一緒にいると、楽しいです」
クレアが笑顔で、正直な言葉を出した。
「お前は正直だな。お前のいい所だよ。俺は恥ずかしくて、とてもじゃないが、そう思ったとしても、言えないな」
アーサーが苦笑いしている。
温かいムードが食卓を包んでいた。
食事が終わり、皆で食後の飲み物を飲んでいた。
葡萄を使った物だが、酒ではない。非常に甘みが強い。
そんな中、アーサーが話し出す。
「さて、話すべきことがある。大体予想はついているだろうが」
部屋の中にピリッとしたムードが走る。
「三層をどうするか、だ」