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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第二章 黒色の怪鳥
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立ちはだかる三層の気配

 クレアのいる部屋のドアが開いた。

 クレアは、一瞬マルシェが戻ってきたのかと思ったが、入ってきたのはティナだった。

ティナはクレアの方へ真っすぐ向かっていき、クレアを抱きしめた。


「無事でよかった。無茶しないで」


 ティナは安心した様子で言った。


「ティナ、心配をかけましたね。皆が無事で、何よりです」


 クレアはティナに抱きしめられ、少し照れている。


「心配したわよ。勇敢だったわ、あなたは。正しい判断だった。でも……もう、ああ、本当によかった」


 ティナはクレアを離す様子が無い。


「テ、ティナ、少し苦しいです」


 クレアが抱きしめられながら言った。


「あ、ごめん」


 ティナはそれを聞き、クレアから離れる。


 優しい目で、ティナがクレアを見つめた。

 クレアも温かい気分になり、ティナに話しかけた。


「ずっと待っていてくれたと、マルシェから聞きました」


「一応ね。マルシェもずっと待っていたのよ。あの子、何か言ってた?」


 ティナの質問に、クレアが顔を曇らせた。


「ええ、その、起こったこととか、皆が今どうしているか、とか、状況は聞きました」


 そしてクレアは黙ってしまう。


 ティナも少し黙った。少し間を置いて、ティナが口を開く。


「他には?」


「他に、ですか」


 クレアは浮かない顔のまま。


「何かあったのね。話したくなけらば、話さなくていい」


 ティナは優しい顔つきで、クレアに強要をしなかった。

 クレアはティナの顔を見つめた。むしろ、ティナに全て話したいクレアだった。


「その、間接的で、おそらく、の事なのですが」


 クレアが少しずつ語り出す。


「マルシェが、その、私に好意を寄せてくれていると思っています……。

それに対して、私、咄嗟に、不謹慎だと言ってしまいました。

私は起きたばかりなのに、と。マルシェを責めるような言い方をしてしまいました。

そんなつもりは、なかったのに」


 クレアは落ち込んでいる。


「咄嗟に、防衛的になってしまう、あなたの癖ね。

起きたばかりでそんな話をされるのも、確かに不謹慎だし、自分を責めることはないわ。

私にも責任の一端はあるし」


「ティナに責任?」


「色々あってね。時間を少し置いてみて、どう思う?マルシェのこと」


「それは、その」


「さっき言ったけど、話したくなければ話さなくていい。飲み物を取ってくるわ」


 ティナは椅子から立ち上がると、部屋からさっと出ていった。


 マルシェはティナを呼びに来た後、僕は家に帰るよ、と言って、家に帰っていった。

 マルシェが暗い表情だったのはこのためか、とティナは思った。


 ティナは飲み物を棚から取り出し、クレアのいる部屋に戻った。


「お待たせ」


 ティナはクレアに、右手に持っていた飲み物を渡した。

綺麗な水に、檸檬が浸してある。


「ありがとうございます」


 クレアはそれを遠慮がちに受け取り、飲み始めた。


「マルシェは」


 クレアが話し出す。


「いつも、元気です。感情的になってしまうこともありましたが、人間らしさが良く出ていて。

それに、とっても心の優しい人です。自分も疲れているだろうに、私の事を待っていてくれて。

一緒に料理をした時、とても楽しかった。大変でしたけど、

こんな時間が続けばいいなと思いました。隣にマルシェがいて、一緒に笑いながら作業をして。

好きなのかは、まだわかりません。でも、もっと一緒にいたいなと思います。

もし、マルシェが迷宮で命を落としたりしたら、私は立ち直れないでしょう」


 ティナは話を頷きながら聞いている。そして言った。


「一緒にいられるわよ。迷宮を突破して、無事帰ってこられたら、いくらでも。ありがとう、話してくれて」

「お礼を言うのは私の方です。話を聞いてもらえて、楽になりました」


 クレアの表情に、少し明るさが戻った。

 ティナも微笑んだ。


 クレアが飲み物を飲む。


「これから」


 ティナが今度は、やや険しい口調で切り出した。


「迷宮に挑むか、諦めるかっていう話が出ると思う」


「アーサーの言っていたことですね」


 クレアが神妙に頷いた。


「話を聞いた限り、私の思うところでは」


 ティナは目を瞑った。


「多分、勝てない。奇襲に気を付けていても、勝てる未来が、私には見えない。

動きが不規則すぎるの。今までのような戦術は通用しない。敵に手数も多すぎる」


 クレアが、ごくり、と喉を鳴らした。緊張している。


「しかし、結界がどんどん薄くなっていったら、敵が集落に侵入してくる未来も見える」


 ティナは続けた。


「皆殺しよ。私たちだって死ぬ。挑んで勝つか、死ぬか。集落に残って死ぬか」


 ティナはハっと気が付いたように、言葉を止めた。


「起きたばかりのクレアに考え事をさせるのは、良くなかった。

気が利かなくてごめん」


 謝るティナ。


「いいんです。大事なことですから」


 クレアは考え込んでいるようだった。


「今は、あまり考えないで。ゆっくり体を休めて、早く、元気になって」


 ティナは労いながら、立ち上がった。


「みんなにクレアが起きた事を伝えてくる。それから、少し私も休むかな」


「無理はしないでください。あ、ベッドを私が占領してしまっていますね」


「それはいいの。私は、クレアのベッドを借りるわ」


「はい、わかりました。自由に使ってください」


「コロちゃんはまだいるの?」


「いますよ」


 クレアはふふっと笑った。


「やった。幸せ」


 コロちゃんとは、クレアの家にある抱き枕のことだ。

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