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迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-  作者: 夜乃 凛
第二章 黒色の怪鳥
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想い

 パーティーはクレアを担いで、集落の入り口まで戻った。

流石に往復の距離も長くなっており、疲労の色がパーティーに見えた。


 クレアはまだ目覚めない。


「クレアは私の家で休ませる。早く、横にならせてあげたい」


 ティナはクレアを心配している。



「わかった、連れていこう。案内してくれ」


 クレアを担いでいるアーサーが道案内を促した。


 ティナを先頭に、集落を歩き始める。

集落の賑わっている市場などからは、少し離れているところに、ティナの家がある。

ティナの家の周りには、人気が少ない。

ティナの家にたどり着いた頃には、もう周りには人気はなくなっていた。


「入っていいのか?」


 アーサーがティナに尋ねた。


「いいわ」


 ティナが先頭に立ったまま、ドアを開いた。

ティナは慣れた動きで部屋を動く。


生活感のある雰囲気が部屋の中には漂っていた。

汚い所は無く、どこも小綺麗に片付けられていた。


 ティナは、こっち、と手招きしながら、左手奥の部屋へと向かっていた。

左手奥の部屋には、ベッドがあった。寝室らしい。


 そこで、ティナはクレアを横にならせようとした。

しかし、クレアの服は血で汚れていた。


「着替えさせるから、キョウコ以外は出てもらってもいいかしら。前の部屋に飲み物があるから、飲んでて」


 男性陣は頷き、部屋から出て行った。


 ティナはキョウコと一緒に、クレアの衣服を取り換え始めた。


「危ない所だったね」


 キョウコが作業を行いながら喋った。


「ええ、本当に。この子は、勇敢すぎるわ」


 クレアの衣服を取り換え、クレアをベッドに横にさせた。

続いて、毛布をかけてあげた。クレアはまだ目覚めない。


「これで、しばらく目覚めるのを待つしかないね。

精神的に、ショックが無いか、それが心配」


 キョウコはクレアを気遣っている。心配そうな表情だ。


「そうね」


 ティナも暗い表情だ。


「みんなの所に行きましょう」


 ティナとキョウコは、クレアの方を一度見てから、部屋から出ていった。

 前の部屋に戻る。

男性陣は椅子に座って待っていた。


「着替えさせたわ。横になってもらった。まだ目覚めてない」


 男性陣が飲み物を口にしていなかったので、ティナは棚から飲み物を取り出し、皆に手渡した。


「ありがとうございます。今は、クレアには休んでもらいましょう」


 クラインが飲み物の礼を言いながら、クレアを心配した。


「これからの事だが」


 アーサーは飲み物に目をくれず、話し始めた。


「皆も少し休んだ方がいい。かなり、消耗しただろう。俺も、少し疲れた。話すべきことは山積みだが」


「そうね。各自、一旦、家に戻ったほうが良さそうだわ」


 ティナが同意した。


「クレアは私が様子を見るから」

 

 賛成多数で、各自休憩を取るという方向で、話がまとまった。

皆が家を出て、各々の住処へ向かった。


 しかし、マルシェだけ、ティナの家を出ていかない。


「どうしたの?あなたも、休んだ方がいい」


 ティナはマルシェに言った。マルシェが残っているのが不思議だった。


「ティナはどうするの?ベッドはクレアが使ってるから、ティナが休めないよ」


「私はクレアの隣で、椅子に座って、目覚めるのを待つわ。傍にいてあげたい」



 ティナの声はか細い。


「僕も、しばらくしたら帰るから、もう少しだけ、ここにいてもいいかな」


「クレアが心配?」


「うん」


 ティナはしばらく黙っていた。マルシェも疲れているだろうに。


「いいわ。二人で待ちましょう。ただし、本当に疲れたらすぐに帰るのよ」


「ありがとう」


「礼を言われることじゃない」


 ティナが少量の食料と水を、木製の棚から取り出した。マルシェに手招きし、ベッドがある部屋へ向かう。


「入りなさい」


 ティナがマルシェを誘う。ティナに連れられて、マルシェも部屋に入った。

クレアが横になっている。まだ、目覚めないままだ。

マルシェは心配そうにクレアを見た。


 ティナは四角い椅子を二つ持ってきて、床に置いた。背もたれがある。


「どうぞ」


 ティナが椅子を勧めながら、自らも椅子に座った。

マルシェは、再び、クレアの方を心配そうに見つめた。

 勇敢な、優しいクレア。


 ティナがマルシェの横顔をじっと見ている。

そして、ふう、と息をついた。


「あなた」


 ふいにティナが言った。


「なに?」


「クレアの事が、好きなのね。女の子として」


「な、なんだよいきなり。そんなこと、ないよ」


 マルシェは口ごもった。


「別にあなたを責めているわけじゃない。正直に答えなさい」


 ティナは優しくもなく厳しくもなく、無表情である。


 少し、沈黙が流れた。


「うん」


 マルシェは頷いた。


「好きだよ、クレアのこと」


「やっぱりね」


 ティナが溜息をついた。


「薄々そうじゃないかと思っていたわ」


「ごめん」


 マルシェは何故か謝りたくなって、謝った。


「謝ってどうするの。人を好きになるのは、当然の事よ」


 淡々とティナが話す。


「この子があなたの事をどう思っているかはわからないけれど、好きならちゃんと素直でいることね」


 ティナの表情が少し厳しくなった。


「いつ死んでしまうか、わからないのだから」


 ティナは、目覚めないままのクレアを見ている。


「そうだね」


 マルシェはティナが語る様子を見ている。


「この子は勇敢な子よ。そして、本当に真面目。この子を泣かせたりしたら、許さないから」


 ティナは表情を変え、微笑を見せた。


「もし上手くいったら、この子の事をお願いね。あなたなら大切にしてくれるでしょう。

フラれたら、相談くらいは乗ってあげるわ」


「ありがとう」


 マルシェは思った。ティナは優しい、と。

マルシェは、クレアとティナのどちらを助けるか、迷ったことがあるのに。

温かく接してくれる。

マルシェは罪悪感に捕らわれた。


「前に、リーダーを決めるときに、一日悩む時間があったよね」


「あったわね。いきなりどうしたの?」


「あの時、僕、クレアとティナが同時に傷ついていたらどうしよう、って思ったんだ。

僕は考えを途中で打ち切ったけど、指示が無かったら、僕はクレアを助けにいったと思う」


 マルシェは俯きながら語った。暗い声だ。


「こんな僕に、どうして、そんなに優しく」


 マルシェは今にも泣きだしそうだった。

 ティナが、微笑しながらマルシェの頭を撫でてやった。


「素直なのね。いいのよ。好きな人を助けたい、素敵な事じゃない。

そんなことで、いちいち悩んだりしないの。好きな人を意識してしまうのは、普通の事よ。

あなたも真面目すぎるわ。ほら。男の子でしょう、泣かないで」


「うん」


 マルシェの返事を聞いたティナは立ち上がった。


「私、向こうの部屋で待ってるわ。クレアがもし起きたら、話をしてあげて。

私を呼びに来るのは、しばらくしてからでいい」


 ティナが食料と水を、マルシェの手に渡し、部屋から出ていこうとした。


「ティナはすごい人だね」


「それはどうも」


 ティナは颯爽と部屋から出ていった。

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