立ち上がる六人の勇者
迷宮六人の勇者 -Cherry blossoms six hits-
序章
地下集落。
太陽の光の当たらない地下にある土地で、多くの人間が生活を営んでいた。
日の光を見ることは出来なくても、民達は平和に暮らしていた。
あの日までは。
人々はいつも通りの日常を送っていた。
賑わう商店街、走る子供たち、笑顔で歩く夫婦。
幸せで、平和な日々だ。
そんな中、一人の子供が指をさして言った。
「ねえ、あれ何?」
子供が指さした方向で、謎の物体がのろのろと歩いていた。
色は灰色で、泥の塊のような物体。それが動いている。
子供が興味津々な顔で、その物体へと近づいていく。
「なんだこいつ、気持ち悪い!」
子供が嫌悪感を示しながら言った。
そして、次の瞬間、その物体は子供の頭にかぶりついた。
子供の体が頭を失い、倒れた。
轟く悲鳴。
人々は散り散りになって、その物体から逃げた。
「魔物が結界を抜けて侵入してきたようだ」
壮大な雰囲気の漂う、長老の家。
歴史の古い木で作られ、古びた香りを醸し出している。
その中で、髪が白く、白いヒゲを伸ばしている長老が語っている。
「長年この集落は、始祖様の結界のおかげで、魔物の侵入を阻んできたが、
結界の力が、何故か弱っているようだ。今はほとんど魔物は侵入してきていないが、
結界の力が弱まっている以上、魔物が今後も侵入してくるだろう。
何故、結界の力が弱まったのかはわからないが、回復する見込みは、今のところなさそうだ……」
長老の声は暗い。
長老の前に並んだ六人の男女がそれを聞いている。
「それで?どうするんだ?」
白髪の男、アーサーが尋ねた。年は二十七くらいだろうか。
「この集落の結界を抜け、結界の先にある迷宮を上がっていった先には、
地上があると、伝承にある。
そして、魔物を作り出し操る魔力を持った、魔王が地上の前に鎮座している、と。
魔王を倒せば、魔物は灰と化す、と」
長老は続ける。
「この集落に戦える力を持つ者は、ほとんどいない。
魔王を打ち倒し、魔物その物を消滅させなければ、この集落は滅亡するだろう」
「私たちにその魔王を倒してこいってこと?」
腕を組んでいる、長い緑髪の女が訊いた。名はキョウコ。若い顔立ちだ。
「そうだ。お前たちは戦える力を持っている。どうか、魔王を打ち倒し、
この集落を救ってほしい。お前たち以外に頼れるものはいないのだ」
長老が頭を下げた。
「で、でも、危険だろうし、迷宮がどこまで続いているのかもわからないし、
六人でなんて、死にに行くようなものじゃないですか」
おずおずと、茶髪の男、マルシェが話した。顔は幼く、背が低い。
「迷宮は集落を抜けた先の、一層、二層、三層、四層、五層までだと記録にある。
終わりの見えない旅ではない。頼む、集落の未来を……」
沈黙が辺りを包み込んだ。
各々、考え込んでいるようだ。
「魔王を倒さなければ、集落も、未来も何もかも奪われてしまうのですね?」
沈黙を破り、金髪の女、クレアが発言した。肌が白い。
「そうだ」
「そうであるならば、私は行きます。集落の未来のために。他の皆さんは?」
クレアが座っていた椅子から立ち上がりながら、周りに尋ねた。
「クレアが行くなら私も行こう。共に」
黒髪の女、ティナが立ち上がりながら答えた。背が高い。
「行く以外の選択肢は無いと判断しました。ここで待っていても時間の無駄です」
青髪の男、クラインが立ち上がり、ティナの後に続いた。
「やるしかないなら、やってやるよ!」
キョウコも勢いよく立ち上がり、元気な声で言った。
「俺はもとより覚悟は出来ている」
アーサーは壁から背を離し、平坦な口調で言った。
マルシェはまだおずおずとしていたが、皆の様子を見て、弱々しく立ち上がった。
「行かないなんて、言えない雰囲気だ……。怖いけど、僕も行くよ。仕方ない」
長老は皆の様子を見て、安堵したような表情を見せた。
「ありがとう。十分に下準備をしてから、迷宮に向かってくれ。
君たちに敬意を表す」
各々が下準備を済ませて、集落の結界、迷宮の入り口に集合するまで、しばらく時間がかかった。
時間はかかったが、六人は集合し、迷宮へ向かう準備は整った。