第六話 風雲 楽しいことだけを知らせてください
おはようございます。今日も一日頑張りましょう。自分も頑張ります。さてさて、前回はおっとりでしたが今回は?ごめんなさいね。またお付き合いくださいね。
改稿21/12月14日タイトル12月14日
※一部生臭い描写あり
楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、いつもの通り波瑠を家まで見届ける二人なのだが、今日はもう一人加わっていた。
「今日の真夜は天使様ではなく、意地悪さんだ。もしかするとラファさんの前ではあんな感じなのかな?」
戯けて話す波瑠に、真夜ははただ静かに笑い返した。
「フフ、どうなのかしら」
「ふむう、その様子だとそうなのかな。なんかいい二人だな。でも私は真夜が好きだぞ! ラファさんには負けないぞ」
波瑠はラファを見た後に真夜を見てニヤけた。
「あら? もうっ、波瑠ったら。困った子ですこと」
「らって、クッシュン! いっちちょっだと楽しいっクッチン」
波瑠が、鼻をむずらせ話していたので、少しおかしな言葉遣いの後くしゃみをしている。
そして、指で鼻を押さえては首を傾げ、辺りを見渡すと、また首を傾げる。
「どうしたのかしら? 大丈夫、風邪でもお引きになりました?」
「私、実は百合アレルギーなのよ。でも百合なんてどこにもないのに……変なの。でもひとつ気になるのが」
いきなり真夜の耳元で小さく囁く。
「ロイズさんから百合が薫ってる気がしたのだ……私の気のせい?」
「そうなのですか? 私には」
それは嘘である。
嗅覚は人一倍優れているので気づかない訳がない。その上に付き合いも長いのでお互いの薫りは認識済みだ。
だが素知らぬ振りをしている。
「そうか、気のせいか」
一人で納得すると鼻柱を軽く押さえている。そうしてまた軽く、くしゃみをした後手を振り「またね」と笑い、一言溢すと家の中へと入り扉を閉めた。
「何と聡い子だ。隠していたのだが……」
一緒に見送っていたロイズが驚いている。
「あの子は餌ではなく贄なのか? それとも眷族にするのか?」
「解りませんわ。アレがどういうつもりなのかは……ただ私は、あの子を守りたいのです」
(何も考えずにこんなに楽しいのは幾久しいことでしょう、それはあの子が明るくて笑顔がたえないから)
隣にいるラファの手を力強く握ると真っ直ぐに波瑠の家を見つめている。
「そうですか」
真夜を仕草を見てロイズが首を軽く頷かせ、杖を小さく小突く。
「それより今日は何用でしたの? お茶をする為に来たわけではないですわよね」
「ふむ、実は話すことがあったのだが、また別の機会に」
ラファの肩に手を置くと後のことは頼むと言わんばかりに瞳を合わしている。
頷くラファがいた。
「今日はあなたの笑顔が見られて良かった。また近々にでも」
真夜の手をゆっくり持ち、額に添えると同時に腰を曲げ深々と礼をしている。
真夜の前から去るロイズの後ろ姿はどこか楽しそうで、持っている杖を振りながら足取り軽く帰って行く。
「ただ、私に会いに来た訳ではなさそうですが、伯爵は何用で来たのです。ラファ」
「家を……伯爵は家を置いていきました」
「家? ってあの?」
目を丸くして指で三角を作るとその隙間からラファを覗く。
「はい。家です」
ラファは真夜の手を取ると、与えられた家へと案内する。ラファは真夜の手をしっかりと握った。
「伯爵は何をお考えなのかしら」
伯爵とは、ロイズのことである。
ロイズは元貴族で、半世紀以上を生きている古株、古参の吸血鬼である。
古参は古参で、想うところがあるのか、成り立ての者を拾えるだけ拾い、《野良》に成らないよう指導を行っていた。真夜達も、ロイズに救われた二人だ。何かと世話を焼いてくれる良き理解者である。
彼がいなければ真夜達は途方に暮れ、今の落ち着いた暮らしはなかったかもしれない。
全てが良い方に育つ訳ではなく、無意味に人や生き物を襲う者、《野良》に成る者もいた。
彼はそのことに嘆いた。
「此ばかりは時が流れても癒えることはない」
小言をいつもぼやいている。
彼の姿を隠れて知る真夜達がここにおり今に至っている。
二人が今、《野良》を粛清しているのは、ただ人間が好きなだけではなく、少なからずロイズの影響もあるのかも知れない。そのロイズが今回、二人の為に家を用意している。
果たして何の為なのか?
(私達が根なし草なのはよく解っている筈なのに)
嫌な考えが頭から離れない真夜だが、今はラファについて行くことにした。
そんな折り、ジャスミンの薫りとともに変わったニオイが真夜の鼻を困らす。
薫りの元は視ずとも分かる。男性職員だ。
ただ、変わったニオイが何なのかは分からない。
考える真夜の目前にいきなり現れ襲って来た。爪を伸ばし、近付いて来た時にニオイの原因が解る。
ラファに負わされた傷が腐り始め、そこからニオイがしていたのだ。
襲いかかる爪をラファが弾き返し、真夜の前に立ち塞いだ。守るように構えると男性職員が怒りに任せ文句を吐く。
「お前に受けた傷が治らない。そのお陰でこのざまよ」
傷を見せる為、服を開かると、そこには無数の穴が痛々しくある。そしてラファを睨む顔を歪ませながら喚いていた。
「お前の氷はなんなんだ? こんなことは初めてだ。何故だ」
「私の氷ですか……それは、私と真夜を結ぶ“血の盟約”のようなものです」
「フフ、ご愁傷様ですわ。『野良』にはあり得ない“絆”ですわ」
ラファの後ろで護られていた真夜が前に出てくると微笑を浮かべる。紅い瞳が冷たく光ると相手は「蛇に睨まれた蛙」のようにたじろいでいる。
「ラファの能力も特殊ですの。ラファ、私の血を! そしてあの者に死を。人に戻すには値しません」
「はい。真夜」
真夜の一言のあと、首に優しく咬みつくその間、紅い霧が二人を囲い守っていた。
二人の行為に、手を出せずに見ていた男性職員だが焦れ始め動くとラファの瞳が開いた。普段は薄い金色の瞳が紅い光を帯び相手を見据えた。
紅い霧は氷の矢じりと姿を変え浮いている。
氷の矢じりが、男性職員の身体に突き刺さり氷が溶け始めた。その部分にある変化が生じ始める。開いた穴の部分が融け始めたのだ。
職員は、身体を見て先程とは違う呻き声を上げている。呻き声を耳に入れラファは、真夜の首から牙を外した。真夜の首から一滴の血が垂れ流れる。真夜は垂れた血を、指ですくい取り舐め笑みした。
「苦しい? その血は相手を融かしますの。あなたが逃げられたのはラファに栄養が足りず力が出なかったからですわ」
(これであの子を苦しめるものは)
消えゆく者を眺め二人は安堵した。だが次の瞬間、二人を突風が襲い風の向こうには背の低い少年の姿が見えている。
風が巻き、鎌鼬を起こすと男性職員の首を刎ねきり上げ現れた少年の腕の中にストンと落ちていった。
手で首を掴み、持ち上げると同時に、文句も吐き捨て挨拶もしてきた。
「おお、怖い。ラファは相変わらずだね。そして真夜、お久しぶり」
少年は銀の短髪を風に靡き、瞳は銀色に爛々と輝かせ明るい笑顔で話しかけている。
そしてジャスミンの薫りが辺りに立ち込め始めた。この者もまた、真夜と旧知の仲らしいが少しだけ何かが違う様子だ。
「せっかく野に離した《野良》をこうも毎回消されたのでは造る楽しみがなくなるよ」
「ディフォール、あなたはまたそのようなことを。人間は玩具ではなくてよ」
「フフ、僕には玩具だね。眷族にはしたくないから、個別認識の薫りを少し変えたんだ。僕の持つ薫りと少し違うものにね」
「あなたという人は──……」
ディフォールという名の少年が、職員の首を抱きかかえ微笑んでいる。姿は少年だがこの者もかなりの年配者であることには変わりない。
「僕とは思いもしなかった?」
真夜に尋ねたあと、首だけの男性職員に語りかける。
「お前もお前だ。喰いたいモノは残すなよ。眷族を造るにも、お前にはまだ無理」
そう叱ると男性職員の口を開け自分の血を少し与えている。すると男性職員の瞳が開き、恥ずかしそうに照れ謝るとぼそっと何かを述べ寝入り始めた。
「やれやれ、新たに改良するか。まあ下の方が誰かさんの所為で腐り始めてたからね。切り離す機会が出来て良かった」
「あなたは本当に! 人を何だとお思いですの」
言葉を聞き、呆れる真夜がディフォールに紅い瞳を向けていると、突如起きた旋風が鎌鼬となり襲いかかる。
「真夜!」
ラファが真夜を抱き、氷の盾を張り凌いぐと透かさずディフォールを睨んだ。盾にした氷は鎌鼬と相殺され消えゆく。氷の飛沫だけがゆっくりと残り舞い落ちていった。。
「まだやりますか? 私で宜しければお相手を。あと、その首は置いて帰ることをお薦めしますが……」
「やだよ。これは持って帰る。君たちの相手はコイツ」
ディフォールが指を鳴らすと一匹の白い大きな狼が素早く駆けつけ、ラファの前に立ち防ぎゆっくりと威嚇しながら歩いている。
「では、また。ああそうだ。お姫様に伝言、跡目争いが起きるのでご注意を」
言い残し、指を鳴らしもう一匹の狼を呼んだ。ディフォールはその背に乗り、去って行った。追いかけようとする二人の動きを、残りの狼が防ぎ牙を立てている。
「フムッ、困りました」
ラファの指先が狼を捉え、細い氷の針が飛ぶとその駆体を貫き通し倒した。
「ッギャン」
貫かれた狼の躯体は、軽く跳ね地面に転がり倒れると人に姿を変え気を失う。
《人狼》という、狼にも人にも成れる種族であった。
この種族は、群れて行動することもなく、人にも余り仕えないのだが、今回はディフォールを主人として共にしていようだ。
目の前の人狼は、起き上がると変化が解けた姿で負わされた傷を確かめ困惑している。普通なら治りの速い傷穴が閉じずに僅かに溶け拡がりつつあるからだ。
その姿を見る二人が、顔を合わし深い溜息をついていると何故か人狼が身体をびくつかせ戦いている。
「ラファ、降ろしてください」
真夜が、抱かれていた腕から離れ人狼の前に立ち傷をそっとその舌で舐めている。
傷とはそぇ塞がっていき、治るのを確認するとそれは、素早くその場から跳ね逃げて行った。
礼も言わずに。
「逃がして良いのですか」
「無駄な死は不要です、あとあの者に時間を裂きたくもありません。帰りましょう」
その後ろ姿を見て危惧するラファだが、そんなことはお構いなしに振り返る笑顔が明るく語る。
「フフ、家があるならお風呂もゆっくり入れますわ。銭湯は寛げませんもの」
「まあ、確かです。帰りましょう」
真夜が地面に落ちたジャケットを拾うと少し茶色になり濡れている。そしてポッケの辺りに染みが出来ておりそこに入れた物を確認するとやはり濡れていた。
「まぁ、どうしましょ。図書館からお借りした本が」
「染みは小さいので乾かせば何とか。これから行く家に全てが揃っているといいですね」
「あの方のことだから揃っているのではなくて? フフ」
先程起きたことを頭の片隅に放り込み、気を取り直し与えられた家へと足を向ける。
(跡目争い。何が始まっているのかしら)
ラファに、案内された場所に着いた頃には辺りは暗く、月の光が空を白く照らしていた。
月灯りで見える、用意された住まいは小さな修道院を家に改良した建物だった。
大きな扉を開くと、玄関とクローゼットがあり、もう一つ仕切られた厚い壁の扉に手を掛け開く。
その先は昔、祈りの間だと思われる処があり改良されリビングとなっていた。そして階段があることから、外からは判らなかったがどうやら二階建ての仕様らしい。
「二人が住むには勿体ない大きさですわ」
そして、そのリビングの壁には何かを隠すように大きな布が覆い被されている。
「何ですの? これ」
それを剥ぎ取ると小さいながらも立派なキリスト像が現れ真夜達を見下ろしていた。
「やはり私達は咎人ですわ」
それを見上げ、ぽつりと呟く真夜にラファが恐る恐る話しかける。
「真夜。足元のそれは、柩─ですかね?」
「はい?」
床に落ちた布が、それに少し被さり隠してはいるが確かにそこに見えるは木で出来た茶色のハコである。
落ちた布を取り除くと、黒と金の細い縦筋に金箔の十字が張ってあるそれは、確かに覚えがある馴染みのハコだ。
二人は、顔を見合わせ足元に在るハコを凝視するしかなかった。
お疲れ様です。そしてありがとうです。
もうね。当初の予定では職員もう死んでる予定です。フウ。そしてディフォがね。後から出す設定の人、前に出ちゃって困ってます。では、またお付き合い下さい。
ブクマや感想お待ちしてます。