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真紅夜綺譚  作者: 珀武真由
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第一話  転入 真夜です。初めまして

 初めまして。そして、改めまして。

おはようございます。

こんばんは。

こんにちは。

色々な人達に助けられる昨今ありがとうございます。

では、お付き合いください。

この物語に!


 




「はい、みんなさん、静かに。今日から、新しい子が入ります。樹月真夜(マヤ)さんです。仲良くするように」


 紹介された子は、身長は低く、髪は背の辺りまでの長さに艶のあるグレージュ色、鼻筋が通った面立ちに薄く紅い瞳と、ピンク色の唇が、白い肌によく映えるとても奇麗な少女だった。


 聖ソフィア学園は、キリスト教徒が比較的多い女学園だ。

 敷地内には名高い教会がそびえ立ち、毎週日曜日には礼拝が行われている。

 キリスト教には興味がないが、礼拝の時に眺めるマリア像は別だ。

 木彫り仕立てのマリアだが、たたえる微笑は、ものすごく美しく惚れ惚れするぐらいに綺麗な像だ。


 目の前で、紹介された少女は、端麗な容姿も然る事ながら、所作振る舞が良い。場所が場所だけに聖者と勘違いしそうだ。

 そう思ったのも、今いる彼女も、マリア像と引けを取らないからである。


 皆の視線は、真夜(マヤ)にくぎ付けであった。


 休み時間になると、教室はすごい人だかりが出来、このクラスはもちろんのこと、よそのクラスからも真夜のところに攻め寄せる。

 皆、それぞれが好奇心と下世話な質問の波で溢れ返っていた。

 好奇心の波を止めるため、その輪に割って入る子が一人、大きな声を張り上げると押し寄せてくる人だかりを静止した。


「はい。聞きたいことはたくさんだろうけど、このクラスを管理している私に優先権があるからして、まずは私が! と言うことでみんな散開!」


「え~、波瑠(ハル)ずるいよ~」

「私もお喋りしたいよ」 

「ひとり占めはんった──い! 断固拒否」


 皆が、文句を言うブーイングの嵐で、本来なら耳障る所だが、そんなことはお構いなしに優越な気分である。


「ふふん、うらやめ、うらやめ、学級委員の特権。であ~る」


 真夜が座る席の前に立ち、体を大きく広げ、手を大仰に振ると、蜘蛛の子を散らすように人だかりを追い払った。


「フフ、ありがとう」


 教室にあふれていた人は消え、鼻穴を広げ息をつく私に、真夜は礼を言うと、コロコロと小さく笑っている。


「実のところ、人だかりが、少々苦手ですの」


 真夜の顔には、戸惑いの表情が少しでており、頰が薄らと赤らんで女の私でさえ守りたくなる程だ。


「あー、こんな美人は、放っては置かないね。つねに、横に置いておきたい」


 ニヤリと、するとどや顔をして、波瑠は返答した。


「フフ、美人だなんて。そんな。お恥ずかしいですわ。ええとお名前はハルさん?」


 名を呼ばれたその声は、涼しく澄んでおり、心地良く耳に響く。

 奇麗な声で名前を呼ばれたのがすごく嬉しく思えた。


「そ、波に瑠璃の瑠で波瑠(ハル)。聞きたいことや、知りたいことがあれば何なりと御用命を、お嬢様!」


 短い黒髪で、百六十八センチと女子にしては高く、すごく明るく、溌剌(はつらつ)としていることから、よくボーイッシュ、だとはやされる。

 腰を低くし、スカートの裾を軽く持ちあげ礼をした。


「フフフ、ありがとう。では学内を案内してほしいのですが、お願いしても良いかしら」


「もうもう、今すぐにでもご案内を」


「あら、それは嬉しいのですが、授業の方がそろそろ始まりましてよ?」

  

 残念な一言を聞き、肩の力を落としながら机の上で項垂(ウナダ)れている私に、真夜は口元に手を添え小さくコロコロと笑った。

 肩に手をそっと置く真夜が、顔を上げる私に耳打ちをする。


「では、放課後」

 

 私は、首をぶんぶんと縦に振ると自分の席に大人しく戻ることにした。こんな短い時間しか接していないのに、驚く程真夜(マヤ)を気に入っている自分がいる。


 授業も終わり約束の時間となった。


 学内は、思いのほか広く放課後だけではとても周りきれそうにない。

 今は要所、各所を押さえるだけに留め、最後はメインの教会を案内した。


 教会は、学園の自慢なので外せない。


 同じ敷地内に建つ教会は、学園と通路を挟み横に並び建っている。

 教会の礼拝堂は、年季が入っているにも関わらず、古さを感じさせない手入れの行き届いた壁に床。その場所はみんなに好かれてることが手に取るように分かる。


 礼拝堂の窓から中に入り込む奇麗な夕陽は、壁にそびえ立つ一本木彫りのマリア像を優しく包み、その光が浮き彫りの色調をも鮮明に照らし出す。像の後ろをスタンドガラスの光明がデザインされ、マリアが今にも降臨してきたかのような仕様になっている。

 木彫りとガラスが織り成す面白いバランスのマリア像だ。建物自体も、粋なデザインの教会である。


「こんなに奇麗なマリアの前で、誰が咎人になるのかしら」


 真夜(マヤ)がマリアに祈りを捧げ、ポツリと呟いたその言葉に、隣にいた私は驚いた。

 真夜に、学園を案内していて思うたことは、聡明で、今にもどこか消え入りそうな子だなと思ったのと教会が似合うことだ。

 像に祈りを捧げているだけなのに、その姿はまるで天使が降りて来たかのようにその背に翼をほうふつさせる。


 何とも絵になる子ではないか。


「そんなこと、考えたことなかった。まぁ、「ざんげと祈り」はするかも」


 隣にいる私がニッと笑った。


「そうですわね」


 クスッと笑いが返ってきた。

 それだけなのに、胸がキュンとなり、何かがこみ上げてくる。


「やばい。男だったら押し倒してるかも」

「フフ、投げ飛ばしますわよ。私、こう見えて合気を少しかじってますの。お気を付け下さいませ」

「それも有りかも」


 真夜が、目の前で瞳を見開き驚いている。

 瞳がうっすらと紅いので、その様子はさながら気配に驚く白ウサギに視えてしまう。 


「もう冗談が過ぎますわ。明日は、どちらを紹介してくれるのから?」


 そう言われて心が軽く踊る。

 ちょっと億劫な学園生活が楽しく思え始めた自分がいた。

 二人の会話が弾み、教会を出て行くその影をマリア像がそっと見送っている。


 校門を出ると、驚くことに一人の男性が夕陽を浴びながら立ち、誰かを待っているようだった。

 長身のすらりとした出で立ちに、顔はこれまた西洋の天使を思いたたせる眉目秀麗な美青年だ。醸し出す雰囲気が、少し真夜に似ていると思うのは、顔のいで立ちのせいだろうか。


 真夜と青年の姿を見比べている。

 すると、青年がゆっくりとこちらを見て歩いて来た。二人の前に青年は立ちはだかると、ぴたりとその歩みを止めた。

 私が、青年の動きにたじろいながらも、真夜を背にしてかばうように後ろに下がった。すると慌てた真夜が間に割って入り私の体に抱きつきなだめる。


「この人は、私の連れなのです。ラファ、といいますの。その怯えさすつもりも、驚かすつもりもなかったのですが、もし怖い思いをさせてしまったのでしたらごめんなさい」        


 私にしがみ付いていた体を離すと、恥ずかしそうにラファの方へと向き直し、顔を上げ笑みを浮かべている。

 

「ラファ。ありがとう。迎えに来てくれたのかしら」


 青年の名は、ラファと言うらしく、真夜の雰囲気は明るく柔らかさを感じさせる。

 真夜の大きな紅い瞳は、目の前の顔を映し嬉しげに語り掛けていた。


 私が気を利かし、少しだけ離れ、その様子を見守るとちょうど二人の姿に夕陽が重なる。

 その姿は、まるで絵画の一部のように波瑠の瞳に入り込んだ。


(くぅう、何てヨダレが出そうな構図なんだろうか。こんな絵になる二人がいようとは)


 酔い痴れ、眺めていると、真夜の顔が息があたる程に近くにあることに気付いた。

 私が真夜の近さに驚いていると、思いもよらない言葉をつかれてしまう。


「まぁ。よだれが」


 大きな、紅い瞳が波瑠を覗き込み、その白い指が、顔を押さえながらハンカチを取り出すと口の端を拭いている。

私は、恥ずかしさの余り真夜からハンカチを奪い取った。自分でも分かるぐらい顔は火照っていて、まるで茹でたこのように真っ赤になっているだろう。


「は、ハズカシ、ぁ、ううっ有難ととうっ。明日持ってくるね! あうっ、はうぅまた明日」


 言葉はかちかちでどもってしまう。

 もう、この場にいられない!

 私は真夜から逃げるように走り去った。


「カワイイ子」


 真夜の声が私の耳元で囁かれた。ついつい立ち止まって振り返ると、重なる影が見えた。


 真夜の正面には、長身の男が立っていた。

 白魚のような綺麗な真夜の指が、男の金髪を撫でている。男は、真夜の身を抱きかかえると頬にキスをし、髪を優しく撫でている。

 まさに美男美女。

 見惚れてしまう反面、この男は誰だろうという疑問がよぎる。


 途端、私はそんな疑問をすぐに掻き消されるような情事を目の当たりにした。


 真夜は満更でもないように細く瞼を閉じ、やがて彼女は………。


「!!!」


 私は目の前で起きた出来事に足を竦ませた。

 私は目を思いっ切り閉じて、パッと開いて男を凝視する。私が見た奇妙な行為は、夢でも錯覚でもない。


 真夜は男の首筋に噛みついたのだ。


 男の首筋には、血が一滴垂れている。

 ……綺麗だ。

 男の真っ白な首筋に一筋、真紅の血が滴り落ちていく。

 その奇妙な行為で驚く一方で、甘美でエロティックな振る舞いに、言葉通り、私は心を奪われてしまっていた。


 私が二人を見入っていると、真夜と目が合う。

 ピンクの唇がフッとあざ笑った。

 私は逃げるように走り去った。二人が見えなくなると、私は足を止めた。動機がして息苦しい。私は身の毛をよだつ感覚に恐怖よりも高揚感を抱いた。


 真夜の行動は普通ではない。首筋を噛むなんて、まるで吸血鬼じゃないか。


 明日、どんな顔をすればいい?

 あんな奇妙な行動を見てしまった以上、私は真夜と普通に接する自信がなかった。


 それなのに、これから起きる非日常を考えると嬉しくて仕方なく、私は真夜に会える明日を待ち望んでいたのだった。


 お読みいただきありがとう御座います。ほんとうにほんとありがとうございます。

 もしおかしな所や、こうした方が良いよ。など色々アドバイスくださると、ものすごく助かります。今日はお付き合いいただきありがとうございました。

 このようなお話しですが、以後もお付き合いください。

 ありがとうございます。

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