18階層
本日2回目の更新です。
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──18階層
「では、降りるぞ」
慎重に音を立てず、久隆たちは18階層に降りる。
18階層はモンスターハウスだ。降りてすぐの接敵もあり得た。
だが、幸いに降りてすぐの接敵はなかった。降りてすぐの空間には長い廊下が伸びている。久隆はすぐに索敵を始める。
「ジャイアントオーガ10体以上、オーガ20体以上、オーク、20体以上、ゴブリンは不明。確かにここはモンスターハウスだ。しかも、かなりやばい場所だぞ。よくここを潜り抜けられたな。魔物で満ちているんじゃないか」
「ア、アーティファクトのひとつで『姿隠しの外套』というものがあって、それで偵察を強行したと思われます。けれど、それだけの魔物が満ちている空間をよく潜り抜けられたものです……。偵察班が損害を出したのも当然ですね……」
「パイモン砦で最初に倒れていたのは偵察班か?」
「ええ。彼らはアガレス閣下に命じられて深層の調査に向かったのです。彼らは犠牲を払いながらも、25階層までの偵察を行いました……」
「立派だな」
モンスターハウスを越え、バイコーンというエリアボスを越え、彼らは潜ったのだ。
それは献身以外の何ものでもない。
彼らは仲間を救うため、レヴィアを救うため、元の世界に戻るために努力したのだ。
「俺たちはこのモンスターハウスをただ通過はしない。殲滅する。油断するな」
「了解です」
久隆の言葉にフォルネウスたちが頷く。
「地図によればこのフロアはふたつの部屋でできている。この廊下を右に曲がった方向にあるふたつ続きの部屋。ひとつ目の部屋を突破し、ふたつ目の部屋を突破することで初めて19階層に繋がる階段を降りられる」
このダンジョンの構造は串団子のようなものだ。ふたつの部屋が串で刺した団子のように繋がっている。その面積は狭く、魔物で満ちている。
「俺たちにあって連中にないものを活かして戦うぞ。すなわち戦術性だ」
久隆はそう告げて廊下を用心深くクリアリングしてから曲がる。
「この廊下の狭さなら十分そうだな」
「分かったのね。ここに魔物を呼び寄せて1体ずつ倒すのね?」
「その通りだ。わざわざ相手の土俵で戦ってやる必要はない。こっちに有利な地形におびき寄せる。フォルネウス、お前も前方に出てくれ。マルコシアはフォルネウスを、レヴィアは俺を援護してくれ。フルフルは付呪を適時頼む」
「りょ、了解しました……」
フルフルが杖を握りしめる。
「では、始めるぞ──」
そして、久隆が叫んだ。
魔物たちの足音が一瞬止まり、それから一斉に動き出す。
久隆たちが待ち構える廊下に向かって。
「来るぞ。閉所での集団戦だ。友軍誤射に警戒」
最初に姿を見せたのはすばしっこいゴブリンたちであった。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『焼き尽くせ、炎の旋風!』」
ふたりが同時に詠唱し、ゴブリンたちが氷の礫に引き裂かれると同時に炎で焼かれた。ふたりの魔法攻撃は強力であり、あっという間に飛び出てきたゴブリン20体のうち、10体を撃破してしまった。
「行くぞ、フォルネウス」
「はい、久隆様!」
残ったゴブリンは久隆たちが掃討する。
ゴブリンたちは全て弓兵で弓矢を久隆たちに向けるが、矢が放たれる前に久隆たちによって屠られた。所詮はゴブリンであり、遠距離攻撃のための装備しか持たない魔物。近接戦の間合いに入られては碌に戦うことはできなかった。
「次が来る。下がれ!」
お次は鎧オーク。列をなしてぞろぞろと鎧オークが現れた。その数は少なくとも15体を越えていることは間違いない。
鎧オークの武器は槍。槍は突いてよし、投げてよし、防御によしの利点の多い武器だ。しかし、この狭いダンジョンの廊下でオークたちが密集しているような状態ではそのような利点は活かせない。
「『降り注げ、氷の槍!』」
「『焼き尽くせ、炎の旋風!』」
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を!』」
レヴィアたちが一斉に詠唱する。
氷の槍が降り注いでオークたちを貫き、炎がオークたちを焼き、フルフルの付呪によって久隆たちの身体能力がブーストされる。
「フォルネウス、お前は右だ。俺は左をやる」
「了解」
久隆は魔法攻撃によって混乱している鎧オークたちに突っ込む。
久隆は鎧オークの握っていた槍をその手ごと叩き切ることで奪い、そのまま鎧オークの顔面に突き立てる。長さ1メートル30センチ程度の槍は1体目のオークを貫き、2体目のオークも仕留めた。
フォルネウスも鎧オークの顔面に短剣を突き立て、炎を発生させて内部から焼き殺した。魔法剣の威力はかなりのものだ。
鎧オークたちは混乱から立ち直れず、藻掻き、足掻きながら、じたばたと攻撃を行おうと試みる。槍が突き出されるのを久隆はひらりと躱し、その槍を掴んで引きずることで相手のバランスを逆に崩させ、前のめりになったオークの頭を叩き割った。
その背後からも槍を持った鎧オークが突撃してくるが、彼らはこの狭い通路で真っすぐ槍を突き出すことしかできない。あまりにも攻撃が単調すぎて脅威にならない。油断しなければ、次々に片付けていける。
久隆は時として敵の武器を奪い、時として敵の頭を叩き割り、時として敵の首を刎ね、時として敵の顔面を潰し、攻撃の手を緩めない。
フォルネウスもなんとか久隆の速度についていっており、魔法剣で次々に鎧オークを仕留めていく。鎧オークはそれでも戦意を喪失せず、まるで機械のように突っ込んで来る。だが、久隆もフォルネウスももはや倒し方を学んでいる。1体たりとて後方のレヴィアたちの方には向かわせない。
久隆たちが戦闘を始めてから15分。鎧オークは壊滅した。
そして、より面倒な相手が出現した。
「重装オーガだ。全員、17階層の反省点を忘れるな」
重装オーガの群れが次はやってきた。
武器は久隆と同じ短い斧。それを構えてずんずんと進んでくる。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
レヴィアの氷の嵐が重装オーガたちの無防備な顔面に損傷を負わせ、マルコシアの爆発が重装オーガの頭を弾き飛ばした。
「そのまま適切なタイミングで援護を! フルフル、付呪だ!」
「す、すみません! 『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
「助かる!」
久隆はそう告げるとフォルネウスとともに重装オーガに挑む。
相手は重装オーガなことに加えて、このダンジョン内でも取り回しやすい片手斧を握っている。相手にするには非常に面倒だ。慎重にやらなければ今度は久隆たちが頭を叩き割られるだろう。
相手の動きに用心する。慎重に、慎重に。だが、死を恐れるな。躊躇いこそが死を生むことがある。冷静になってただ戦うために戦え。相手を殺す機械になれ。
久隆は混乱の中にある重装オーガに向けて突撃しつま先蹴りで重装オーガの手から斧を奪うと片手でそれをキャッチし、もう一方の手で重装オーガの頭を叩き割る。
そして、後列からやってきた重装オーガの顔面に向けて奪った斧を投げつける。
使えるものは何でも使え。相手の隙を突け。相手のペースに乗るな。自分が攻撃し、攻撃によって主導権を握れ。主導権を握ったものが勝利する。
久隆はそう言い聞かせ、重装オーガたちを相手にしていく。
フォルネウスの方も必死だ。
フォルネウスが近接戦で1体倒すと向こうから現れるもう1体をマルコシアが魔法で顔面を吹き飛ばす。そして、フォルネウスがトドメを刺し、次の1体に向かう。
18階層での戦闘はまだまだ続く。
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