17階層掃討戦
本日1回目の更新です。
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──17階層掃討戦
久隆は全員が階段を降りてから、索敵を始めた。
「ジャイアントオーガよりやや重い魔物が4体、オーガよりやや重い魔物が5体、オークが6体、ゴブリンが8体。近くにゴブリンがいる。ゴブリンの方から片付けるぞ。ゴブリンは弓兵だ。乱入されると面倒なことになる」
いつも通り、ゴブリン弓兵狙いで掃討戦が始まる。
「ゴブリンの鎧も金属製のものに変わっているな。胴体狙いは難しいか」
久隆は手鏡でダンジョンの廊下の角からその向こう側にいるゴブリンたちの装備や数を把握する。装備はやはり弓矢で、数は久隆の索敵通り8体。1か所に纏まって、うろうろとしている。ゴブリンたちは迷宮の巡回を行っているのか、久隆はゴブリンたちが自分たちの待ち伏せる廊下の角まで来るのを待った。
そして、ゴブリンが角を曲がった瞬間、久隆が斧でゴブリンの頭を叩き割る。この時点ではまだ他のゴブリンたちは異常に気づいていない。
久隆は次のゴブリンを待ち伏せ、ゴブリンが角を曲がると同時に悲鳴をあげさせずに仕留めていく。ゴブリンたちはまるで異常に気づかず、平然と角を曲がっては殺される。
「仕留め切った」
8体のゴブリンが全員が音もなく始末された。
「流石は久隆なの。静かなる殺し屋なのね」
「何に影響された。それよりも他の魔物だ。重装オーガというのが俺的には脅威に思えてならんのだが……」
ジャイアントオーガは鎧を着ていようと着ていまいと変わりはしない。むしろ、重量が増えただけ動きにくくなっていると思われる。ただ、レヴィアの魔法では氷の嵐ぐらいしか敵にダメージを与えられないだろうというぐらいだ。
だが、オーガはこのダンジョンの大きさにある程度適性がある。大きすぎず、小さすぎず。交互になら戦列が組める余裕がある。それが重装となるとどうなるか。
フルフルの付呪である程度、敵の装甲を削ってもらわないと、苦戦する相手になるかもしれない。鎧オーガは兜を被っている場合もあるので、その時は策を練らなければならない。重装となったことで鎧も本格的なフルプレートアーマーとなっていたら非常に面倒なことになる。
だが、ここで躓いていたら、話にならない。久隆たちは17階層を突破し、ここと同じ魔物が溢れている18階層のモンスターハウスに挑まなければならないのだ。
18階層のモンスターハウスを制するためにも重装オーガの攻略法をこの17階層で確立しておくべきであった。
アガレスから渡された資料では重装オーガは付呪なしでは刃や矢の類を全く通さず、唯一打撃武器のみが有効であったとされている。兜についての記載はない。記載がないということは楽観的に評価すれば上層と変化がないことを意味し、悲観的に評価すれば確認する余裕すらなかったということになる。
この場合は悲観的に準備するべきだ。兜の形状は不明、と。
「ジャイアントオーガは後回しだ。先にオーガを片づける。できるなら、不意を打ちたいし、敵をしっかりと観察しておきたい。今ならそれが可能だ。ゴブリンは静かに処理したし、オークとジャイアントオーガはオーガと離れた位置にいる」
「それでいくの」
久隆たちはダンジョンの中を静かに進み、敵の足音に警戒しながらオーガに向けて接近する。まもなくオーガの近くに出る。
「止まれ。この先だ」
久隆が制止する。
「ふうむ……」
重装オーガは鎧がフルプレートアーマーになっていた。久隆たちが上層で遭遇した鎧オーガは部分的に鎖帷子が使われていたが、重装オーガは完全な鋼の板でできた鎧に身を包んでいる。確かにこれに斬撃を加えるのは難しいだろう。
だが、打撃が通じたということは鎧の厚さそのものはそこまでではないのかもしれない。それでもアガレスの部下たちの報告書には打撃は通じたとあるが、問題はどこを殴りつけたかだ。頭部はやはりローマ軍のような兜で隙がある。
敵は面倒になったが倒せない相手ではない。久隆はそう判断した。
フルフルの付呪を受け、敵にフルフルの付呪をかければ、倒せる。
何も装甲車や戦車を相手にするわけではない。それほどの厚みのある鎧ではないのだ。そして恐らくは久隆たちが纏っている防弾チョッキほどの防護力もないだろう。対物狙撃銃も、対戦車ロケットも、集束手榴弾も必要ない。
斧があれば十分。
「フルフル、付呪を。フルフルの付呪が終わったらレヴィアが速攻でしかける。そして、それと同時に俺が斬り込む。マルコシアとフォルネウスは後方警戒。ジャイアントオーガは動きが鈍いからすぐにはこないだろうが、オークはくるかもしれん」
「りょ、了解。では、『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
まずはフルフルが久隆とフォルネウスに付呪をかける。
「行きますよ……。『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
「行くの! 『降り注げ、氷の槍!』」
フルフルが重装オーガの鎧を崩してからそこにレヴィアの氷の槍が降り注ぐ。
いくつかの槍は弾かれたが、鎧の接合部などに降り注いだ氷の槍はオーガの肉体を貫き、彼らに悲鳴を上げさせる。ダンジョン内が一斉に騒然とし始めるのが分かった。事実上の開戦の合図だ。
そして、久隆が無言で突撃する。
斧を持って突撃してくる久隆に重装オーガたちは手に握った短剣を向けた。武器のチョイスは間違っていない。それだけに面倒だ。
久隆は自分に向けて突き出された短剣を蹴りで叩き落とし、空中でキャッチするとそのまま重装オーガに向けて投擲した。短剣は重装オーガの顔面を貫き、重装オーガ1体が痙攣しながら地面に倒れていく。
重装オーガは残り4体。
重装オーガは鎧の分、機動力が落ちているのが幸いだった。重い鎧をガチャガチャ言わせて、オーガたちが向かってくるのに久隆は冷静に対応できた。
短剣の一撃を回避し首を斧で刎ね飛ばす。続けざまに後方から突き出される斧と腕ごと叩き切り、そしてその勢いで腎臓を狙った一撃を加える。振り下ろされてくる短剣をステップを踏んで回避し、胴体に回し蹴りを加え、よろめいたところで頭を斧で叩き割る。
どこまでもスムーズに重装オーガが処理されて行く。
「久隆様! オークです!」
「対応できるか!?」
「できます!」
「任せる!」
指示だけは大声で。
海軍時代のように生体インカムはないのだ。便利な音声補正機能を備え、生体電流で稼働し充電要らずの生体インカムは民生用には発売されていない。
しかし、どこまでこの入り組んだダンジョン内でインカムのような通信機器が使えるかは試しておくべきかもしれない。
とは言え、今の久隆はそんなことを考えている余裕はない。
オークが乱入して後方で戦闘が始まった。のろのろとしていたらジャイアントオーガまで乱入してくる。その前にケリを付けなければならない。
久隆は最後の重装オーガを相手にする。
重装オーガは短剣を振り回しながら前進してくる。戦術性もない剣の振り方だ。この間、遭遇した妙に立ち回りの上手いオーガはなんだったのだろうかと久隆は思った。魔物とはこういうものが普通なのではないのかと。
だが、こっちであるならばこっちで始末しやすい。久隆は重装オーガが短剣を振り下ろした瞬間にその手にかかと落としを叩き込んだ。軍用義肢に匹敵する──つまりは強化外骨格のそれに匹敵する──出力の打撃が重装オーガを襲う。
重装オーガは悲鳴を上げ、同時に短剣を手放した。
そこで久隆が斧を振るう。
重装オーガの首が刎ね飛ばされ、宙を舞う。
「こっちは片付いた! そっちは大丈夫か!」
「大丈夫です!」
フォルネウスが叫び返してくる。
「『焼き尽くせ、炎の旋風!』」
マルコシアも支援を行っている。そう簡単には突破されないだろう。
「さて、では俺はこいつらの相手をしよう」
久隆の前方には鎧を纏ったジャイアントオーガが立ちふさがっていた。
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