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17階層から下に向けて

本日2回目の更新です。

……………………


 ──17階層から下に向けて



 久隆たちは15階層でアガレスに会うことにした。状況を知るためだ。


「アガレス。早速、そちらでも行動を開始したんだな」


「ああ。もちろんだ。皆、空腹からも解放され、魔力回復ポーションも手にした。これで万全の状態で戦えるというものだ。これからは地上までの道のりの確保は我々に任せてもらって大丈夫だ」


「それはありがたい限りだ。16階層より下にはまだ部下は送っていないか?」


「現在は送っていない。援軍が必要か?」


「いや。大丈夫だ。人間とは確執があるんだろう?」


「ああ。全く以てこればかりはしょうがないことなのだ……」


 13階層で遭遇した魔族の捜索班も久隆の姿を見ると警戒感を見せていた。彼らにとって人間とはこれまで殺し合ってきた相手なのだ。だが、この世界で救いの手を差し伸べているのも久隆だ。魔族たちは複雑な心境だった。


 朱門の治療を受けた魔族は人間の助けを借りて助かったという思いもあり、『この世界の人間は自分たちの世界の人間とは違う』という認識を得たが、彼らの認識が広まるのにはかなりの時間がかかりそうだった。


 まあ、彼らにとってはこれまで殺し合っていた相手なのだ。いきなり仲良くしろと言われてもそう上手くはいかないだろう。あのアジアの戦争で殺し合った国々が、未だにぎくしゃくした関係にあるようなものだ。表向きには解決したとしても、心中では『あの国の人間が自分たちの財産を破壊し、家族や同胞を傷つけた』という思いがある。


 傷が回復するには相互理解の促進を時間をかけて行うしかない。相手を許し合って、戦争という傷を癒すのだ。特にアジアの戦争は最終的な戦勝国という存在がいない戦争だっただけに、勝者の正義というものも存在しない。どちらも正しく、どちらも間違っている。そういうことなのだ。


 魔族たちと向こうの世界の人間たちは酷い殺し合いをしてきたのだろうということはフルフルを見ても分かる。彼女は未だに人間に一定の不信感を抱いている。久隆とはもういろいろなことを共に経験したというのに。


 まあ、後ろから刺されなければそれでいいと久隆は思っておくことにした。


 ここでこっちの人間と和解しても、彼らが元の世界に帰れば、また人間たちと敵対することになるのだ。久隆がいくら頑張っても無駄である。


「今回は17階層以降に挑みたいと思っている。いざというとき負傷者の面倒を見てもらいたいのだが、回復魔法の使える魔族の手は空いているか?」


「今は空いている。我々も腐っても近衛騎士と宮廷魔術師団。多少の魔物はそれなりに相手にできる。負傷者を出すことなく上層の掃討もできた。回復魔法を連続使用するための魔力回復ポーションもフルフルたちのおかげで揃っている。いつでも支援できる」


「助かる」


 医療品は持ってきているができるのは応急処置だけだ。ダンジョン内に野戦病院が設置されていれば、ちょっとは安心できるというものだ。


「では、俺たちは小休止してから17階層を目指す。まだ例の重装オーガにも出くわしていないからな。どんなものか見定めておかなければ。そうしないと、18階層のモンスターハウスでパニックになることになる」


「うむ。慎重にお願いしたい。レヴィア陛下をお任せしているのだから」


「ああ。任せてくれ」


 久隆はアガレスの言葉に頷くと、レヴィアたちの下に戻った。


 レヴィアたちは魔族たちに囲まれていた。フォルネウスとマルコシアが地上の素晴らしい生活について話しているようである。誰もが羨むような表情をしているのが分かる。


「いいなー。私もお風呂、入りたい」


「地上の飯はそんなに美味いのか? 贅沢病にはならないのか?」


 フルフルたちは質問攻めにあっている。


「おーい。レヴィア、昼飯にするぞ」


「分かったの!」


 そんな中で久隆が声を上げると、魔族たちの注目が久隆に集まり、彼らは戸惑ったような表情を浮かべていくとゆっくりとレヴィアたちから離れていった。


 やっぱり人間と魔族の関係ってのは根深い問題なのだろうかと思いつつ、久隆はレヴィアたちの方に向かっていった。


「あの!」


 そこで数名の魔族が引き返してきて久隆に話しかけてきた。


「食料と水の援助、ありがとうございます!」


「仲間のこと、治療してくださってありがとうございます!」


 魔族たちはそう告げて頭を下げた。


「気にしないでくれ。俺が好きでやっていることだ。無事に元の世界に帰れるといいな。俺も可能な限りの手伝いはするつもりだ」


「はいっ!」


 魔族たちは笑みを浮かべると立ち去っていった。


「魔族たちは人間との間に確執があるから素直になれないけれど、恩知らずではないの。助けてもらったらお礼を言えるのね」


「ああ。こんな状況でもしっかりしている」


 魔族たちはまだまだ望みが見えない状況でも規律を失わず、統率が執れた行動を取っている。かなり訓練された軍隊だということが分かった。太陽も見えないダンジョン内に何日も閉じ込められて、それでも久隆の差し入れた災害非常食だけでやっていけているのだから大したものだ。


 そして、そのような状況でも人間と魔族の確執を乗り越えようともしている。


 立派だ。ただただ、立派だと久隆は思った。


「よし。昼飯を食ったら17階層に挑むぞ。鎧ジャイアントオーガと重装オーガが登場するらしいから十二分に注意を払ってくれ。フォルネウスとマルコシア。お前たちにはしっかりと後方を守ってもらいたい。レヴィアは俺の援護を。フルフルは皆の支援を」


「了解なの!」


 それから久隆たちは重箱を広げて、お昼にした。


 弁当には昨日の焼き鮭と卵焼き、ポテサラ、プチトマト、ブロッコリーの胡麻和え、一口ハンバーグ、そして各種おにぎりが詰め込まれている。


 久隆たちはもぐもぐと弁当を貪り、麦茶で水分補給を行う。


 そして、空になった重箱をバックパックに仕舞うと、16階層への階段に向かった。


 16階層は掃討され、地図もできている。迷うことはない。


「ここから先が17階層だ」


「いよいよなのね」


 そして、17階層に続く階段を覗き込む。


「フォルネウス。ジャイアントオーガを相手にするときは常に首と頭、そして目を狙え。できるなら頭と目がいい。首にもそれなりに脂肪と筋肉がついてやがるからな。胴体は相手にしていても意味がない」


「了解です」


 フォルネウスが頷く。


「フルフル。鎧の弱体化は重装オーガにのみ頼む。鎧ジャイアントオーガは元から胴体を狙って戦うつもりはない。だが、オーガはある程度弱体化させていないと困る」


「わ、分かりました」


 フルフルが頷く。


「レヴィア、マルコシア。ふたりは支援を全力で頼む。ゴブリン弓兵が出てきたら空気を掻き回して奴らの矢が真っすぐ飛ばないように頼む。それだけでかなり戦いやすくなってくるからな」


「了解です」


 久隆は最後の確認を行ってから17階層に降りていった。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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新連載連載中です! 「人を殺さない帝国最強の暗殺者 ~転生暗殺者は誰も死なせず世直ししたい!~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[良い点] 少しずつ魔族側の方々も信用してきた。地道な積み重ねが実を結んだなあ。 [気になる点] 残りの魔族さん達の状況が気になります。時間的にどうなんだろう?
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