ダンジョンの魔物たちについて
本日1回目の更新です。
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──ダンジョンの魔物たちについて
ダンジョンにゴブリン、オーク、オーガ、ジャイアントオーガのような人型の魔物以外の魔物は出没するのかという久隆の問いかけ。
「当然、でるの。ゴーレムに、魔狼、ミミック、テンタクル、ハーピー。そういうものが出没するの。けど、あのダンジョンはみたところ人型魔物のダンジョンみたいだから、あまりバリエーションは豊富ではない方だと思うの」
「バリエーションが豊富、か。そういうのの弱点や倒し方は分かっているのか?」
「当然なの。ダンジョンの魔物とはずーっと戦い続けてきたのだから。だけれど、倒し方は知っていても、実際に倒せるかどうかは別問題なの……」
「難しいというわけか?」
「例えばテンタクル。これはダンジョンの壁や床に潜んでいて、通りかかったものを襲うの。テンタクルの球根を貫けば殺せるけれど、その前にテンタクルの触手で絞殺されてしまうのね。テンタクルがいると分かったら壁ごと爆破するしかないの」
「どうやってテンタクルの存在を探る?」
「テンタクルのいるダンジョンの壁は不自然だと聞いているの。ダンジョンが作った壁よりも真新しかったり、色合いが違ったり。そうやって見分けるの」
「なるほど。無敵の存在ではないわけか」
久隆はどんな相手でもある程度戦法が確立されていることに安堵した。
「けど、純粋にやばいのはエリアボスとして存在すると思うの……。例えば、ワイバーン。空を自由に飛び、火炎放射を浴びせかけてくるドラゴンの亜種とか。これは空を飛んでいるから近接武器は届かないし、素早いから魔法を当てるのも一苦労だし、ちょっとした油断で大勢が犠牲になるの……」
「空を自由に飛び回るといってもダンジョンの大きさは限られているだろう?」
「ダンジョンのエリアボスはそれに相応しい階層が与えられるものなの。バイコーンが広いフロアにいると聞いたでしょう? ダンジョンの形状はダンジョンコアの思い通りなの。きっと飛行するタイプの魔物が出没するならそれに相応しい広さが与えられるの」
「それはあまりよくないニュースだな……」
バイコーンの件は偶然かと思ったが、ダンジョンコアによるものなのかもしれないという可能性が提示された。やはりダンジョンコアはある程度の知性を持っていると思うべきではないかと久隆は考え始める。
となると、対空戦闘力が必要だが、今の久隆には猟銃しか手段がない。
いや、全くないわけではない。久隆のコネを使えば追跡IDのついていない銃が手に入る。それも軍用小銃から機関銃までなんでもござれだ。その代わり、本格的に犯罪に手を染めることを覚悟しなければならない。追跡IDがなく、警察の許可を得ていない銃を所有するのは立派な銃刀法違反だ。
日本はテロに怯えている。
2030年に起きた新宿駅での大虐殺によって、日本国民は震えあがった。日本本土が攻撃されたのは先のアジアの戦争で既に起きていたが、首都東京が攻撃されたのは初めてであった。地下鉄サリン事件を優に上回る死傷者を出したテロによる本土攻撃を前に日本国民はアメリカ人が911で受けたのと同じ衝撃を受けた。
軍はそれをいいことに対テロを名目に好き放題し始めた。もはや、個人の通信を軍が傍受しているのは公然の事実だったし、その情報を得た軍がスキャンダルを掴み、マスコミや政治家を脅迫しているのも都市伝説レベルでは語られている。事実なのだが。
警察も対テロを名目に軍とともに個人情報を管理し始めた。通販で頼んだ荷物ひとつ受け取るのにも生体認証が必要なように、街頭の監視カメラの数が2030年から10倍に増え、それをAIが個人情報と紐づけして管理しているように、日本国は監視社会となった。
それでもビッグブラザーの君臨するこの国で、追跡IDのついていない武器は手に入るのだ。いくら監視の目を強めても、どこかに抜け穴があるということなのだ。
そういう伝手を使わずに済むことを久隆は願った。
既に闇医者を頼り、税務署に申告しない収入があり、義肢は違法改造状態。
真っ当な一市民だったはずの久隆はいつの間にやら、犯罪者になっていた。
これは緊急避難だといい聞かせている。大勢を救うためにやむなく犯罪的な行動に手を染めているが、悪意があるわけではないと考えている。そうしなければ本格的な犯罪者になったなど久隆は認めたくない。
「しかし、17階層以降が少しばかり問題になってくるな。フルフルとマルコシアが魔力回復ポーションを作ってくれれば、魔力切れを心配せずともいいのだろうが」
「任せといてください! 必ず作って見せますよ!」
「ああ。期待している」
マルコシアがグッとサムズアップしてそう告げる。
「フルフル、今日は魔力をどれほど消費した? まだ大丈夫か?」
「そ、そんな心配しなくても大丈夫ですよ……。に、人間なんかに心配されても……。今日はせいぜい6分の1程度の魔力しか消費してないですから……」
「そうか。フルフルにはこの捜索班を支えてもらいたいからな」
「わ、分かっています……」
フルフルはそっぽを向いてしまった。
「あたしも頑張りますよ! あたしがフルフルを守りますから!」
「ああ。頼りにしている、マルコシア。お前も強力な魔法使いだからな」
「えへへ……」
久隆の言葉にマルコシアがでれっとした笑みを浮かべる。
「久隆様。着替えて参りました」
「サイズは問題なさそうだな」
風呂から上がってきたフォルネウスは半袖のTシャツにハーフパンツ姿だった。こういう外国人旅行者見かけるよなという格好である。そういう意味では顔立ちが日本人ではないフォルネウスをカバーできるだろう。
「さて、フォルネウス。この捜索班での戦いはどうだった?」
久隆はそう尋ねた。
「マルコシアとフルフルさんの魔法は素晴らしいです。マルコシアの攻撃魔法は的確だし、フルフルさんの付呪はこれまで以上の戦いを行わせてくれます。まさに百人力です。彼女たちには感謝しなければなりません。ありがとう」
「い、いえ。ふ、普通にしただけですし……」
フルフルはあまり褒められ慣れていないようだ。
「それからレヴィア陛下の魔法を拝見しましたが、これも凄い! 氷の魔術はもっとも扱いが難しく、それでいて強力だと言われていますが、まさにその通りでした。あのジャイアントオーガの筋肉と脂肪を貫き、ダメージを負わせるとは」
「朝飯前なの!」
一方のレヴィアは自信にあふれた笑みだ。
「そして、何をおいても久隆様です。あんなに容易く鎧オークとジャイアントオーガを叩きのめすとは。フルフルさんの付呪があったとしても私には無理です」
「ジャイアントオーガ1体と鎧オーガを何体か、単独で撃破したことはあるんだろう?」
「あの、すみません。少し見栄を張りました。実際のところは友軍と一緒に戦って、一応は自分でジャイアントオーガ1体と鎧オーガ3体を撃破していますが、連戦ではありませんでしたし、ジャイアントオーガには酷く手こずりました。あんなにスムーズに、そして易々と倒せたりはしていません」
「それでも倒せたんだ。自信を持っていい。その方が俺もお前に仕事を任せやすくなる。それ相応の自信があるのはいいことだ。ポテンシャルが上がる。のぼせすぎるのはよくないが、卑屈すぎてもいけない」
久隆はそう告げてフォルネウスを励ました。
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