帰還と質問
本日2回目の更新です。
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──帰還と質問
「思ったんだが」
久隆が告げる。
「ここにいる魔物を縛っておいて、殲滅していない状態にすれば魔物の再生成は起きないんじゃないか? ゴブリン程度なら縛っておけるだろう?」
「それは無理なの。ダンジョンコアはフロアの魔物の4分の3が撃退されたら、そのフロアは無力化されたと判断するの。魔物は補充されるように再生成され、また元のダンジョンに戻るのね」
「そう簡単にはいかないか」
久隆たちは16階層から15階層に上がる。
「後で聞きたい事がいろいろとある。今は地上に戻ろう」
「了解なの」
それからなるべく早く地上に戻った。
ダンジョン内の時間の流れがおかしいというのは事実なのか、体感時間では夕方のはずがまだ外は昼頃だった。
「ここが地上……。本当に異世界だ……」
「まあ、ここで立ち話もなんだ。家に行こう」
とりあえずという具合に久隆がフォルネウスたちを家に招く。
「おお。涼しいですね」
「朱門の奴、クーラー入れっぱなしでどこ行ったんだ?」
朱門の姿が裏口から入ったダイニングに見えないのに久隆はぼやく。
「さて、まずは着替えだ」
「は?」
「この世界では鎧を着て歩き回っている奴は公権力に問い詰められる。職質ルートだ。幸い、体格は似たようなものだから俺の服を着ておいてくれ。後で見繕っておく。それから風呂だな。流石にその体臭で外を歩いたら注目の的だ」
「も、申し訳ありません!」
「仕方ない。水の確保ですらギリギリだったんだろう?」
久隆はそう告げて風呂を沸かしに向かった。
それから風呂から上がった後の衣服を準備し、脱衣所にタオルと一緒に置いておく。
そうこうしていると風呂が沸いた。
「風呂、沸いたから入っておいてくれ」
「分かりました!」
「変に気合を入れなくてもいいからな」
こうも軍隊式に大声で返答されては目立ってしょうがない。
「さて、フォルネウスが風呂に入っている間に聞きたいことがある」
久隆たちがダイニングのテーブルを囲む。
「まず聞いておきたいのはダンジョン内で物質は劣化するのかということだ。この斧だが、どう考えても刃こぼれするような場面でも切れ味を保っている。ダンジョン内ではこういうことは起こりえるのか?」
まず聞くべきことは斧などの武器の劣化についてだった。
久隆はこのホームセンターでは最高級品と言える3万円の斧をかなり乱雑に使ってきたが、刃こぼれする様子はないし、ダンジョン内で武器が破損した兵士を見たことがない。ダンジョンには物質の劣化を防ぐ効果があるのか、それともそれは全くの気のせいでこれまでは運がよかっただけなのか。
「きっとそれはその斧がアーティファクトだからなの」
「アーティファクト?」
「そうなの。近衛騎士や宮廷魔術師団はみんなアーティファクトを持っているの。魔法がかけられた貴重な古代の品。だから、壊れたりしないし、劣化もしないの。ダンジョンが特にそういう物が壊れなくなるとかいう効果を発揮したりはしないの」
「いや。確かにお前たちの武器はそうかもしれないが、俺の武器はホームセンターで買った斧だぞ? 魔法もかけられていないし、古代の品でもない」
「うーん。こういうものの鑑定はフルフルが得意なの。フルフルに見せてみるの」
「分かった。フルフル、頼めるか?」
久隆は革のカバーをかけた斧をフルフルの前に置く。
「え、ええっと。ふむふむ……。間違いないですね。確かにこれはアーティファクトです。それにしては奇妙な感触はありますが……」
「本当か? それに魔法がかかっているのか?」
「な、なんですか。私の鑑定を信じないんですか。やっぱり、人間は魔族を信用しないんですね……!」
「いや。そういうことじゃなくてな……」
フルフルが泣きそうな顔でそう告げると久隆が困った表情を浮かべる。
「これな。この前、ホームセンターで買った品なんだぞ? 作られたのはせいぜい半年前かそこらだ。これが戦国時代の日本刀なんかなら俺もアーティファクトかもしれないって思うが、ホームセンターで売られている正真正銘日本製の斧がアーティファクトになるってのはちょっとな……?」
日本の職人が手作りで作っている数ある斧の中でも品質は折り紙付きの斧だが、作られたのは間違いなく現代だ。そして、日本に斧に魔法をかけるような魔法使いはいないし、古代に作られた品でもない。
「し、しかし、これは確かにアーティファクトなのです!」
「ううむ。ダンジョンの影響を受けて変質したとかは? フルフルはいつも付呪をかけてくれるだろう? それによって斧も強化されたとか?」
流石の久隆もホームセンターに太古の魔法の品が売ってあるとは思えない。そんな状況は受け入れがたい。あまりにも場違いすぎるのだ。
「わ、わ、私にアーティファクトなんて作れるはずがないじゃないですか……。馬鹿なんですか……。けど、ダンジョンの影響を受けたという可能性は否定できないですね……」
「具体的に頼む」
「この世界には全く魔法が存在せず、ダンジョンも存在しなかったのですよね?」
「ああ。俺の知っている範囲ではそうだ」
「それでしたら、ダンジョンの効果というよりも、我々の世界の効果が急に影響を与えたとは考えられます。ダンジョンの法則は我々の世界の法則で動く。一方、この世界はこの世界の法則で動いている。それが交わったら……」
「普通のホームセンターの斧がアーティファクトになるというわけか?」
「え、ええ。あくまで可能性としてはですが……」
ふたつの世界の法則が入り交じり、特殊な効果が発生する。
思えばレベルアップなる奇怪な現象で人工筋肉が勝手に出力を上げていたのだ。あり得なくはない話ではないか? と久隆は考えた。
「これからいろいろと試してみなくてはならないな。魔力回復ポーションの件もあるし、発電機までアーティファクトになっているかもしれない」
「いろいろなものがアーティファクトになる可能性があるのね。楽しみなのね!」
「いや。楽しくはないだろう」
これからもし仮に猟銃などを持ち込んだときに、銃弾がアーティファクトになり、薬莢と弾丸が分離しなくなったら使い物にならなくなる。
何がアーティファクトになって、何がアーティファクトにならないかを検証する必要はあるだろう。要はダンジョンの中にいろいろ持ち込んで壊れるかどうかを試してみるわけである。これまた大変なことになりそうだと久隆は思った。
条件をまずは探らなければならない。このアーティファクトに認定された斧と他の品の違い、共通項。アーティファクトになる地球の品にはどのような条件があるのか。それが分かれば、これから持ち込む道具も考えられる。
「それからもうひとつ聞いておきたいんだが、ダンジョンってのは人型じゃない魔物は出るのか? 俺たちが遭遇したマンティコアや20階層にいるバイコーンのようなものだ。そして、それが出没するとしてその弱点を知っている奴はいるか?」
久隆は彼が懸念していることを尋ねた。
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本日の更新はこれで終了です。
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