15階層以降
本日2回目の更新です。
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──15階層以降
フォルネウスが加わり、15階層より下を目指すという当初の方針は維持された。
相変わらずの日帰りダンジョンのために、今日は威力偵察と言ったところだ。18階層のモンスターハウスも20階層のバイコーンも攻撃しない。その範囲でいけるところまで行ってみるという行程である。
「準備はいいな?」
「大丈夫なの!」
レヴィアたちが頷く。
「じゃあ、今日は16階層をクリアにできたら上出来という具合で進もう」
既に先に送り込んでいた偵察部隊は帰還していることを久隆たちはアガレスから知らされている。ダンジョン内で間違って友軍誤射が起きる可能性は限りなく低い。25階層より下から生存者が這い上がってこない限り。
今のところ、25階層より下から15階層に上るには、20階層のバイコーンと18階層のモンスターハウスがボトルネックとなる。生存者たちが纏まり、25階層より下で戦力を結集していない限り、エリアボスは撃破できないだろうし、モンスターハウスは掃討できないだろう。つまりはこちらから迎えに行くしかないというわけだ。
久隆はゆっくりと慎重に階段を降り、降りたと同時に索敵を始める。
「ジャイアントオーガ3体、オーガ3体、オーク3体、ゴブリン9体。この階層でもゴブリンは弓兵だ。他の魔物と戦闘中に乱入されると面倒なことになる。先に片づけるぞ。幸い、魔物たちは纏まっていない」
「分かるのですか?」
「ああ。海軍時代に訓練を受けた」
「海軍で?」
「海兵隊のようなものだと思ってくれ」
「ああ。なるほど」
しかし、とフォルネウスは首を傾げた。
「どうしてそこまで分かるのですか? 探知魔法は開発中だという話でしたが」
「音、地面の振動、空気の流れ。そういう微細なものから導き出される」
海軍にいたときは魔物なんてファンタジーなものを相手にしてないで、敵のテクニカルや軍用トラック、カラシニコフや対戦車ロケット弾を抱えた民兵やテロリストを相手にしていたんだけどなと久隆は内心で思った。
だが、技術は応用できる。
本来は戦場で戦う兵士のために作られた戦場適応化ナノマシンは今は社会不安障害やパニック障害の患者などの精神疾患を抱えた患者に調整して投与されている。戦闘におけるストレスも、精神疾患の患者が受けるストレスも、ナノマシンというナイフで解体してしまえるのだ。包丁が料理にも人殺しにも使えるのと同じだ。
全地球測位システムもインターネットも本来は軍事目的だったものが、民間でも使われるようになった。今では軍学複合体というものが形成され、大学や民間の研究機関が軍の技術開発に携わることも多くなった。
技術は技術に過ぎない。技術に善悪はない。研究者たちはそう言い聞かせているように思える。彼らにとって軍事予算だけが多く、科学研究費が足りない現状、その軍事予算は魅力的だった。だから、彼らは良心にそう言い聞かせて、戦争のためにも使われるし、平和にためにも使われる技術を軍の予算で研究した。
今の日本はそういう風潮だった。軍事予算だって潤沢とは言えないが、流石にこれ以上社会保障費を削るわけにはいかなかった。だから、流用できる予算は流用するのだ。そうやって軍と研究機関の複合体が生まれ、新しいナノマシンが、新しい人工筋肉が、新しいドローンが、新しいレーダーが、新しいミサイルが開発されて行く。
技術は技術に過ぎないと言いながら。
そう、技術は技術だ。
久隆が東南アジアで民兵やテロリストを相手にしていた技術は、今のこのダンジョンでも利用できる。人の、魔族の命を救うことができる技術として今も活用できる。
「ゴブリン弓兵はこっちだ。物音は最小限に奇襲を仕掛けたい。お喋り禁止だ」
「了解」
フォルネウスは頷いた。
そして陣形が組まれる。
久隆が先頭を進み、レヴィアがそれに続き、フルフルがその背後、さらにその後ろからマルコシア、最後尾は後方に警戒しながらフォルネウス。
あと1名いれば部隊運用はより柔軟にできるんだが、と思いつつも、今あるものでどうにかするのが軍人というものだと久隆は自分に言い聞かせた。
ゆっくりと、なおかつ静かに進みながら、久隆は曲がり角で手鏡を出す。
「レヴィア。いつも通りだ。フルフル、今回は付呪はいい。取っておいてくれ」
「分かったの」
レヴィアが頷く。
「3、2、1で行くぞ」
久隆が三本の指を立てる。
3──2──1──。
「今だ!」
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
久隆とレヴィアが同時に飛び出る。
氷の嵐がゴブリンたちに弓矢を使わせることを阻止し、その隙に久隆が突撃する。辛うじて放たれた矢も明後日の方向に飛んでいった。
久隆がゴブリンたちを虐殺する。これは戦いではない。一方的な殺戮だ。虐殺だ。
ゴブリンは頭をスイカのように叩き割られ、首を刎ね飛ばされ、腎臓を潰され、自分たちの持っていた矢で目から脳を貫かれ、次々に殺されて行く。ゴブリンたちはなす術もなく、虐殺を受け入れるしかなかった。
「クリア。今の騒動でジャイアントオーガとオーガが近づいてきている。フルフル、今度は付呪を頼む。俺とフォルネウスと敵に。情報からしてまだ15階層までと同じタイプの敵だ。問題が起き始めるのは17階層からだろう」
「わ、分かりました」
久隆はジャイアントオーガとオークの足音が前方から、オーガの足音が後方から近づいているのに気づいていた。ジャイアントオーガは鈍重で、オークと連携して襲い掛かってくることはなさそうだ。各個撃破できるだろうと久隆は計算した。
「では。『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
フルフルが久隆とフォルネウスに付呪をかける。
「む、無理はしないでくださいね……」
「ああ。そのつもりだ」
久隆は斧をしっかりと握りしめる。
まず突入してきたのは久隆の予想通り、鎧オークだった。数は3体。久隆は相手がこのダンジョンで取り回しやすい短剣で武装していることを把握し、慎重かつ大胆に動いた。まずは2体同時に襲い掛かってくるオークの腕を刎ね飛ばし、武器を奪うと奪った短剣をオークの顔面めがけて突き刺す。
オークが悲鳴を上げ、倒れる間にもう1体の首を斧で刎ね飛ばす。
最後の1体が腰だめに構えた短剣を持って突撃してくるのを頭に回し蹴りを入れてふらつかせ、そのまま首を刎ね飛ばした。
「敵はまだまだ来るぞ。そっちも注意しろ、フォルネウス!」
「了解です!」
続いてジャイアントオーガが出現。数は3体。
その巨体に相応しい長剣を握っているが、このダンジョン内ではあまり好ましくない武器の選択だ。ジャイアントオーガそのものが巨体なのに、武器まで巨体では、市街地に入り込んだ随伴歩兵のいない戦車と同様だ。
つまりはカモ。
「レヴィア! 支援を頼む!」
「了解なの! 『降り注げ、氷の槍!』」
ジャイアントオーガに氷の槍が降り注ぎ、彼らの分厚い脂肪を筋肉を貫いてダメージを負わせる。ジャイアントオーガは暴れるが、脅威にはならない。
さあ、仕留めてしまおうと久隆は思った。
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本日の更新はこれで終了です。
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