買い物と食事
本日2回目の更新です。
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──買い物と食事
久隆たちは2時間かけて街までやってきた。
「あのショッピングモールで買い物は済ませる」
久隆はそう告げてショッピングモールの駐車場に車を入れる。
「しょっぴんぐもーる?」
「いろんなお店の入った場所なの。凄くたくさんのお店があるの!」
「そうなんですか。商店街、みたいなものですかね?」
「それより凄いの!」
車内でわいわいと騒ぎ出すレヴィアたち。
「百聞は一見に如かずだ。実際見た方が早い。衣類から揃えるぞ。俺は女物の洋服やら下着やらは分からないから金だけ出す。勝手に選んでくれ」
駐車場に車を停めると、久隆はそう告げて車から降りた。
「わあ! これは……」
「ね。凄いでしょ?」
ショッピングモールの中に入って驚くマルコシアにレヴィアが告げる。
これでも田舎なんだがなと久隆は思う。都会はもっと便利で、いろんな専門性のある店舗がある。もっとも物価は高いものの。地方と都会の物価の差はここ最近、顕著なものになりつつある。
「ここが女物の衣類売り場だ。レヴィア、フルフル。ダンジョンで動きやすい服も準備しておけよ。お洒落だけじゃ生き残れないぞ」
「も、問題ないですし……」
「まあ、お前たちも後1、2着はあった方が便利だろうから揃えておけ」
支払いは久隆だから遠慮することはない。
「うぐぐ……。また人間に借りを作ってしまいました……」
「ねえ、ねえ! フルフル! これどうかな? 似合うかな?」
「おお。似合いますよ。いいですね。まずはこれにしましょう」
どうやらマルコシアはジーパンが気に入ったようだ。
女の買い物に付き合うと男は草臥れるというが、金だけ出して選ぶのは女性同士で任せておけばそこまで疲れないなと久隆は思う。彼が女性と付き合っていたときは、あれこれと選ばされたり、運ばされたりして海軍の軍人ですら音を上げるような状況だった。
「これもいいの! 可愛いの!」
「も、もうちょっと実用性のあるものを……」
「えー。レヴィアもこういう可愛いお洋服ほしいの!」
すっかり女子3人組も仲良しだ。レヴィアもマルコシアに懐いている。
人間関係で心配するようなことはなさそうだとその点は久隆は安心した。
しかし、これがレヴィアだけとかフルフルだけとかだったら周囲の視線が恐ろしいことになったなとも久隆は思う。高めに見て女子中学生なレヴィアか高めに見て女子高校生なフルフルだけを連れてショッピングモールをうろついていたら、警察から職務質問を受けること間違いなしだ。
田舎では親戚の子ということで通したが、ここでその言い訳が通じるとは思えない。
その3人組がわいわいやっていると引率の保護者という立場が取れていい。
闇医者をやっている朱門と違って何もやましいことはないのに、警察の目を気にしなければならないとは悲しいものだと久隆は思った。
「久隆、久隆。選んだの!」
「よし。じゃあ、会計を済ませてくる」
衣料品店には昔ながらの風習のまま店員がいる。AIとロボットに接客をさせるプランもあったそうだが、そういうものを使うよりも人間を置いた方が安く済むそうだ。特に未だにAIの美的センスという奴は頓珍漢であるために。
久隆は会計を済ませるとどっさりとした量になった衣類の山を抱える。
「とりあえず、こいつを車に置いてくる。そこで待っててくれ」
「分かったの」
恐らくはマルコシアが下着を含めて6着、フルフルが2着、レヴィアが3着とそれぞれセットで購入しているので荷物が嵩張っている。これを車に放り込んでこないことには他に買い物ができない。まあ、財布自体はそこまで痛むものではなかったが。
久隆は自分の車まで行き、後部の収納スペースを開くと荷物を放り込んだ。
そして、ショッピングモール内に戻ってきた時、ぎょっとした。
2名の20代前半──恐らくは大学生と思われる男たちがレヴィアたちに声をかけていたのだ。ひとりはスマートフォンを取り出している。
「あ。久隆が戻って来たの」
「ああ。保護者の人ね。どうも──」
久隆は無感情に接しようとしていたが、それが悪かったらしい。
「やべえ……」
「し、失礼しました!」
男たちは一目散に逃げていった。
「……あれ、ヤクザだろ?」
「マジでやべえ」
男たちが遠くでそう言っているのが聞こえる。
「失礼な連中だ。写真は撮られなかったか?」
「ん? しゃしんって何なの?」
「あの板みたいな道具がカシャッと鳴ったか?」
「ううん。一緒に食事しないかって誘われたのね。けど、久隆がいるから断ったの」
「上出来だ」
改正個人情報保護法でも、本人の許可を得て撮影した写真ならばネットにアップロードできる。許可さえ与えていないならば大丈夫だ。
「そろそろ昼飯を食いに行こう。何がいい?」
「ラーメン!」
「またラーメンか? 他にもいろいろあるぞ?」
「マルコシアにもラーメンを食べさせてやりたいのね」
「そうか。なら、昼飯はラーメンだ」
しかし、ラーメンとはよそから来た存在にとってそこまで珍しい品なのだろうかと久隆は疑問に思った。日本のラーメン屋はあまり海外展開しないこともあるだろうが、海軍時代に休暇で食事した有名店では外国人が結構な割合でいた。もう2045年だというのに。
ショッピングモール内のチェーンのラーメン店は田舎ということもあって混雑はしていなかった。すんなりとテーブル席に案内されて、メニュー表を広げる。
「ちゃーしゅーって何ですか?」
「お肉なの。柔らかくて、味が染みてる美味しいお肉なの。おすすめなのね」
「じゃあ、私はチャーシューメンで」
「レヴィアも!」
それから久隆とフルフルが普通のラーメンを頼み、さほど時間もかからず運ばれてきた。熱々のそれが久隆たちの前に置かれる。
「いただきます」
「いただきまーす!」
そういえばレヴィアたちの宗教はどうなっているのだろうかと久隆は思った。
今や完全にレヴィアたちは日本風の食前の挨拶をする。アガレスは違う祈り方をしていたが、レヴィアたちは祈りはしない。そして、レヴィアは宗教上食べてはいけない食べ物があるとは言わなかった。なんでも食べると言っていた。魔族というのは何を信仰しているのだろうか?
宗教がないということはないだろう。文明があれば宗教がある。文明を持つ者にとって究極の疑問である死後の世界の想像や世界の成り立ちについての説明、原初の法律や倫理、秩序を語る上で宗教の果たした役割は大きい。
しかし、この手の話題は難しい。下手に突くと藪蛇だ。人間と揉めてる原因にしたところで宗教が原因かもしれないのだ。
そして、久隆は別に比較文化学者でも、宗教学者でもない。異世界の宗教が空飛ぶスパゲティーモンスターを崇めるものであったとしても彼はコメントできない。
彼自身も信仰している宗教についてよく知っているわけでもないし、そもそも信仰という概念がここ最近では酷く希薄だ。もう葬式も無宗教の形式でやることが珍しくなくなっている。
ま、美味そうにラーメン食ってるうちは宗教なんてどうでもいいか。
久隆はそう結論した。
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本日の更新はこれで終了です。
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