友達だとか、友達ではないとか
本日2回目の更新です。
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──友達だとか、友達ではないとか
その日の昼食はショッピングモールのラーメン屋で済ませた。
ラーメンというものにレヴィアとフルフルは戸惑っていたようだった。うどんを食べていたから平気だろうと思ったのだが『どうしてパスタにフォークがついていないの?』とレヴィアは久隆に尋ねていた。
「ラーメンは啜って食うんだ。ずるずるって」
「行儀悪いの」
「こうした方が美味いんだよ。試してみろ。ただし、熱いから気をつけてな」
「分かったの」
レヴィアはふーふーと麺を冷ますとずるずると啜った。
「はふ、はふ!」
「ほら、水だ」
口をはふはふさせているレヴィアに久隆が水を渡す。
「ふう。これはいいの! 熱いけど美味しいの!」
「まあ、日本のラーメンは外国人にも人気あるしな」
とは言っても、ここは名店があるような都会ではない。田舎のラーメンチェーン店だ。チェーン店はチェーン店なりに美味しい。何より出てくるのが早くていい。それに下手な店に入るよりも味が保証されている。
「なんか、行儀が悪い気もしますが……」
と言いながら、ずるずるとラーメンを啜るフルフル。
「しかし、何と言うか。周りの人間も不思議に思わないものだな」
角と尻尾の生えたレヴィアと角の生えたフルフルがラーメン屋でラーメンを啜っていても誰も反応しない。日本人はいつの日から他人に酷く無関心になっていた。昔ならスマートフォンでパシャパシャ写真を取っていた若者たちも今では無関心だ。
改正個人情報保護法などにより、SNSに上げる写真にしろ他の用途で使用する画像にせよ、自分以外の他人が許可なく映っていた場合は罰されるということになってから、昔のような野次馬はいなくなった。法律に違反した場合、禁固3年か50万円以上の罰金となるのだ。冗談だと思っていて、法律成立直後に昔のように振る舞ったものたちは刑務所に容赦なくぶち込まれた。
日本国全体に閉塞感が漂っている。というのも、新宿駅で銃声が響き、1500人の人質もろとも軍用爆薬が炸裂してからというもの、対テロと防諜の強化が行われ、日本は半ば情報統制が行われているかのような状況になっているからだ。
まあ、田舎の年寄りたちは相変わらず噂話が好きなようだが。
「美味しかったの!」
「そいつはよかった。だが、これはたまにだぞ。野菜が少ないから栄養が偏る」
「それはよくないの。贅沢病になってしまうの」
「そうだ。だから、今日は野菜もちゃんと食べられる晩飯だからな」
「楽しみなの!」
それからショッピングモールで夕食の食材を買い、デザートとなるケーキ屋に向かった。ケーキ屋は小さな地元の店が出店している。
「わあ! ケーキ! ケーキなの!」
「お、おおおお。こんなにケーキが……」
レヴィアとフルフルは感動している様子だった。
「どれにする」
「迷うの……。だって、こんなに美味しそうなケーキがあるなんて……」
「ひとつだけだからな?」
この調子だと全部と言い出しかねない。
「じゃあ、このイチゴのショートケーキにするの」
「分かった。フルフルは?」
久隆が尋ねる。
「た、高くないですか……? 砂糖をたくさん使ってるのでしょう……? この400円というのは金貨400枚分という意味なのですか……? わ、わ、私はそんな大金は持ってないですからね……?」
「そんなに馬鹿高いわけないだろ。あの金貨なら1枚で大量にお釣りがくる」
「そ、そうなのですか? あ、侮れませんね、異世界……」
久隆は甘いものはほどほどに好きだった。軍隊時代は酒はほぼ飲めないので、甘味が楽しみになるのだ。酒は任務に支障が出るという理由で、体内循環型ナノマシンが強制分解し、酔えないようにしている。
それに海軍は酒絡みのスキャンダルはごめんだったのだ。
「で、では、私はこのザッハトルテというものを……。い、言っておきますが、あとでお金を払えと言われても払えませんよ……?」
「だから、高い品ではない」
久隆はレアチーズケーキを頼み、ドライアイスと一緒に箱に入れてもらうと、レヴィアたちを自動車に乗せて自宅に帰った。
自宅に帰ったころには丁度15時だった。
久隆は冷蔵庫にケーキを押し込み、夕食の準備を始める。
今日はすき焼き。
たっぷりのネギ。たっぷりの白菜。エノキタケ。春菊。白滝。焼き豆腐。そして、国産牛ロース。国産牛ロースは奮発して高いものを購入している。こちらもたっぷりだ。せっかくの戦勝祝いなのでケチケチしたくはない。
「て、手伝いますよ。前に言ったように、その、下ごしらえぐらいなら……」
「そうか。では、手伝ってくれ」
「は、はい。何から始めましょう?」
「そのネギを──」
フルフルとふたりで久隆が食事の準備を進めていく。
レヴィアは買ってもらった携帯ゲーム機で遊んでいた。住民とコミュニケーションしながら、遊具を作ったり、家を作ったり、道路や橋を作ったりして、街を発展させていくゲームである。釣りをしたりもできる。
下ごしらえが済んで、後は煮込むだけとなったので、久隆たちも一休みとなった。
「久隆とフルフル、仲良くなったのね!」
「そ、そ、そんなことはないですよ! 誰もに、人間なんかと……」
「そうなの? 久隆とフルフルが仲がいいとレヴィアも嬉しいのに」
「そ、そういわれましても……」
レヴィアは畳に寝っ転がって、だらだらとゲームをしている。
「それにしても、このたぬきさん意地悪なの! お家を大きくするのにどんどんお金を要求してくるの! なんで同じ部屋を作るのにこんなに値段が違うの!」
「ゲームに文句を言うな。それにそういうのも楽しみのひとつだろう?」
「むー……。それもそうだけど……」
久隆はゲームは中学で卒業した。高校時代の娯楽は読書だった。読書もそれなりに金のかかる趣味だ。だが、得られるものは大きい。海軍時代も暇さえあればタブレット端末で読書をしていた。自己啓発本から推理小説まで様々。
「久隆はフルフルと仲良くなった?」
「そう思うんだが。違うらしい」
久隆はフルフルの方を向いてそう告げた。
「い、いや、その、あの、嫌いというわけでもないのですが……」
フルフルは非常に困った表情をしていた。
「じゃあ、仲がいいのね!」
「け、決してそのようなことは! だ、誰が人間なんかと……その……」
「フルフルはどうしたいの? 久隆と仲良くなりたいの? なりたくないの?」
「わ、わ、私は人間とは一定の距離をおいてと考えておりまして……」
「むう……。お世話になってるのだから、仲良くなるの」
「で、で、ですが、相手は人間ですし……」
「その人間にレヴィアたちは凄くお世話になっているの」
「それは、その、あの、その通りですが……」
フルフルは答えに窮していた。
「いいんだ、いいんだ。無理はしなくても。フルフルにもいろいろあったんだろ? 無理に仲良くなる必要はない。ただ、戦場では背中を預けられればそれでいい。私生活はしっちゃかめっちゃかでもいいんだよ」
久隆はそう告げて時計を見つめた。
「そろそろ晩飯だな。支度をしてくる。手を洗っておけよ」
「分かったのー」
久隆はすき焼きを煮込みに行った。
割り下を入れ、くつくつと具材を煮込んでいく。
焼き豆腐までしっかり火が通れば完成だ。
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本日の更新はこれで終了です。
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