さようなら、バイバイ
……………………
──さようなら、バイバイ
復活するフェニックス。低下する気温。
久隆は再びフェニックスに襲い掛かる。
「自分も行きます!」
フォルネウスが続く。
「援護はお任せあれ」
後方からはサクラが矢で支援する。
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士にさらなる力を!』」
フルフルも付呪を重ね掛けする。
「『爆散せよ、炎の花!』」
マルコシアも適切なタイミングで支援する。
全ての攻撃が重なり、フェニックスの首に再び久隆の斧が突き立てられようとする。それをフェニックスは自分の翼を盾にすることで防いだ。
同時に久隆が炎の直撃を受ける。彼は吹き飛ばされ、火傷を負いながら転がる。
「クソッタレ。やってくれるじゃないか」
だが、攻撃は成功だった。
フェニックスの灰は再生しない。
フェニックスの翼は失われたままだ。
「まさか。そんな……」
ダンジョンコアの表情が顔面蒼白になる。
「覚悟しろよ、クソ焼き鳥」
羽を失い狼狽えるフェニックスに久隆が斧を構える。
火傷の痛みは気にならない。アドレナリンが全開で気にならないのだ。
「突撃ー!」
アガレスたちが再びフェニックスに突撃する。
今度は彼らの攻撃も有効だった。フェニックスが斬られ、貫かれた部位は再生しない。傷ついたままとなる。
「行くぞ! 最後の攻撃だ!」
久隆とフォルネウスが突撃する。
サクラが矢で的確に援護し、フェニックスの攻撃を防ぐ。
「いっけー!」
レヴィアたちが叫ぶ。
フォルネウスが飛び立とうとしたフェニックスの脚部に短剣を突き刺し、そして久隆がフェニックスの首を叩き切る。
首を切断されたフェニックスはついに倒れた。
死体は金貨と宝石に変わっていく。
「そんな。フェニックスだぞ? 不死身の魔物なんだぞ? それをどうして倒せるんだよ! おかしいだろう!」
ダンジョンコアが半狂乱になって叫ぶ。
「ダンジョンコア。これで終わりだ」
久隆が宣告する。
「終わりって何が終わりなんだよ! 私に死ねって言うのか!」
「そうだ。お前は大勢を殺した。報いは受けなくてはならない」
「お前だって大勢を殺しただろう。国のためだとかいって」
そう言われて久隆は少したじろいだ。
「では、お前も何かを守るために戦っていたというのか? 自分の命以外に」
「自分の命を守ることだって立派な戦いだろう! それの何が悪いって言うんだ!」
「そうだな。自分の命を守るのも重要な戦いだ。だが、戦いの敗者は死ぬものだ」
久隆は淡々とそう告げる。
「畜生……。分かったよ。好きにしろよ」
ダンジョンコアは涙を瞳に浮かべながらも、そう返した。
「ベリア。いけるんだな?」
「ああ。いける。任せときな」
「俺たちはダンジョンにいない方がいいか?」
「そうだね。転移に巻き込まれる」
「分かった」
ここでレヴィアたちともお別れだ。
「レヴィア、フルフル、マルコシア、フォルネウス。短い間だったが、お前たちと戦えたことを光栄に思う。向こうでも上手くやってくれ」
「久隆。お別れなのね……」
「ああ。お土産は持ったな?」
「ばっちりなの」
「栄養バランスシートは?」
「大丈夫なの」
「そうか。じゃあ、元気でな」
久隆がレヴィアに手を振る。
「フルフル。お前ともお別れだ。お前の付呪には世話になった。最後は俺を信じてくれてありがとうな」
「こちらこそすみません。最初のころは全然信用してなくて……。久隆さんはとてもいい人だったと言うのに」
「仕方ないことだ。フルフル、これからもレヴィアを支えてやってくれ」
「はい」
久隆がフルフルに手を振る。
「マルコシア。向こうでも元気にやってくれよ。お前の魔物に関する知識には助けられた。そして、お前は強力な火力でもあった。頼りにしていたぞ」
「久隆様。ヴェンディダードは久隆様を歓迎しますよ」
「そうはいかない。俺はこっちに残る。フルフルと仲良くな」
「はい……」
久隆がマルコシアに手を振る。
「フォルネウス。常にお前が隣で戦ってくれていたおかげで、窮地を乗り切ることができた。お前は騎士として頼りにしていたぞ」
「これからも精進する次第です。久隆様のような立派な戦士になるために」
「ああ。頑張ってくれ」
久隆がフォルネウスに手を振る。
「それじゃあな! 元気でやっていけよ!」
「ありがとうございました!」
魔族たちは一斉にそう告げる。
久隆とサクラは魔物がいないダンジョンを上り、外に出る。
「これでお別れですね」
「ああ。そうだな」
「後悔していませんか、久隆さん?」
「していない。やるべきことをやった」
久隆はそう告げてダンジョンの入り口を眺める。
やがてそのダンジョンの入り口が歪み、水道の排水溝に流されて行くかのように渦まいて消えてしまった。
「これで終わりだ」
久隆はそう告げて家に戻った。
「よう。終わったのか?」
「終わった。最後の報酬だ。受け取ってくれ」
「ありがとよ。じゃあ、また何かの機会があったら」
「そんな機会がないことを祈る」
久隆は朱門にそう告げ、朱門は診療器具を片づけるとミニバンに積み込み、この村から走り去っていった。
「久隆さん。これからどうしますか?」
「お前に言われていた通りに民間軍事企業に入ろうと思う。後方の訓練ならやらせてくれるだろう」
「向こうも久隆さんなら歓迎してくれますよ」
「そうだといいな」
久隆はサクラにそう告げて、空を見上げた。
2045年12月、久隆は民間軍事企業である太平洋保安公司と契約。東南アジアの戦争を戦う現地政府軍の訓練を始める。
2046年2月、久隆はサクラと結婚。
こうして、久隆たちの、魔族たちの長い長い夏は終わったのだった。
……………………
本作品はこれにて完結です。お付き合いいただきありがとうございました!
面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!




