モンスターハウス
本日1回目の更新です。
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──モンスターハウス
久隆たちは5階層に降りた。
5階層の魔物たちも鎧を纏ったオーガにオークだった。
だが、この階層からオークも鎧を纏っていた。
フルフルの付呪はますます重要になってきた。
だが、フルフルの魔力にも限度がある。なので、付呪を使うのはオーガに限り、オークについては久隆が工夫することになった。オークたちは鎧を纏っているが、頭と首は丸出しだ。久隆はオークの頭を潰し、首を刎ね、そうやって魔物たちを討伐していった。
5階層はそれで終わったのだが、6階層が大変なことになった。
「レヴィア! とにかく叩き込んで足止めしろ! すぐにそっちに向かう!」
「分かったの! フルフル、レヴィアにも付呪を頼むの!」
「は、はいっ! 『賢きものよ、より多くの叡智を極め、力を得よ。賢者に力を!』」
フルフルの魔法には魔法の威力を向上させるものもあった。
そのようなものを使わないといけない状況というのは──。
「ラスト2体!」
「久隆ー! 急ぐの! 突破されるの!」
挟み撃ちである。
6階層はとにかく魔物の数が多かった。鎧付きオーガが21体、鎧付きオークが15体、普通のオークが30体。その上、ダンジョンの広さは3階層ほどに狭いという。まさに魔物でぎゅうぎゅう詰めの階層だったのだ。
「ラスト1体!」
久隆は鎧付きのオーガの腎臓に斧を叩きつけてオーガを撃破する。
「レヴィア、フルフル! こっちに逃げてこい!」
「分かったの!」
挟み撃ちにしてきた片方を撃破した久隆が返す刀でレヴィアたちの方に迫っていた魔物の大群に応じる。ここまでで鎧オーガ12体と鎧オーク5体、通常オーク21体を撃破している。残りでやっかいなのは鎧オークの群れだけだ。
レヴィアのレベルアップとフルフルの付呪の効果でレヴィアたちも鎧オークと通常オークを幾分か撃破している。だが、いかんせんながら鎧オーガには今のレヴィアでは魔法が通用しない。鎧がフルフルの付呪で破壊できても、分厚い皮膚、脂肪、筋肉に阻まれて致命傷を負わせられないのだ。
「折り返し地点ってところだな。レヴィア、そっちは片付いたと思うが油断はするな」
「任せるの!」
久隆は戦闘中、合図を出すとき以外は静かだ。
気合を入れるための掛け声など上げない。海軍時代からの体に染みついたことだ。隠密作戦中にナイフで相手を滅多刺しにする度に声を上げていては、話にならない。
それにこのダンジョンの魔物は久隆が予想したように音に敏感なところがある。一度戦闘が始まるとうようよと魔物たちが仲間の悲鳴を聞いて湧いてくる。
なるべく静かに片付けられればそれが一番いいのだろうが、こうも狭い空間に魔物が密集しているとそれも難しい。魔物は雄叫びを上げるし、悲鳴も上げる。
本来ならば戦闘中の指示もハンドサインで済ませればいいのだが、一からハンドサインを教えているような暇はないし、そもそも『魔法による援護が必要』だとか『付呪で強化してほしい』なんてハンドサインは存在しない。
訓練されていない人間との作戦は経験したことが何度かある。東南アジアで現地の警察部隊と作戦に当たった時のことやとりあえずは頭数だけ揃えた軍の部隊の作戦に当たったときのこと。彼らと連携するのには苦労した。こちらの常識的軍事行動が彼らには身についていないのだから。
だが、最初はどの国だってそうだ。日本も特別陸戦隊の前身となる特別警備部隊はイギリス海兵隊の特殊舟艇部隊やアメリカ海軍のSEALsの教育を受けている。特殊作戦のノウハウというのはそういうベテランたちから学び取るものなのだ。
それに今のところ、連携は上手くいっている。
指揮系統がはっきりしているので混乱が生じない。
久隆が指示して戦う。レヴィアとフルフルが魔法を行使する。
軍隊では誰もが主導権を握りたがる。同盟国を自分の国の指揮下で行動させたがる。そういう横やりが入ることもある。その点、この小さな軍隊はそういうものがなく、久隆にとってはやりやすかった。
「レヴィアがかなり数を減らしてくれたな」
久隆は迫りくる鎧オーガ、鎧オーク、通常オークの数を見て呟く。
廊下には魔物を倒した証である黄金と宝石が転がっている。レヴィアとフルフルが努力した結果だ。彼女たちも戦えるのだ。
そう思うと久隆は少しだけ肩の荷が下りた気がした。
だが、まだまだ久隆の役割は残っている。
残っている敵の排除。久隆はフルフルの付呪の効果が残っているうちに片付けるつもりだった。残り数十体。久隆は斧を持ってダンジョンの中を駆け抜ける。
一番厄介なのは鎧オーガだが、鎧オークもなかなかに面倒だ。通常オークも人を殺せる棍棒を手にしている。一瞬の油断が命取りとなる。
久隆は踊るように、流れるようにステップを踏みながらオークの首を割き、腎臓を潰し、頭を叩き割る。テンポよくスムーズに。立ち止まれば攻撃の格好の標的となるし、これだけの数を捌き切れない。
通常オークはほぼ一瞬で壊滅し、鎧オークも続いて壊滅し、厄介な鎧オーガが残る。
久隆は9体の鎧オーガと対峙し、攻撃の隙を窺う。
すると、鎧オーガが突撃を開始した。
「睨み合いはお嫌いか」
久隆は苦笑いを浮かべると、鎧オーガも想像していなかった速度で懐に飛び込んだ。そして、そのまま斧を頭に叩きつける。兜はフルフルの付呪で脆くなっており、久隆の斧はオーガの頭蓋骨を砕いた。
そして、次の獲物の懐に飛び込む。
この階層の魔物の武器は棍棒で、槍やハルバードに比べればさほどリーチは長くない。それだけ懐にも飛び込みやすい。久隆は首を切り裂き、人体で急所と思われる場所を次々に攻撃し、オーガを次々に倒していく。
最後の一体が倒れたときには流石の久隆も息を切らし、汗を流していた。
「流石にこの数はくたびれるな」
「でも、でも、やってのけたの!」
「ああ。3人でやってのけた」
レヴィアが嬉しそうな顔をするのに久隆が斧の刃こぼれがないか確認しつつ、返事を返した。斧は全く刃こぼれしていない。いくらフルフルの付呪でオーガの鎧が脆くなっていたにせよ、鎧を砕いたり、頭蓋骨を叩き割っていれば刃こぼれはしそうなものだが。
「一応、後で研いでおくか」
一連の戦闘の終結後、地図を作成し終えると、久隆たちは第7階層に続く階段の前に立った。ここから残り3階層進めば、マンティコアの待ち構える10階層だ。
「久隆。そろそろなのね」
「ああ。罠が効いてくれることを祈ろう。少なくとも全く無傷とはいかないはずだ」
罠も第6階層の階段まで運び着実にダンジョン攻略を進めていく久隆たち。
「さて、そろそろ昼飯にするか」
久隆は第7階層までの階段を前にそう告げたのだった。
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