81階層の戦い
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──81階層の戦い
久隆たちは改めて準備を整えてから、80階層以降に挑むことになった。
「では、フルフル。先にリザードシャーマンを仕留め切れなかったときは頼む」
「了解です」
フルフルの負担はあまり増やしたくはない。
ならばリザードシャーマンを先手必勝で先に片づけてしまえばいい。
久隆たちはゴブリンシャーマンなどを相手にしたときのように、隠密で行動し、敵の不意を打ち、リザードシャーマンを真っ先に仕留めてしまうつもりだった。
そうすればフルフルの負担は防具劣化の魔法だけに留まる。
それが失敗した場合は、フルフルに即座に対抗魔法をかけてもらい、リザードシャーマンが味方の戦力を上昇させるのを防がなければならない。
ただ、今のところ完全にリザードシャーマンの不意を打てるのは、サクラぐらいである。久隆が接近できればいいのだが、リザードマンの数や、魔物たちのこれまでの行動パターンからして、リザードシャーマンも味方に守られていると思われる。
護衛のリザードマンを隠密で始末していければいいのだが、今回のリザードマンは防具に身を包んでいる。ある程度は排除できても、完全排除は不可能だろう。
そこで久隆はチームをふたつにわけた。
打撃チームは久隆、レヴィア、フルフル。支援チームはサクラ、マルコシア、フォルネウス。打撃チームが敵を始末していき、道を作ると同時に敵の注意を引き、その隙に支援チームがリザードシャーマンを仕留める。
無線を使うのは久隆とサクラのみ。
上手くいけば、この方法で80階層以降は攻略していこうと考えている。
「打撃チーム、行動開始」
『支援チーム、了解』
作戦開始だ。
事前に無人地上車両でリザードマンたちの位置は把握している。今回はひとつの群れがリザードシャーマンを守るように固まっている。数はリザードシャーマン1体と鎧リザードマン12体。
打撃チームは左から群れに迫り、支援チームは右から群れに迫る。
久隆たち打撃チームは隠密を維持しながら敵の群れに近づいていく。
「見えた。リザードマンだ。数は3体。レヴィアとフルフルは俺がしくじるまで待機」
「分かったの」
久隆はリザードマンの背中にゆっくりと忍び寄り、その首に斧を突き立てた。1体目のリザードマンはそれで仕留められる。
久隆はそのまま2体目に挑む。2体目も警告を発するまもなく首を刎ねられた。最後の3体目も何もできないままに首を刎ね飛ばされた。
3体のリザードマンを瞬く間に仕留めた久隆は敵の動きを探る。
僅かにだが、久隆たちの方向に向かってくるリザードマンたちがいる。
「よし。釣れた。このまま仕留めていくぞ」
まずは2体のリザードマンが現れ、2体とも久隆に首を刎ね飛ばされた。
リザードマンの群れは確実に久隆たちに迫っている。
「打撃チームより支援チーム。リザードシャーマンの排除は可能か?」
『まもなく可能です』
「了解。時間を稼ぐ」
また2体のリザードマンがやってきて、久隆に殺される。
『支援チームより打撃チーム。狙撃可能』
「やれ」
『目標排除』
「よし」
サクラがリザードシャーマンを仕留めた。もう隠密の必要はない。
「支援チームと合流し、残敵を全て排除する。いくぞ」
「了解なの!」
リザードマンたちはリザードシャーマンが狙撃されるところを目撃したのか、殺気だって行動を始めている。久隆たちの方にもリザードマンの群れが押し寄せる。
「支援チーム、合流します!」
「フルフル、付呪を!」
久隆が叫ぶ。
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
フルフルが詠唱し、リザードマンたちの鱗や防具がみるみる劣化していく。
「いいぞ。一気に叩く。次はレヴィア!」
「『降り注げ、氷の槍!』」
レヴィアが詠唱し、リザードマンたちが氷の槍で串刺しにされる。
「『爆散せよ、炎の花!』」
マルコシアはサクラの指揮下で魔法を行使していた。
敵が魔法で弱ったところに久隆とフォルネウスが殴り込む。
勝負は一気に片が付いた。
劣化した鎧はリザードマンたちにとってただの重しでしかなく、攻撃は鈍り、久隆とフォルネウスは敵の弱点を突いて確実に叩き潰していった。
1体、また1体とリザードマンがなすすべなく倒れていき、ついにリザードマンは全滅してしまった。彼らは上層のリザードマンたちよりも脆弱だった。
「片付いたな」
「ええ。やりましたね」
久隆とフルフルがほっと安堵の息を吐く。
「この戦術はある程度の群れには通じるだろう。だが、群れがふたつある場合や、群れの規模が大きな場合はちょっとばかり面倒なことになるな……」
久隆は安堵しつつも、これから先のことを考えていた。
これから先、鎧リザードマンの数は増えるだろう。ゴブリンシャーマンがそうであったようにリザードシャーマンの数も増えるだろう。決定的なのはモンスターハウスだ。あそこにどれだけのリザードマンとリザードシャーマンがいるのか分からな。
今は確かに相手を殲滅し、勝利した。
だが、これからはどうなるか分からない。
これからも同じように進めるのか? そう簡単には行かないだろう。
久隆が恐れているのはフルフルの魔力の増減による疲労もあるが、支援チームの火力の低さもある。前衛のフォルネウスはなんとか普通のリザードマンならば押さえられるが、攻撃には決定打に欠ける。サクラの狙撃は射撃間隔が開く。マルコシアの魔法はリザードマンにはあまり有効ではない。
打撃チームがもっとも火力の高い久隆とレヴィアを抱えているためそうなってしまうのだ。もし、支援チームがリザードマン──それも付呪で強化されたリザードマンに襲われてしまった場合、早急に救助に向かわなければならない。
「サクラ。必ず隠密行動を維持してくれ。そちらの脆弱な点は分かるだろう?」
「ええ。分かっています。注意を払うつもりです」
サクラも危険性については理解していた。
「久隆、久隆。次の階層に行かないの?」
「待ってくれ。万が一の場合をシミュレーションしている」
支援チームが襲われた場合、フルフルが倒れた場合、そういうものを久隆は予備計画に含めておく。危機管理においては最悪を想定するのが基本だ。久隆は最悪も最悪の状況を想定し、それに対する行動計画を考えた。
最悪の場合は久隆が単独でやれるところまでやるしかない。レヴィアの魔法もある程度は効果を及ぼすだろう。サクラには戦線を維持するのではなく、撤退を指示する。
「フルフル。聞いておきたいのだが、付呪というのはかけた魔物が死んだ後も残るのか? それとも消えてしまうのか?」
「身体能力ブーストなどの付呪は消えます。防具劣化などは不可逆な付呪です」
「そうか。分かった」
久隆は単身でリザードシャーマンを倒すことも考えておく。
「では、次の階層に向かおう」
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